小説 | ナノ



03
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バレットたちと合流して車両内を歩く

普通車両に移ったはいいものの、他の乗客からの視線は痛いものだった

体格もよく強面のバレットだけでも目立つのに、背中に大剣を担いだクラウドもいるのだから目立つことこのうえない

ユリアはなんとか理由をつけて彼らとは別の車両に留まった

途中、彼らのいる車両から三人の神羅社員が逃げるようにこちらに移ってきたのを見たときは、本当に行かなくてよかったと心から思った…





しばらくすると列車は減速をはじめ、駅に停車した

アバランチのメンバーに続いて列車を降り、駅のホームを見回す

ホームには乗客の家族や友人らが迎えに来ている

壱番魔晄炉の爆破を聞いて心配していたのだろう、待ち人の顔が見えると歓声をあげる人もいた

その様子をぼんやりと眺めていると、バレットが一喝する声が耳に飛び込んできた



バレット:「お前ら!…ぴーひゃら喋るんじゃねえ。捕まるぞ?」



先程までまわりに乗じて歓声を上げていたウェッジ、ビッグス、ジェシーはハッとして口を噤む

作戦が成功して無事に帰還できた喜び、開放感、高揚感ではしゃぎすぎたと反省しているのが表情でわかる

バレットもそこは理解しているようで、口調を優しくして付け加えた



バレット:「次の作戦まで自由行動。最高にうまいもんでも食っとけ」



その言葉に三人はパッと表情を明るくして頷くと、それぞれ街の方に去っていった

それをバレットは微笑みながら見送る

と、こちらを振り返ったかと思うと短く告げた



バレット:「アジトでな」


ユリア:「アジト…?」


バレット:「忘れたか?店の名は”セブンスヘブン”」



あぁ、ティファのいるお店か

ユリアが納得したように頷くと、バレットはクラウドの方に目をやった



バレット:「ティファに顔見せて、安心させてやれ」



そう言ってバレットも街に向けて駆け出す

“マリーン!父ちゃん、帰ったぞー!!”と叫びながら走っていく様はなんだか面白かった



ユリア:「ボクたちも行こうか」


クラウド:「あぁ」



クラウドを促してセブンスヘブンへと向かう

そこにはアバランチの一員で、クラウドの同郷の幼馴染であるティファがいる

この作戦に向かうとき、“気を付けてね”と心配そうにしていた彼女の顔が浮かぶ

きっとクラウドの安否を気にしているだろうから早く連れてってあげないと!

そう思いながら足早に歩いていると、掲示板を見ながら大きな溜息を吐いている男性が目に入った

男性の目線の先にはアバランチのポスターが貼られている



「“魔晄は星を巡る血”って言われてもなぁ?」



そう言ってポスターに手をかけて掲示板から剥がす

その口調や手つきからはうんざりしている様子が伝わってきた



「剥がしても剥がしても、すぐ元通り。妄想じみた主張はともかく、しつこさには頭が下がるよ」



こちらを振り返った男性の顔は苦笑を浮かべている

…ここの住人たちはアバランチの活動をあまりよく思ってないのか?

反応に困っていると男性はふっと上を見上げた



「見ろよ、あの美しい鉄骨。…たまんねぇな」



どこか皮肉を感じるその言葉にユリアとクラウドも倣って上を見上げる

ここ、スラム街からは空が見えない

あの鉄骨…ミッドガルのプレートがここにとっての空なのだ

美しい…か……

ユリアが男性の皮肉に納得していると、ふいに視界の端でプレートの一部が光った



ユリア:「え?」



そちらに視線を向けると、突然プレートは爆発し、煙を上げる

次いで崩れた鉄骨がもの凄いスピードでこちらに向かって落下してきていた



ユリア:「っわ…!」



思わず顔を腕で覆う

…が、来るはずの衝撃はやって来ない



「おいあんた、どうした?」



男性の声に我に返り、まわりを見回す

街には特に何の変わりもない

隣にいるクラウドも身構えていたようで、驚きの表情を浮かべて再び上を見上げていた

プレートにも爆発した様子なんて見られないし、崩れた形跡もない

…今のはいったい……また幻覚…?

