▼ 私たちの関係
「なんて奴だ、全くネコは!!!」
目の前でネクタイを緩めて社内カフェにある大きなソファーに大股開いて座るこの男、片岡直人。人材育成部の部長で若きエースなんて言われて、社長の五十嵐にも一目置かれている存在。ゆえに女性社員からの狙いも多く、社交的かつポジティブな彼は社内でも激しく人気があった。
がしかし、その実態はそう…
「ゆき乃と大違い!ほんっとネコの奴、ゆき乃の爪の垢でも飲めばいい!!」
私、保科ゆき乃にベタ惚れのデレ男。モテるわりにその恋心に気づかない鈍感さは見ていて少々可愛いくらいで。人材育成部部長の名にかけて社内風紀に目を光らせていたんだ。
「ふふ、ネコにまた何されたの?」
頬杖をついて直人を見つめる私に大きく溜息をつくと、クイクイって私の首に腕をかけて顔を引き寄せた。
「ネコの奴、会議中にカミケンの握ってやがって、」
キョトンと直人を見る私にもう一度盛大な溜息をついた。直人の言ってる意味が分からず「握ってた?何を?」そう聞くと、真っ赤になって唾を飲み込んだんだ。
その反応を見てまさかと思うわけで。
ポンっと直人の太腿に手を添えると思いっきりつぶらな一重を見開いた。そのままスススっと直人の足の付け根に向かって手をゆっくりと動かすと堪えきれずって感じ直人の手が私の上に重なった。
「ゆき乃、それじゃネコと一緒、」
恥ずかしそうにそう答える直人に爆笑。
「いやゆき乃がいいならいつでも俺は受け止めるけど、さすがに会社では。」
頭を抱えてそう言う直人は、長年付き合っていた女と別れて私に「好きだ」と言ってくれた。
信じていない訳じゃない。ただちょっと前に進めないだけなんだ、本気の恋って奴に。
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