奇術師の果実探し

それは偶然だった。

仕事を終える度に姿をくらます団長の行方を今回こそは掴もうと意気込んでいたが、また上手いこと撒かれてしまった。流石僕が見込んだ極上の果実だけれど、あまり焦らされるのも困りものだ。

あの人を見つけられなかったことによって自分の中で中途半端に燻ったこの衝動をどうにかしたいと思い町中を歩いていると、小さな影が目にとまった。パーカーに短パン、スニーカーという出で立ちの一見どこにでもいそうな少女だ。
しかしその小さな体の周りにはぴったりと淀みのない綺麗なオーラがとどまっているし、凝をして見れば癖っ毛な銀髪からひょっこりと兎の耳が生えており明らかに普通ではないことが分かる。見たところ60点と、あの人に比べれば点は低いが、そこら辺の1点にもならない人間を殺るより余程楽しめそうだ。

ちょうどいい、あのコを殺ってこの溜まった欲を発散させてしまおう。そう決めて彼女のあとをついて行くことにした。

するとどうだろう、まるで後ろに目があるんじゃないかと思うくらい僕の追跡をかわしていった。いや、後ろに目が付いていても不可能だ。ここは人混みの中だし、第一ここからあのコまで大分離れている。まるで僕の一挙一動が読まれているような、そんな感じ。円を使っている感じでもなさそうだ。

じゃあちょっと本気になろうかなと絶をしても結果は同じ。するっと逃げられてしまう。彼女の半径100m以内にすら未だ到達していない。最早感度がいいというレベルを遥かに超えている。もしかするとこの異常な探知能力があのコの念なのかもしれない。諦めようかと思ったが、あのくらいのクラスがいるんだったら是非闘ってみたいし、彼女には何かあると自身の勘が告げていた。それを信じ、そのまま尾行を続行することにした。こういう時の勘は大体当たることを知っている。


そこで最大限にまで気配を消して接近を試みたが、やはりあの少女には分かってしまうらしい。時折後ろを向いて僕を探そうと視線を動かしている。こちらを警戒しているようだ。

結局ろくに近づけないままでいると、そういえば明後日にはイルミと会う約束していることを思い出した。いよいよここらが潮時か。半ば投げやりに纏を解除してそこら辺の一般人と同じようにオーラを垂れ流しにしてみたら、なんとこれがアタリだった。今までの労力はなんだったんだと思う程、いとも容易く彼女に近づくことができたのだ。

そこで分かったことは、彼女は念能力者に異常なまでの警戒心を抱いていること。何故かは分からないが、念能力者から逃げている、または戦いたくないと思っていると考えるのが妥当だろう。だからこそ絶をしていてもこちらの動きを読めるような念にしたのかもしれない。恐らく、あの兎の耳で。

これで接触出来るのも時間の問題となった矢先、いきなり彼女が走り出した。気づかれたか、そう思っていたがどうやら違うらしい。 先程まで彼女の近くにいた少年に話を聞き、あとを追った。


そこから先は凄まじかった。


少女から溢れるオーラ、手刀の打ち込み方、威力、全てが自分の予想をはるかに上回るものだったのだ。あんなつまらない能力にしたのが激しく悔やまれるほどに。しかし彼女のそれは自分の気持ちを昂らせるのには充分だった。これは思わぬところでイイ果実と巡り会えたものだ。べろりと唇を舐めた。

▽ ▲ ▽


「…という感じで、ずっと後をつけてたんだ」

こうしてようやく対面できたわけだが、目の前にいる少女は思っていたよりずっと小さく、そして愛らしかった。怯えているのか、透き通ったセレスティアンブルーの瞳の縁には薄っすらと涙が溜まっている。そのか弱そうな見た目と警戒するように迸るオーラの質のギャップに益々下腹部に熱が集まっていくのを感じた。

「嗚呼、イイねェ…イイよ、君」

クロロ程じゃ無いケド、結構焦らされたからね。果実は熟してから食べるのが自身の流儀だが、今回ばかりは欲を抑えられそうにない。味見くらいは許されるだろう。美味しくなりそうだったら育つまで待てばいいし、そうでなければ今ここで食べ尽くせばいいだけの話だ。


───僕を失望させないでくれよ。


欲求を満たすべくトランプを構えた。