考え込むユリアをよそに、男性は心配そうにクラウドの顔を覗き込む

が、その目を見た瞬間に表情を引きつらせた



「魔晄中毒かよ…」


ユリア:「っ!おい、そういう言い方…!」



男性の言い方に少しムッときて言い返そうとした時、その背後から記憶に新しい物体が二つ躍り出た

それは黒いローブを着た、霧のような浮遊体

八番街で見たそいつらはこちらのまわりをぐるぐると飛び回るとそのまま街の方へ消え去った



クラウド:「またあいつか…」


ユリア:「ここでも会うなんて…なんかついて来てるみたいで、ちょっと嫌だな」



この街にいる間にまた会うかもしれないのかな…

そう考えると嫌な気持ちは増すばかりだ

…何もないことを願おう

不審そうな表情を浮かべている男性に背を向け、ユリアは再び街に向かって歩き出した


しばらく歩くと、街への入口が見えてきた



ユリア:「やっぱすごい…」



大型テレビを囲む人、音楽に合わせて踊る人、酒を飲みかわす人

あちこちから感じる熱気に呆気に取られていると目の前がぱっと開けた

ひしめく街の真ん中に大きく構えている酒場、セブンスヘブン

その店の前の階段にはティファと小さな少女が座っていた

と、ティファはこちらに気が付くと“あっ”と声を上げて隣でうとうとしている少女を揺らす



ティファ:「マリン」


マリン:「んん……」



呼ばれたマリンは眠そうに目をこすりながらもこちらに視線を向ける

その中に自分の家族を見つけると、ぱぁっと笑顔を咲かせた



マリン:「父ちゃん、おかえりなさいっ!」


バレット:「ただいまぁ!」



娘の出迎えに破顔しながら片腕でその娘を抱き上げる

“いい子にしてたかぁ?”と問いかけるバレットはもうアバランチのリーダーという風格はなく、優しい父親だった

そのまま店の中に入っていくバレットを見送っているとティファがこちらに歩み寄ってきて微笑んだ



ティファ:「二人ともおつかれさまっ」


クラウド:「うん」


ティファ:「疲れたでしょ?中、入って?」



軽く手招きして歩き出すティファにクラウドが続く

と、ユリアはポン、と手を叩いた



ユリア:「そうだ。ちょっとボク、買い物してくる」


クラウド:「は?」


ティファ:「え!今?」


ユリア:「うん、今。だからクラウド、先に報酬の話とか進めておいて」


クラウド:「でも、」
ユリア:「よろしく〜」



何か言いたげなクラウドの視線を振り切り、露店の方へ駆け出す

露店は夜でも空いているところは多く、相変わらず人で賑わっていた

人混みに混ざりながらそっとセブンスヘブンの方を見やる

二人が何か言葉を交わしながら店内へと入っていったのを見届けてユリアは大きく息を吐いた


クラウド、”これ”買うって知ったら気にしそうだもんなぁ…



ユリア:「なぁ、この辺に白いシャツが売ってるとこあるか?」


「おや、兄ちゃん。洋服ならあっちに売ってるよ」


ユリア:「に……、うん、ありがと…」



近場の露店の店員に教えてもらった方向に歩きながら先程の“兄ちゃん”という言葉を頭の中で反芻する

男っぽく見せているところはあるけれど、自分は本当に男に見えるのだろうか…

うーん、と頭をひねりながらたどり着いた洋服屋で白シャツを購入する

下取りもしてくれるとのことだったので、シャツを取り換えて渡すと店主は軽く目を見開いた



「こりゃあ随分派手に破けたねぇ。ケンカでもしたのか?」


ユリア:「ははっ、そんな感じ」


「ま、若いうちはなんでもやってみるといいさ!毎度あり!」



代金をもらい、店への道のりを歩いているとちょうど店の中からティファとクラウドが出てきたところだった

ティファの表情はどこか微妙そうで、クラウドはなぜか疲れ切ったような呆れたような顔をしている

…何があったのだろう?

疑問を抱きながらもユリアは早足で二人が立っている店の前へと向かった



ティファ:「あ、ユリア。おかえりなさい」


ユリア:「うん、ただいま」



こちらが声をかけるよりも先に気付いたティファが出迎える

その声に気付いたクラウドもユリアの方に顔を向けた



クラウド:「あぁ、戻ってたのか」


ユリア:「今さっきな。報酬の話はできたか?」


クラウド:「いや、それが……」
ティファ:「そうだ!ちょうど二人揃ったし、お金の話の前に、聞く?」



クラウドの言葉を遮るようにして話し出したティファに少し疑問を抱きながらもクラウドとユリアはティファの方に向き直った



ティファ:「この近所にね、アパートがあって部屋が空いてるんだ。しばらくそこに寝泊まりしない?大家さんが私たちの活動に好意的なの。家賃はタダ!」


ユリア:「タダ!?」


クラウド:「あぁ、助かるよ」


ティファ:「じゃあ、こっち」



安心したように微笑んで先導するティファについて歩く

いくらアバランチの活動に好意的だからって家賃タダは……絶対なんかあるだろ…

曰く付きのアパートとか、激狭物件とか?

