08.一緒に帰ろう
山田さんがレースを見に来てくれた
いつでもオレは勝つこと以外思いつかないから、誰に応援されても同じことで
でも山田さんが見てると思うと不思議と気合が入るもので
単純な思考回路だなと自分に呆れる
案の定、オレは優勝した
その時に見た山田さんの笑顔が嬉しくて、指をさしてみれば今度は打って変わって顔を赤くして固まる…この反応がたまらない
満足してレースを終えて
今日は現地で自由解散なので山田さんに一緒帰ろうと誘った
山田さんにどうやってここまで来たかと聞いたら徒歩だと言うのでオレは自転車を押して歩いた
今日のレースの感想を大いに語ってくれて
いつもより興奮気味に話す山田さんは新鮮だ
かっこ良かっただろう?と冗談めかして聞いたつもりだったのに全力で「うん!」と言われて不覚にも照れてしまった
普段ならそうだろう!と笑う所なのにそれが出来なくて心の中で少し戸惑う
だけどそれを見せないようにオレは顔を作った
いつもだったらさっさと自転車で通り過ぎてしまうこの道もゆっくり歩いてみると色んな景色が見えるものだと気づく
そして今は隣に山田さんがいて、前から何度も思っている事だが彼女の声も心地よくて、今日は優勝もしたし最高の気分だ
「東堂くんってほかの人となんか違うよね」
その言葉に何処がと問う
「なんか静かな走りなのに凄く速くて…初めて見た時もびっくりしたけど改めて思ったよ。」
そしてそれがとても綺麗だと思ったんだ
と自分の事のような嬉しそうな顔で言うもんだからオレは今日何度目かわからない照れ隠しをしたのだった
かっこいい、美しい、素敵
賛美の言葉は沢山言われるからなれているはずなのに、彼女に言われるのはやはり別のようで
不思議な気持ちでいっぱいだ
これが何かはそろそろ気付いているのかもしれない…が
もう少しこのままで、とらしくない臆病な部分が顔を覗かせて戸惑いを誤魔化すかのようにオレは山田さんにしょうもない話を色々したのだった
「あ、家もうそこなんだ」
「そうか。今日はありがとう」
「ううん、こっちがありがとう!送って貰ってしまったし」
「通り道だから変わらんよ。色々話せて楽しかった。また明日、学校で」
「うん、またね」
ほんの数十分の時間だったけど、今までにない位色んな話が出来たし何となくもっと山田さんを知れた気がして嬉しかった
名残惜しい気持ちを抑えて、最後に彼女の頭を軽く撫でる
そうしたらやはり山田さんは赤い顔で目を泳がせるから、やはりこの顔はいいなと思ってしまう自分に苦笑いをした
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