小説 | ナノ



02
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入社してから3年の月日が流れた

ザックスは16歳でソルジャー・クラス2ndとなり、1stへの道を着実に歩んでいる

ユリアも11歳になり、タークスとしてモンスター退治を任されていた


そんなある日…



ユリア:「え?お給料?」


ザックス:「そ。タークスってどんぐらい貰ってんの?」


ユリア:「どのぐらいって…それなりに、だよ」


ザックス:「なんだよ、それなりって〜」


ユリア:「はいはい、お兄ちゃんは任務に行ってください!今日はツォンとバノーラ村に行くんでしょ?」


ザックス:「あぁ。じゃ、行ってきます!」


ユリア:「うんっ、頑張ってね?」



笑顔で送り出せば、ザックスも笑い返す

先月、ザックスの先輩であるアンジールが行方不明になって少し元気がなかったが、最近やっと元通りになってきていた



ユリア:「任務、成功するといいな…」



純粋にそう願った数時間後、

任務を終えたザックスが部屋に帰ってきた

ユリアはそれをリビングで出迎える



ユリア:「おかえり!任務どう…………お兄ちゃん?」



いつもだったら『疲れたー!』とソファにダイブするのに、今日はゆっくりと腰掛ける

表情もどこか暗い



ザックス:「……なぁ、ユリア」


ユリア:「ん?」



重々しく口を開いたザックスに近寄る



ザックス:「誇りって…なんだ?」


ユリア:「え…?」


ザックス:「ソルジャーの誇りって……」


ユリア:「…お兄ちゃん?」



おそるおそる声をかけると、ハッと顔を上げ、ユリアに向き直った



ザックス:「ご、ごめんな、ユリア!意味分かんない事言って…」


ユリア:「うぅん。それより…何かあったの?」



顔を覗き込めば、目を逸らされる

きっと口にするのがつらいのかもしれない

ユリアはそれ以上問いただす事なく、部屋に戻った

何があったのだろう…

ツォンに聞いても何も教えてもらえない

月日は流れてもザックスの元気はなかなか戻らず、ユリアの不安は募っていった




ユリア:「……はぁ…」


ルード:「…どうした?」



デスクに突っ伏してため息を吐くと、向かい側のルードが顔を上げた



ユリア:「うん…お兄ちゃんがずっと元気なくて……」


ルード:「そうか…」


レノ:「何だよ、ルードもシケた顔するなよ、と。ユリア、今日は何の日だと思う?」


ユリア:「今日…?」



カレンダーとレノの顔を交互に見るが、何も思い浮かばない

レノは得意気に口端を上げた



レノ:「今日は…
(ガチャッ)



