緋の希望絵画 | ナノ

▽ 磨り硝子・5



…消えないまま、ここに立っている訳だ。

現在に至りまして、入学式当日。

「スゲーな」
「おっきいねー」

私は、何でもないように笑っている。
が、嫌な汗がダラダラと出ていらっしゃる。
大和田くんは大して緊張してないように見えた。
こういうトコ、ほんとにすごい。
上に立つに相応しい人間って云うんだろう。

『新入生は8時までに玄関ホールに集合』だっけ。
今は…7時40分。ちょうどいいくらいかな?

「ねぇ、早くいこう」
「なんだよ。お前、なんだかんだ楽しみにしてんのか」
「違うよ!初日から遅刻とかしたくないだけ!」

―――この時、私は無意識に予感していたのかもしれない。

汗ばんだ手は、緊張のものではなかった。
悪い予兆に似ているものだ。
それに私は、気づかなかった訳が。

「……えっ?」

玄関ホールに足を踏み入れた瞬間。
それが、絶望への最初の一歩。

「な、に……?」

目の前の景色は歪んで、マーブル。
いろんな色が混ざる。

色々。

色々。

しろとくろ。

ぐるぐる。

ぐるぐるぐるぐる。

そして。

暗転。

こうして、日常にさようなら。
そして、非日常にこんにちは。

ただひとつ言えるのは。
ここに来たおかげで私は、或いは彼は、変われたのかもしれないってことだ。

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