▽ それが愛か恋として・2
「紋土くんッ!!」
───戸叶さんは力任せに大和田クンに抱きついた。
助走がつけられたそれは抱きつくというより、飛びかかるって方が正しいのかもしれないけど……ここは抱きついたって表現にしておきたかった。
「おまっ……痛ぇだろうが……ッ!!」
「わっ、ごめん……!」
大和田クンはなんとか戸叶さんを受け止めて、本気半分照れ隠し半分にそんなことを言って。
その言葉をマトモに受け取った戸叶さんは慌てて大和田クンから離れてしまう。
戸叶さんが離れてしまったのを少し悲しそうに目を伏せた大和田クンに、ボクは苦笑を隠せない。
彼の性格上、今更「側にいろ」だの「側にいていい」だなんて言えないんだろう。
戸叶さんと2人きりならまだしも、なにせ今は邪魔者よろしくボクらがいるから……前言撤回が出来るはずない。
「ごめん……まだ、痛い……?」
「い、いや……そんな、痛みは感じねぇし……」
「そ、それって感覚なくなってるだけじゃない?」
「違ぇよッ!!」
戸叶さんを側に置いておきたくても、ボクらがいるという恥ずかしさから大和田クンは素直になれないらしい。
素直じゃなく、それ故に分かりやすい。
だからこそ……桑田クンのような愉快犯に掻き回される。
「大和田が寝ててくれたらその間にオレが戸叶ちゃんの弱いハートゲットしてたのにな〜!」
「なっ……おま、流火に手ェ出したらぶっ殺すぞ!」
「お、大和田君っ……動いちゃダメだよぉ!」
大和田クンが動けないのをいいことに、桑田クンは言いたい放題だ。
実際、不二咲クンがいなければ一発は殴られたんじゃないだろうか。
「大和田ぁ、戸叶ちゃんが好きならハッキリ告った方がいいぞー。……戸叶の好きとお前の好きって絶対違う意味だって」
「うるせぇ放っとけ!!なるようになるから余計なことすんなッ!!」
「大和田っち元気だべ。良かったなぁ、戸叶っち」
「……うんっ!」
戸叶さんはただただ嬉しそうにして、大和田クンを見ている。
確かに大和田クンは凄まじい回復力だった。
さっきまで声を出すのはおろか、呼吸をするのでさえツラそうだったのに……。
戸叶さんがいない間の大和田クンの容態について、ボクの正直な感想を述べてもいいのだとしたら……。
「助からないかも」とボクは思った。
しかし、そこでやはり彼には死ねない理由があった。
戸叶流火。
執念というか……執着というか……。
苦しそうにしていた大和田クンがいきなり「流火ッ!!」なんて叫び起きた時はビックリしたけど……でも、それほど戸叶さんのことしか頭になかったと言う訳で。
彼にとっては自分よりも戸叶さんが優先らしかった。
それは、執着や依存などとは違うものだ。
「……本当に良かったぁ。……私に依存してくれてて、助かった」
戸叶さんはそこまで辿り着けていないらしいが。
「それは違うよ」
「……?苗木くん、どうしたの急に?」
桑田クンと同類……ではないが、大概ボクもお節介みたいだった。
「大和田クンのキミに対する感情は“依存”なんかじゃないよ」
「……じゃあ、何?」
「戸叶さん、本当は分かってるんでしょ?」
それは、執着や依存によく似たものだから分かりづらい……むしろ、執着や依存とは紙一重な状態でそれは成り立っているから、誤解しやすいのかもしれないけど。
でも、戸叶さんはしっかりと大和田クンの気持ちを理解しているはずだ。
理解した上で何も言わないのは……怖いのかもしれない。
そうなってしまえば、もう幼なじみではいられなくなるから。
「大和田クンは、キミのことが“好き”なんだよ」
「……私だって好きだよ」
「戸叶さんの好きはまた違うでしょ?」
「……そうだね」
やはり戸叶さんはちゃんと大和田クンの想いを理解しているみたいだった。
「彼が私のこと……その、そういう意味で好きなんだっていうのは伝わった。心苦しいくらい。私を“見てた”って言うのは、告白みたいなものなんでしょ……?」
戸叶さんは何か腑に落ちないようで、遠い目をした。
「戸叶さん……?」
「……私のどこがいいのかなんて、サッパリだけど」
「大和田クン本人に聞いてみたら?」
「どうせ教えてくれないよ」
彼女も大概素直じゃないらしい。
それとも……ボクらか?ボクらがいるからダメなのか?
……でも、2人きりにして、2人の関係が発展するなんてボクには到底思えないしな……。
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