秘かに覚悟を決めているとティファが歩きながらクラウドを振り返った



ティファ:「上、どんな感じだった?」


クラウド:「まぁ…混乱していたな」


ティファ:「だよね…。ごめんね、巻き込んで。軽率だったって反省してる」



壱番魔晄炉や八番街の被害を聞いたのだろう

予想以上の爆発規模や被害状況を目の当たりにして事の重大さに気付いたようだった

それに対してクラウドは、気にするなという風に首を振る



クラウド:「俺たちのことなら気にするな。これは仕事だ」


ティファ:「うん…わかった」


クラウド:「神羅を憎む気持ちも分かる」


ティファ:「うん……」



そう答えるティファの声はどこか沈んでいた

どうかしたのか、とユリアが声を掛けようとすると今度はユリアの方を振り返った



ティファ:「ね、クラウド、バレットたちとモメなかった?」


ユリア:「え?あーーー…、まぁ…多分?」


クラウド:「おい、モメてはないだろう。…向こうがどう思ったか知らないけどな」



二人のやりとりにティファはくすくす笑いながら”そっか”と頷いた



ティファ:「心配だったんだ。クラウドはケンカばかりしてたからね」


ユリア:「へぇ!結構やんちゃしてたんだな!」


クラウド:「そうだったかもな…」



どこか懐かしむようなクラウドに笑みを浮かべると、ティファはまた表情を引き締めた



ティファ:「テレビに映ってた八番街、映画みたいだった…」


クラウド:「ニュース番組も神羅が作ってる。やつらは平気で嘘も垂れ流す」



少し怯えている様子のティファを気遣ったのか、気にするなと言いたかったのだろうがティファはそう捉えなかった



ティファ:「っじゃあ、あれも嘘だよね?」



期待を込めた眼差しを向けられ、クラウドは一瞬言葉に詰まる

その変わりにユリアが口を開いた



ユリア:「嘘じゃない。あれは本当のことだ」


ティファ:「そっか…」



そのままティファは黙り込む

現実や事実から目を逸らしても何も変わらない

自分のやったことには、責任を持たなくてはいけないんだ…


それからしばらく無言で歩くが、すぐに目の前にアパートが見えてきた

ティファはアパートの前で立ち止まり、建物を指す



ティファ:「ここなの。名前は天望荘。部屋は2階ね」



そう言って外階段をのぼっていくティファに続き、2階へと上がる

バルコニーからはプレートを支えている支柱がよく見え、煌々と光って見えた

と、一番手前のドアの前に立つとティファはこちらを振り返る



ティファ:「この201号室が私の部屋。でも、大抵は店にいるからここは眠るだけ。何もなくて恥ずかしいくらい」



そう言って恥ずかしそうに笑いながら隣のドアへと移動する



ティファ:「この202号室が空いてるの。もちろん大家さんにはクラウドたちのこと話してあるからね」


ユリア:「…たち?」


クラウド:「なんて?」


ティファ:「なんて?…あぁ…同郷の友達と、その友達が部屋を探してるって、それだけ。まずかった?」



心配そうにこちらを覗き込むティファにクラウドは首を振って“いや、いいんだ”と答えると、ティファが背にしている部屋のドアを指差した



クラウド:「そっちは?」


ティファ:「そこは…」



後ろの部屋を振り返りながらなぜか言い淀むティファ

こちらに向き直った表情も少し迷っているようだった



ティファ:「遅いから、明日になったら挨拶しようか」



どこか歯切れの悪いティファに首を傾げるクラウドだが、たしかに時間は遅いからと納得して頷いた



ティファ:「それで、部屋の中の説明なんだけど」

ユリア:「ごめん待って!」



このまま流されてしまいそうだったのでユリアは勢いよく手を挙げる

突然の挙手に驚きながらもティファはユリアに向き直った



ティファ:「どうしたの?ユリア」


ユリア:「…ボクの部屋、なくない?」


ティファ:「あるよ?ここ」



そう言って指されたのは202号室

なんの迷いもなく指し示されたのを見てユリアは頭が痛くなる思いだった



ユリア:「…あのさぁ、ティファ?」



まさか、と思いながらも確認のために問いかける

まさか…いや、まさかだよな?



ユリア:「ボクのこと、男だって思ってる?」


ティファ:「え?」



言われた意味が分からなかったのかキョトンとするティファだったが、徐々に意味を理解したようでその瞳がみるみる大きく見開かれていった



ティファ:「あ、嘘…っ!私ってば…!!えっ、え…?!」



あぁ、やっぱり…

慌てふためくティファの反応にユリアは予想通りだったなと小さく息を吐いた



ティファ:「あの、ごめんなさいっ…クラウドと一緒に仕事してるみたいだし、髪も短いし、私てっきり……でもたしかに体の線は細いなぁとかは思ってて……もう、ちょっと考えればわかることだったよね…」


