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sphenosの溜まり場は港にある大きな倉庫の一角。
部活に入っているわけでもない私は放課後何もすることも無くそこに顔を出すしかなかった。
総長と幹部しか入室できまいそのVIP部屋のドアを開けると大きな黒い二人がけのソファーの上、sphenosの総長神谷健太と、健太が溺愛している彼女の朝海が物の見事に重なっていた。
「ねぇね、今危険!!…あー遅かった。兄貴!」
私の後ろ、背中に抱きつくようにひょっこり顔を出したのは末っ子のマサ。
「…あ、しぇんぱい!」
「相変わらず早いなぁ、ねぇねは。」
うちの長男で私の弟でもある健太がムクッと起き上がった。
「ここんとこ忙しかったからちゃんとヤッてねぇの俺ら。マサ、ねぇねの相手頼むわ。」
あのやろ。堂々とヤッてないって言いやがって。イライラ感満載で私の手を取る末っ子のマサは嬉しそうで、その笑顔は単純に可愛いかった。
「忙しかったって、なんかあんの?」
「ないない。兄貴が勝手に忙しくしとっただけやん。」
…関西弁の男は3割増でかっこよく見えるって私がボヤいたせいか、この末っ子マサは簡単にそのイントネーションを取得しつつある。マサの関西弁は心地がいい。
「ふーん。ならいいけど。」
「安心しい。ねぇねのことは俺が守ったる。」
できれば嘉くんに守ってもらいたい!なんて無邪気なマサの笑顔の前では口にできやしない。
この界隈で有名な神谷三姉弟。
とはいえ、みんなが知っているのは健太とマサだけで。その美顔兄弟に姉が一人いるって程度。
この界隈を牛耳っているヤンキーが弟だなんて知られたら、みんな怖がって近寄って来ない。だから今まで極力黙ってきた。
ゆえに、嘉くんの耳には絶対に入れたくない情報で、弟達の事を今も全力で隠しているんだ。
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