神隠し

念能力者になってから日常がガラリと大きく変わってしまった!ということもなく、相変わらずゴミを拾い続ける日々が続いている。しかしだからといって何もない日々というわけではない。というか今、個人的非常事態が絶賛発生中である。親友、シズクちゃんが私達の家である教会に帰って来ないのだ。

なんだかんだでもう三日経っている。放浪癖のある彼女がふらりと消えるのは別に珍しいことじゃない。でも大抵はその日の夜までには帰って来ていた。流石に心配になってゴミ拾いついでに探してみるも、シズクちゃんは見当たらなかった。大人組は「じきに帰ってくる」と事を楽観視しているようだが、私や双子は素直にそう思えなかった。確かにシズクちゃんは強い。もうそこら辺の大人などケチョンケチョンにできるくらいに。そんなこと分かりきったことなのに、何かややこしいことに巻き込まれているのではないか。そんな言い知れぬ不安が胸の中で渦巻いていた。

練を持続させる訓練をしてシズクちゃんが隣にいない寂しさを紛らわせていると、双子から召集がかかった。

「神隠し?」

「えぇ、最近北区のいたるところで起こっているんですって」

双子が持ってきた情報は、北区で起こっている怪事件のことについてだった。

「私達が知ってる限りでも結構な人数が…しかも子供ばかりがいなくなっているのよ」

「気づかない?最近私達と同じ年頃の子を見なくなったって」

…確かに、言われてみればそんな気がしないこともない。教会の外にも子供はわんさかいる。ゴミを拾う時に色々雑談したり遊んだりするが、最近それも少なくなってきたような。なっていないような。

「私やエシラと仲の良い子がいるんだけど、その子からさっき聞いたのよ。神隠しされる瞬間の話を」

その子供(名前をリナというらしい)はここから少し遠い場所でキラキラした石ころを見つけ、それらを漁ってるうちに日が暮れた。泣く泣く切り上げて寝床に戻る道中、一人の小さな子供を見つけたと思ったらその子供の背後に大きな影が突如現れて、子供ごと忽然と消えてしまった。

というのが双子が聞いた話、らしい。


「….それ、ただ単に早すぎて見えなかったってだけじゃないの?」

「違うわよ!ここの子供達の視力が異常に良いのは貴女も身をもって知ってるでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど。じゃあどういう仕組みなわけ?」

そう言えばこれ見よがしにため息を吐かれた。一人でもなんだかムカつくのに、動作がシンクロしてて倍腹立つ。

「シロナ貴女、少し抜けてるとは思ったけどここまでとはね」

「そーゆーのいいから早く言ってよ。勿体ぶらないで」

はあぁ、と再び大きなため息を吐かれた。

「念よ。念が関係してる可能性が高いわ」

「おそらく念で瞬間移動でもしてるんでしょう。それで子供達を片っ端から攫ってるんだわ」

「神隠しなんて言われてるけど、単なる人攫いね。シズクがいなくなったのもきっとそれよ」

「なるほど….」

そうだ、すっかり見落としてた。念があるじゃん。瞬間移動は放出系が得意ってマリア先生が言っていた気がする。一般人を相手にすれば敵無しだけど、念能力者相手だと話は別。念アリでも十分強いシズクちゃんだけど、敵無しと言い切れるほどではない。

「で、どうするの?」

「今夜教会を抜け出して犯人を見つけに行くに決まってるでしょ、ねぇアリス」

「えぇエシラ、シロナも勿論行くわよね?」

「私達だけで行くの!?やめとこうよ。先生やアビにも付いて行ってもらった方が」

「今回は先生はあてにならないわ。笑顔で駄目よって跳ね返されるに決まってるでしょ」

「それに本当に行かなくていいの?シロナ貴女シズクととりわけ仲が良かったじゃない。友達を助けるのは当然のことじゃないのかしら?」

「ぐっ….で、でも、シズクちゃんがその神隠しと関係あるとは限らないし、」

「何を寝ぼけたことを。そうに決まってるわ。あのシズクを連れて行けるのは念能力者しか思い当たらないもの」

「それにたとえシズクが無関係だったとしても、瞬間移動ができる念能力者よ?便利そうじゃない。借りちゃいなさいよ。滅多にない機会だわ」

『さぁ、どうするの?』

鋭く光るアメジストの瞳。二人の威圧感が辺りの空間を満たしていく。もう私には反論の余地が無かった。

「….わかった。行くよ、行きます、行かせてください」

カションと間抜けな音を立てて私の頭の中の天秤が傾いたのだった。