ユリア:「いいよ、そんなに気にしないで」



露店の店主に言われたことでもう耐性はついている

諦めにも似た笑いを浮かべるとティファは申し訳なさそうにクラウドとユリアを交互に見た



ティファ:「いちおう、部屋の説明するね。中も確認して?」



促されてクラウドは部屋のドアを開ける

部屋の中は簡素で、必要最低限の設備だけが備え付けられていた



ティファ:「とりあえず寝起きするだけなら大丈夫だよね?必要なものは追々」


クラウド:「あぁ、金が必要なんだ。約束は2000だよな?」



部屋の中を見回していたクラウドだったが、本来の目的を思い出したようにくるりとティファの方に向き直る

が、ティファは少し気まずそうに俯いた



ティファ:「…“なんでも屋”の初仕事だから、気持ちよくポーンと払いたいんだけど…」



語尾がだんだん小さくなるティファの声

差し出されたクラウドの掌にそっと置かれた代金をユリアも横から覗き込み、その額に目を見張った



ユリア:「500……」



約束の報酬の四分の一だ

どういうことかとティファを見やると困ったような笑みを向けられた



ティファ:「作戦の準備で物入りだったから、今アバランチにはお金がないの…。でも心配しないで!明日集金すれば確実に払えるから!」


クラウド:「あてにしていいんだな?」


ティファ:「集金を手伝ってくれたらね!」



…ちゃっかりしてるなぁ

その計算高さに感心してユリアが心の中で笑っていると、“あれ?”とティファが首を傾げた



ティファ:「あー、これはまた別の依頼になるのか…」



困ったように呟くティファにユリアは肘でクラウドを小突く

幼馴染が困っているというのに知らんぷりするつもりか、と目で訴えるとクラウドは小さく肩を竦めた



クラウド:「いや、いい。最初の約束の2000で手を打とう。つまり、あと1500だ」


ティファ:「助かる〜!じゃあ、明日お店でね」



安堵の表情を浮かべるとティファは背を向けて部屋の外へと歩いていく

その背中を見送っていると、ドアを閉める手前でティファが振り返った



ティファ:「今日は色々ありがとう。二人とも、おやすみなさい」


ユリア:「うん、おやすみ」



軽く笑みを返すとティファも微笑んでドアを閉めた

室内がしん、と静まり返る

が、その静寂を破ったのはユリアの足音だった

それは先程ティファが出ていったドアに真っすぐ向かっていく



ユリア:「じゃあ、クラウド。ゆっくり休めよ?」


クラウド:「待て、どこに行くつもりだ」


ユリア:「え?外。クラウドは部屋使って寝ていいから。じゃ、また明日!」



意気揚々と去ろうとしたユリアだがその腕をがっしりと掴まれる

腕を掴んだ人物、クラウドは眉間に皺を寄せ、若干の怒りをちらつかせながらユリアを見据えた



クラウド:「俺が了承すると思うか?」


ユリア:「逆に了承しない理由を聞きたいね」


クラウド:「ユリアは……っ、」



“女の子だろう”

そう言おうとして言葉を飲み込む

ユリアがこの扱いをされたくないことは知っている

それに……

自分の中にある照れのようなものがその言葉を発する邪魔をしていた

クラウドは一瞬考え、違う言葉を探し出す



クラウド:「ユリアは、怪我してるだろ」


ユリア:「…あぁ、まぁ」


クラウド:「だから部屋はユリアが使え。俺が外に行く」


ユリア:「っはーーー?!それ何の解決にもなってないけど!?」



今度はユリアが眉を寄せ、クラウドを睨み上げる



ユリア:「ボクはクラウドに部屋で体を労わってほしいから、ボクが外に行くって言ってるの」


クラウド:「その道理で言うなら俺も同じだ」


ユリア:「うぅん……」



何やら唸りながら考え込むユリア

自分はクラウドに部屋にいてほしい、クラウドは自分に部屋にいてほしい

いい感じの折衷案はないものか、と思い悩んでいるとぴん、と一つの案が浮かんだ



ユリア:「あ、一緒に寝ればいいのか」


クラウド:「………え?」



聞き間違いだろうか

いや、聞き間違いであってほしい

半ば祈るようにしてクラウドが聞き返すもユリアは一人で納得したようにうんうんと頷いている



ユリア:「ベッドはシングルだけど…まぁ、寝れなくはないだろ。クラウド細身だし」


クラウド:「おい、ユリア」



呼びかけも虚しく、ユリアは上着を脱いで机に置くとせっせとベッドを整え始めた

その光景にクラウドは額を押さえ、大きく息を吐きだした



クラウド:「正気か?」


ユリア:「ボクはいつでも大真面目ですよー…っと。よし、できた!」



そう言ってユリアはベッドによじ登ると、壁に背をつけてごろんと寝転がった



ユリア:「さ、来い!クラウド!」



…本当に頭が痛い

きっと何も考えていないのであろうユリアの行動が今は恐ろしくて仕方がない

純粋という名の凶器を目の当たりにしたクラウドは、ユリアからふいと視線を逸らして壁に剣を立てかけた



クラウド:「いい。俺は床で寝る」


ユリア:「なんで」


クラウド:「なんでもだ」


ユリア:「…じゃあボクも床で寝る」


クラウド:「っ!それじゃ」
ユリア:「意味ない、だろ?」



にっこりと微笑みながらこちらを見ているユリアに今日何度目かの溜め息を吐く

おそらくユリアが求めているのは“平等”

