三男は混乱する

俺の家は結構な大家族だ。男ばっかりの兄弟の中に1人、姉がいる。名前はウルル。俺より5つほど歳上で、兄弟の中では唯一俺と同じ髪色。


姉貴は変だった。俺たちは殺すのが当たり前だし、親にも兄貴にもそう教えられてきた。けど姉貴は殺しを酷く嫌い、家業もせずに、ここククルーマウンテンから出ようとはしなかった。かと言って何もしないというわけではなく、訓練は俺達他の兄弟と同じようにしていた。

姉貴は強い。しかしその強いというのは、姉貴が相手を傷つける、殺すという覚悟が伴って初めて実証されるものだと俺は思う。普段は攻撃の一つ一つが甘くて、俺でも簡単に避けられるし、隙も多いから反撃もできる。戦闘の才能はあるが殺し屋として致命的な欠点を持つ姉貴に、親父達は酷く落胆していたようだった。姉貴はこの家では異質だったんだ。

そんな姉貴だが、俺は嫌いどころか家族の中で一番心を許している。

姉貴は優しかった。飯に入ってる毒が強すぎて食べられなかった時、あとでこっそりサンドイッチを作って食べさせてくれたり、なにかと優しく頭を撫でてくれたり、怖い夢を見た夜は一緒に寝たりしてくれた。親父と兄貴とカルトは何考えてるか分かんねーし、お袋とブタ君はうるせーから、必然的に姉貴が心の拠り所になっていたのだ。他の家族には言えないことでも、姉貴になら相談できた。こんな人殺しの集団の中で、どっぷりと赤黒く染まった人間達の中で、姉貴はただ一人、天使みたいに真っ白だった。

俺が密かにその白さを求めていたからなのかもしれない。唯一俺と同じ銀髪だったからなのかもしれない。姉貴を慕う理由なんて、少し考えれば幾らでも出てくる。
そして俺が慕うように、姉貴もまた俺を可愛がってくれていた。他の家族がストイックだった分、姉貴は砂糖菓子のように甘かった。姉貴がいてくれたから、こんな息の詰まりそうな家でもなんとか呼吸ができていた。


けどさっき、姉貴は俺を置いてこの家を出て行った。


姉貴が門の近くまで出てくるなんて珍しいと思って話しかけると、姉貴の頭からいきなりウサギの耳が生えたのだ。そして、ごめんねと言い俺のほっぺたにちゅーをしてぴょーんと門を跳び越えていった。まるでウサギのように。そう、姉貴は実はウサギ型の魔獣だったと言うのだ。

俺はまだ信じられないでいた。当たり前だ。ブタくんのゲームじゃあるまいし、そんな空想じみたこと信じろと言っても無理がある。でも確かに耳が生えていた。紛れも無い、銀色のうさぎの耳が。いくらゾルディックが他の家より特殊だからって、こんなことあっていいのか。
信じられないという思いと同時に、こうして家から出て行くその瞬間まで打ち明けてくれなかったことに憤りを感じた。
なぜ姉貴はこんな状況になるまで俺に打ち明けてくれなかったんだろう。俺に内緒で家を出ようとしていたのだろう。俺は姉貴に信頼されてなかった?俺だけだったのだろうか、心を許していたのは。

今までの姉貴との思い出が走馬灯のように浮かんでは消え、浮かんでは消えていった。
姉貴の言う事は真実で、俺達は家族じゃなくて、姉貴はウサギで…。本当に故郷へ帰って行ったのだろうか。まさかもう一生ここには帰ってこない?

…いや、ここであれこれ考えてもどうにもならない。一刻も早く、ゴトーやツボネ、ブタ君に知らせねーと!