だがこの状況は平等云々の前にいろいろな壁と事情が存在しているのだ

…どうしてそれが伝わらないんだ…

モヤモヤとする気持ちを宥め、どうやって言葉にしたものかと悩んでいるとふいにぐっと胸元を掴まれた



クラウド:「っな…!!」



驚いている間にクラウドの体は引っ張られ、ぐるりと視界が反転したかと思うと背中からベッドに倒れこんだ

一瞬の出来事に呆然としながらも、しれっとした顔で元いた場所に戻っていく胸元を掴んだ張本人に言葉を投げる



クラウド:「…どこにそんな力を隠してた?」


ユリア:「コツさえ掴めば誰にでもできるよ?」



ふふふっと楽しそうに笑うユリアの声がすぐそばで聞こえる

クラウドは観念したように溜め息を吐いた

もうユリアの前ではどうやって抵抗しても無駄なのだろう

その諦めを察したのかユリアはまたふふっと笑った



ユリア:「クラウドは適応力が高くて助かるよ」


クラウド:「今はあまり嬉しくない」


ユリア:「それにさ、どうせボクは男に見えるんだから、クラウドにとっては男同士で寝てるのと同じだろ?」


クラウド:「…はぁ?」



何を言っているんだ…?

この状況が男同士で寝ているのと同じ?

……ふざけるな


あまりにも無自覚な言葉と、こちらを侮っているのではと思ってしまう態度

それに対してクラウドは無性に腹が立った



クラウド:「全然違う。ユリアは女の子だろっ」


ユリア:「…え?」



少し強い口調で投げつけられた言葉にユリアは少し驚いた声をあげる

クラウドも言ってからしまったと思ったが自分は何も間違ったことは言っていない

開き直った気持ちで黙っているとユリアはふふっと笑った

今度はどこか嬉しそうな笑い声だった



ユリア:「そっか、違うか」


クラウド:「あぁ」


ユリア:「うん…そっか…」



それからも何度か“そっか”と繰り返すとユリアは黙り込んだ

どんな反応が返ってくるかと少し緊張していたけれど、もうどうにでもなればいいと半ば自暴自棄になっていたクラウドだが、ふと隣にいるユリアが静かになったことに気付く



クラウド:「ユリア?」



声をかけてみるが返事はない

ゆっくりと視線だけ横へ動かすと、まぶたを閉じ、小さく寝息を立てているユリアがちらりと見えた


…寝たのか

クラウドはベッドを揺らさないように慎重に寝返りを打つ

そうすると真正面にユリアの寝顔が見えた

その顔をじっと見つめながらぼんやりと観察する


こうして見ると普通の女の子にしか見えない

人懐っこかったり、よく笑ったり、花が好きだったりと、普段の姿からも女の子らしさを感じていた

どれだけ戦闘に秀でていても、ユリアは普通の女の子だ

…でも、本人はそれを良しとは思っていないらしい



―――…ボクのことを、“女だから”って言うのやめろ


―――“女は弱い” “弱い自分でいたくない”、そう思ったし…思わされたからかな



壱番魔晄炉でユリアがビッグスに言っていた言葉だが、クラウドにはそれがどういう意味なのか分からない

ユリアに直接聞けばいいのかもしれないが彼女は詮索されることを避けているように思う

だから、できればいつか自分から話してくれたらと思っているのだが……



クラウド:「もっと、頼ってくれていいんだけどな…」



なんとなく呟いた言葉に自分でも少し驚いたがきっとこれが本音なのだろう

“自分は強いから”と一人で突き進んでいくユリアは頼もしいが、心配でもある

せめて俺に何かできることがあれば…


そんなことを考えながらユリアを見つめていると徐々に眠気が訪れた

それに抗わずにクラウドはゆっくりと目を閉じる

俺にできることは……、













「ねぇ、キミの名前は?」



どこからか明るい声で話しかけられる

これは、誰だろう…?

聞き覚えのあるような声の持ち主は、ベッドの横の椅子に腰かけてこちらを覗き込んでいる

…ベッド…?……ここは、どこのベッドだ…?


そこでふ、とユリアは目を覚ました

ぼんやりとした視界の焦点を取り戻すためにゆっくりと数回瞬きをする

まず、目に飛び込んできたのは金髪の美人

思わず声を上げそうになったが寸でのところで抑え込む

瞬時に記憶を手繰り寄せ、ここがアパートであること、隣にいるのはクラウドであることを思い出した

目の前で静かに眠っているクラウドをじっと見つめる

きれいな肌、長い睫毛、真っすぐ通った鼻筋、薄い唇……

羨ましい要素しか兼ね備えていないその顔面に心の中で感嘆する

…ほんと、後は愛想だけなんだよなぁ

苦笑しながらゆっくりと体を起こす

物音を立てないようにしてベッドから降りると、ユリアは静かに部屋を出た


向かったのはアパートの屋上

街全体を見渡すことができるそこは、なんだか落ち着く場所だった

まだ夜中だということもあってか街に人はおらずとても静かだ

ユリアは腰を下ろして誰もいない街を眺める

遠くには煌々と光る支柱があり、静まり返った街がそれを余計に際立たせた



ユリア:「これからどうなるんだろ…」



誰に問いかけるでもなくぽつりと呟いた言葉は空気に溶けていく

今日の作戦はスタートに過ぎない

アバランチの彼らはまた新しい作戦を立てているのだろう

……危険すぎる、と正直思う

星の命を守るためとはいえ、リスクが大きすぎる

それに、神羅が黙ってやられているわけがない

きっといつか………



「さて、ユリア君?―――せいぜい足掻いて見せてくれ。ふふふふ……はっはっはっは!!」



嫌な声が思い出される

ユリアは奥歯を噛みしめ、頭を振って声を追い払った

あいつは、何を考えているか分からない

人の命なんてなんとも思っていないようなやつだから、

だから……許さない…

噛みしめた奥歯がギリ、と鳴る

と、その時、下から誰かの声が聞こえた

こんな時間にアパートに訪ねてくる人なんているのだろうか?

声のした方に耳を澄ませるが何も聞こえない

様子を見に行こうかと立ち上がった瞬間、



「っうわ、ぁ…!」



次いでドタン、と何かが床に倒れた音がした

これはただ事ではないかもしれない

ユリアは慌てて梯子を駆け下り、アパートの廊下に走り出た



「クラウドやめて!」


「部屋に戻ってろ!」



耳に入ったのは、必死な声と切羽詰まったような声

目に入ったのは、剣を振りかぶっているクラウドと、その足元に………

…これは……



ならば、お前が来るか?



ユリア:「っう…!」



キン、と耳鳴りと頭痛が襲い掛かる

経験したことのないそれにユリアは思わずよろめいた

頭の中に見たことのない光景が映し出される

荒原に集まる見知らぬ集団

全員が黒い装束を着て、全員が同じ方向に向かっている

これは、これは……なんだ…?



『リ…リユ、ニ…オン…』
クラウド:「っユリア!」


ユリア:「っあ…!」



名前を呼ばれ、我に返る

あたりを見回すとどうやら自分は座り込んでいたようで、クラウドが心配そうにこちらを覗き込んでいた



クラウド:「大丈夫か?」


ユリア:「うん、ちょっと眩暈がしただけだから」


クラウド:「…本当に…」


ユリア:「クラウド?」



いつもなら“そうか”と言って離れていくのだが、今回はまだこちらを覗き込んでいる

その表情は心配のほかに、戸惑いのようなものも見られる

どうしたのかと聞こうとした時、クラウドの後ろでティファが誰かを助け起こしていた

それは先程ユリアの頭の中に出てきた集団と同じ黒装束を着ていた

思わず体を強張らせるがティファに起こされたその人物は害意どころか生気も感じられなかった



「あぁ…あ、あぁ…うぅ…」


ユリア:「…その人…」


ティファ:「この人は、203号室のマルカートさん。病気でずっとこんな感じなんだって。ときどき様子を見るように大家さんから頼まれてるんだ」



マルカートと紹介されたその人は変わらず呻き声をあげている

と、だらりと垂れたマルカートの腕に“49”の刺青が彫られているのが見えた

あの刺青はなんだろう…?

じっとそれを見つめているとふいにティファと目が合った

ティファは申し訳なさそうに微笑むとクラウドとユリアを交互に見る



ティファ:「クラウドもユリアも、お願いね?」


クラウド:「…あぁ」


ユリア:「うん…」



なんとなく返事をしたが何に対しての返事だったのかはユリア自身よく分からなかった

ティファはマルカートを看病しながら部屋に送り届けると自分も部屋に戻っていった

クラウドに連れられてユリアも部屋に戻ったが、なんだか落ち着かない

さっき見た幻覚はなんだったのか…いや、その前に聞こえたあの声は……

それに、あのマルカートって人は一体何者、
クラウド:「ユリア」


ユリア:「っわぁ!?」



背後から突然肩を叩かれ、思わず声が出た

慌てて口を押さえて振り返ると、手を置いた本人も驚いた表情で固まっていた



クラウド:「悪い…急に声をかけたから…」


ユリア:「い、いや、ボクもぼんやりしてたから…。で、どうかした?」


クラウド:「あぁ、いや…」



言うべきか悩んでいるのか少し目を泳がせているクラウドにユリアは首を傾げる

クラウドが言い淀むなんて珍しい

と、ふいにクラウドの瞳が真っすぐユリアに向けられた



クラウド:「どこに行ってたんだ?」


ユリア:「え?ここの屋上」


クラウド:「どうして」


ユリア:「なんか目が覚めたら考え事したくなっちゃって」


クラウド:「そう、か…」



こちらの質問にすぐ答えが返ってくることに安堵する

別に何かを隠しているわけでも嘘を言っているわけでもなさそうだ


…正直、物音がして目を覚ました時にユリアがいなくなっていたことにひどく動揺した

隣人の様子を見たらすぐに探しに行こうと思っていたら…ややこしい事態にはなってしまったが…

いつの間にか戻ってきたユリアは少し様子がおかしくて

額を押さえて訳の分からない言葉を呟いたり、普段のユリアとは違って見えた

だが今はいつもと変わらないように見える

何事もなかったのならよかったがせめて行き先を残していってほしいとか、夜中に出歩くのはやめろとか言いたいことは山ほどあるのだが、どれから伝えようか…


クラウドは真顔で黙りこんでしまい、それを見てユリアはおそるおそる声をかける



ユリア:「あ、あの…心配させたんなら、ごめんな?」


クラウド:「あぁ……いや、もういい」



心底申し訳なさそうなユリアの表情を見たら説教する気も薄れてしまった

諦めたように溜め息を吐くとユリアの肩が小さく跳ねた

その様子を不思議に思いながらも、クラウドはベッドに歩み寄る

まだ睡眠が十分ではなかったようで体に疲労が残っているのを感じる

再び横になって休もうとベッドに寝転がると、未だドアの辺りで立ち尽くしているユリアが視界に入った

少し前は自分から進んで寝ていたというのにどうしたんだ?

内心で首を傾げつつ、クラウドは半身を起こすと自分の隣のスペースをぽん、と叩いた



クラウド:「ほら、寝るんだろ?」



するとユリアは驚いたように目を見開いたかと思うと、すぐに満面の笑みを浮かべた



ユリア:「っうん!」



返事とほぼ同時にベッドに飛び込んできたユリアを受け止める

ニコニコと嬉しそうな笑顔のユリアに”ベッドが壊れるだろ”と咎めるもあまり聞いていないようだ

…まぁ、ユリアが笑っているならいいか



ユリア:「おやすみ、クラウド」


クラウド:「あぁ」



短く言葉を交わして目を閉じる

気分は、とてもよかった










ことん、という音で目が覚めた

何度か瞬きを繰り返してから体を起こすと、洗面台にいた人物がこちらを振り返った



ユリア:「おはよう、クラウド」


クラウド:「…うん」



何をしていたのかと洗面台に目を向けると、鏡の前に見覚えのある花が飾られていた



クラウド:「それは…」


ユリア:「あぁ、クラウドがくれたお花が萎れそうだったからさ。ちょうどいい空き瓶見つけたし、飾ってみた」



そう言って花を見やるユリアの横顔は優しげだった

クラウドは“そうか”と言って立ち上がると、自身も洗面台に近寄って花を覗き込む

買った当時より少し萎れてはいたが、花は生き生きとしているように見えた



クラウド:「…よかったな」


ユリア:「ん?」


クラウド:「いや、なんでもない。とりあえずティファの店に行こう」


ユリア:「うん!クラウドは集金の手伝いをしなきゃいけないしな?」


クラウド:「……そうだったな」



その後も他愛ない会話をしながらセブンスヘブンに向かおうとすると、階段を下りたところで白髪の女性に声を掛けられた



「おや、あんたがクラウドだね?」


クラウド:「え…?」


「で、そっちがその友達、と…」



じろりと何かを探るような目を向けられ、思わず固まっていると女性は口角を上げた



「あたしは大家のマーレ。あんたの名前は?」


ユリア:「あっ、えっと、ボクはユリア…」


マーレ:「ふぅん?」



スッと細められた目に少し恐怖を覚え、ユリアが気まずそうに目を逸らすとマーレはクラウドに向き直った



マーレ:「で?こないだ来たんだって?それまでは上かい?」


クラウド:「いろいろだ」


マーレ:「はぁ、ワケありか…ここに流れ着くのはみんなそうさね」



スラムにはプレート街やその他のところから追われてきた人も少なくない

溜め息交じりに呟いたマーレはクラウドとユリアの顔を交互に見た



マーレ:「ま、困ったことがあったらなんでも相談しな。ティファのこともね」


ユリア:「ティファがどうかしたのか?」


マーレ:「あぁ、あんたは問題ないだろうけど、泣かしたら承知しないよってことさ。あの子はあたしの孫同然さぁ」



そう言って語るマーレの口調は優しいがクラウドに向けられている視線は厳しい

それに気づいているのかいないのか、クラウドは動じていないようだ



クラウド:「覚えておこう」


マーレ:「ふん。ほら、さっさとセブンスヘブンにお行き!ティファはとっくの昔に出かけたよ!…あぁ、ユリアはお待ち」


ユリア:「えっ」


マーレ:「なに、ちょっと世間話するだけさ。あんたはとっととお行き!」



何事かと立ち止まっていたクラウドを追い払うように手を振り、その背中が小さくなるとマーレはゆっくりと口を開いた



マーレ:「クラウドのことは好きかい?」


ユリア:「はぁ?!」



突拍子もないことを聞かれ、声が裏返るほど驚くユリアにマーレはカラカラと笑う



マーレ:「いやなに、好きでもない男と同室にしちまったんなら悪かったと思ってさ」


ユリア:「いや、好きとかそれ以前に二人一部屋はないだろ…」


マーレ:「ティファにどうしてもって頼まれたんだ、仕方ないだろ?それに、“友達”がこんな可愛い女の子だとは思わなかったんだよ」


ユリア:「か、わいいって…」



“可愛い女の子”

その単語にじわじわと恥ずかしさが広がり、ふいと顔を逸らすとマーレが小さく笑ったのが聞こえた



マーレ:「お前さんはもっと自分を大切におし」


ユリア:「え…?」


マーレ:「お前さんにもいろいろ事情はあるんだろうけど、自分自身に優しくすることに理由はいらないだろ?」


ユリア:「……そうだね…」



そう話すマーレの表情は優しい

…なんだかマーレさんには全部見透かされちゃってる気がするなぁ

諦めたような笑みを浮かべて頷くと、マーレは満足そうに笑った



マーレ:「言いたかったのはそれだけさ!呼び止めて悪かったね」


ユリア:「そんなことないよ。気にしてくれてありがとな」


マーレ:「クラウドに何かされたらすぐにお言い?ここから叩き出してやるからね」


ユリア:「ははっ、クラウドはそんな気ないから大丈夫だよ。じゃ、行ってきます」



手を振って駆け出したユリアを見送り、マーレは大きく息を吐いた



マーレ:「まったく…。最近の若いのはどうして素直に生きていけないんだかねぇ」







ユリアがセブンスヘブンのドアを開けると、ちょうどティファがクラウドに仕事の内容を説明しているところだった

が、



ティファ:「“JSフィルター”の交換に行きたいんだ。ジェシーが作った汎用毒性物質除去フィルター。水の嫌なにおいが取れるって評判で、この店よりずっとお金になるんだよね。このあたりのほとんどのうちが使ってるから、新しいのを持っていって、代金と古いフィルターを回収してくる簡単なお仕事。…聞いてる?」



明るく説明するティファに対するクラウドの表情からは“嫌だ” “面倒だ”という気持ちがにじみ出ている

おそらく途中から話を聞くことを放棄しただろうクラウドにティファが問いかけるのとほぼ同時に声をかける



ユリア:「おはよう、ティファ」


ティファ:「あ、ユリア、おはよう。今ちょうどクラウドに仕事の依頼してたとこなの」


ユリア:「へぇ?」



反応を見るようにちらりとクラウドを見やると、クラウドは面倒そうに手を振って応えた



クラウド:「勘弁してくれ。揉め事がないなら俺の出番はない」


ティファ:「…踏み倒す気満々の人もいるんだ」



なんとも不穏な言葉を出したティファはカウンターから身を乗り出してクラウドを覗き込む

その瞳からは切実さが伺えた



ティファ:「ね?お守り代わり」


クラウド:「………」



カウンターを指で叩きながら考えていたクラウドだが、ふと横からの視線を感じてそちらに目を向ける

視線の主はユリアで、なぜか腕組みをしてこちらを見ていた

そしてゆっくりと頷かれる

おそらく“行け”ということなのだろう

クラウドは溜め息を吐きながら椅子から立ち上がった



クラウド:「さっさと片付けるか…」


ティファ:「ありがとっ!ね、ユリアも行こう?ついでにスラムを案内するよ」



ぱぁっと明るい表情になったティファはユリアに駆け寄るが、ユリアは首を横に振る



ユリア:「いや、ボクはいいよ。ここで待ってる」


ティファ:「え、でも…」


ユリア:「お守りが二人もいたら取り立てみたいだろ?店の掃除とかしとくよ」


ティファ:「そっか、たしかに…じゃあ、お願いしてもいい?」


ユリア:「オッケー!」



そうしてクラウドを連れて出ていくティファを見送り、しん、と静まり返った店内でユリアは小さく息を吐きだした

久しぶりに再会した幼馴染との時間を邪魔するのも悪いと思って遠慮したが、我ながらファインプレーではないだろうか

自画自賛をして気持ちを上げ、ぐっと拳を作る



ユリア:「よしっ、とりあえず床掃除から」


マリン:「んん……ティファ…?」


ユリア:「…………え?」


マリン:「あ…………」



がちゃっという音とともにドアの向こうからマリンが目をこすりながら現れる

予想だにしていなかった人物の登場に、ユリアもマリンもしばらくお互いを見つめて固まっていた








ティファ:「あ、そういえばユリアにマリンがまだ寝てること伝えないできちゃった」


クラウド:「…なんとかなるだろう」



“ユリアだしな”と言って微かに笑うクラウドの瞳は優しい

ティファはその横顔を微笑みながら見つめていた

…よかった、クラウドにも仲がいい子ができて

そう思いながら、そっと肩を並べて次の集金場所へと向かった





03 終

2020.05.13