レノの言葉と同時にドアが開く

そちらを見ると、ツォンを先頭に10人ぐらいの男女が入ってきた



ユリア:「……だれ?」


レノ:「新しい仲間だぞ、と」


ユリア:「仲間……」



その言葉の響きにどこかわくわくする

ツォンは新人に向き直り、こちらを指差した



ツォン:「今日からここが君たちの職場となる。そして、彼らは先輩だ」



“彼ら”の中にはもちろんユリアも含まれている

新人達は戸惑ったようにユリアを見た



「え…?子ども…?」


「ツォンさんの子ですか?」



予想していた反応にツォンはため息を吐き、ユリアを手招きした



ツォン:「彼女…ユリアもれっきとしたタークスだ」


「…彼女が?」



疑いの眼差しがユリアに注がれる

キョトンと首を傾げるユリアにレノが意地悪い笑みを浮かべた



レノ:「お前が子どもっぽくてタークスには見えないんだとよ」


ユリア:「え!!そうなの!?」


ツォン:「ユリアは銃の扱い、戦闘力は非常に高い。それは我々も主任も認めている」



軽くショックを受けているユリアを宥めるようにフォローするツォン

新人タークスはユリアが主任のお墨付きという事に感嘆の息を漏らした



ツォン:「だが、問題もある…」


「問題?」


レノ:「さぁて、ユリア。勉強の時間だぞ、と!」



ツォンの言葉にレノは立ち上がり、ホワイトボードを引っ張り出す

ユリアはあからさまに嫌そうな顔をするが、しぶしぶノートを開いた



レノ:「いいか?数学からな?」


ユリア:「うん…」



そう言ってサラサラとボードに数字を書いていく



「2×4÷2…?」




書かれた問題に子ぬける

数学と言うより、本当に子ども向けの算数だ

が、目の前にいるユリアは頭を抱えて唸っていた



ユリア:「…わかんない…」


「「え…」」



幼い頃からタークスに所属しているのだから頭が良いのかと思ったら…

唖然とする新人達にツォンはため息を吐いた



ツォン:「見て分かるようにユリアは勉強が全くできない。ちゃんと教育させなかった我々にも責任はあるんだが…」



罰が悪そうに頬を掻くツォンの後ろではレノの適当な講座が開かれている

見兼ねた一人の新人が手をあげた



短銃女:「あの…、私が指導しましょうか?それなりの教養はあるつもりなので」


ツォン:「そうか、お前は軍事学校を首席で卒業したんだったな。じゃあ、よろしく頼む」


短銃女:「はい」



そう言ってユリアの隣に腰かける

ユリアは短銃女を見つめながら不思議そうに首を傾げた



短銃女:「えっと…よろしくね?」


ユリア:「うんっ!」



屈託のない、子どもらしい笑顔にホッと胸を撫で下ろす

気を取り直して目の前のボードを見つめた



短銃女:「まずは…そうね。あの問題、2匹のモンスターが4組いるとするわね。それを私とユリアで手分けしたら1人何匹倒せばいいかしら?」

ユリア:「4匹!!」



一瞬、室内が静まり返った

我に返った面々はユリアをまじまじと見つめる



ロッド:「は、早い…」


レノ:「アイツ、本当は頭いいのか?」


短銃女:「すごいわ、ユリア。頭の回転が速いのね」


ユリア:「へへ…」



照れ笑いをするユリアにこちらも笑みが零れた

他の新人達もそのまわりに集まって行く

さっきまで浮かない顔をしていたユリアも、今は仲間が増えた喜びに笑顔が溢れていた




ユリア:「お兄ちゃん!聞いて聞いて!!」


ザックス:「ぅおっ!?どうしたんだよ、ユリア?」



帰ってきて早々に飛び付いてきた妹の頭を撫でる

ユリアは笑みを浮かべながらザックスを見上げた



ユリア:「タークスにね、仲間が増えたの!」


ザックス:「おぉ!よかったな〜!」


ユリア:「みんな、あたしと仲良くしてくれるって!勉強も教えてくれるって!」


ザックス:「勉強って…」



まぁ、自分の妹なのだから仕方ないか…

苦笑いを浮かべるザックスに首を傾げていると、ふいに抱き上げられた



ユリア:「ぅわっ!?」


ザックス:「さぁて。じゃあ久しぶりに兄ちゃんと風呂に
ユリア:「入りませんっ!」



力強く拒絶され、落ち込むザックスを余所にさっさと風呂に行くユリア



ザックス:「思春期って、難しいな…」



そんな呟きは誰かに聞こえるわけもなく、広い室内に小さく響いた





























ツォン:「今日はユリアとレノの二人で任務に行ってもらう」


ユリア:「二人だけ?」


レノ:「新人達はまだ訓練中だからな。敵地なんかは俺らで行くんだぞ、と」


ユリア:「敵、地…」



嫌な予感が胸をよぎる

今まではモンスターの退治などを任されていたが、それが新人達にまわってしまった

そしたら、自分にまわってくる任務は…



ヴェルド:「最近、アバランチの行動が激化している。それの制圧に行ってもらいたい」


レノ:「了解です、と」


ユリア:「…………」


ツォン:「どうした、ユリア」



俯いたままのユリアに声をかけると、ハッとしたように慌てて顔を上げた



ユリア:「了解、しましたっ」


ヴェルド:「よし。気を付けて行ってこい」



そう言ってレノとユリアが出ていったのを見届け、ツォンがため息を吐いた



ツォン:「…ユリアには初めての対人任務ですが、大丈夫でしょうか?」


ヴェルド:「いつかは通る道だ。まだ幼いが仕方がない…」



眉間に皺を寄せて唸るヴェルドの隣で、ツォンは二人が出ていったドアをもう一度見つめた



ツォン:「ユリア…」














レノ:「目撃情報はこのへんだぞ、と」


ユリア:「…………」



現地に着いてもまだ悩み顔のユリアにレノは首を傾げた



レノ:「なんだ?緊張してるのか?、と」


ユリア:「そういうわけじゃ…ないけど…」


レノ:「じゃあ何
「おい!お前ら何してる!!」



突然の声に振り向くと、アバランチのメンバーと思われる人間が数人いた



「あのスーツ…!!アイツら神羅のタークスだ!」


レノ:「こりゃヤバイぞ、と」



言葉とは裏腹にゆっくりとロッドを構えるレノ

ユリアも静かに銃を取り出した



「っく…!!応援を呼んでこい!」

ユリア:「行かせないっ」



素早く回り込み、行く手を塞ぐ



「ガキが…、どけっ!!」


ユリア:「ガキかどうかはすぐに分かるよ!!」



どちらからともなく攻撃を仕掛けた

それを合図に残りのアバランチもレノに飛び掛かる



レノ:「さて。お仕事だぞ、と」


ユリア:「はぁあっ!!」


「ふんっ!!」



大丈夫…いける…大丈夫…っ

心の中で唱え続けることでなんとか平静を保っていられるが、銃を向ける勇気が出ない



ユリア:『でも、悪い人はやっつけないと…!主任が言ってたもん!』



こいつは人間の顔をしたモンスターだ!!

モンスターなら倒せる、いける……撃てるっ!



ユリア:「っ、」



(パァンッ!!)



「っう…!」



弾は男の腕に命中し、男は膝をついた



ユリア『よっし、とどめ…を……!』



ふと、男の腕を見る

…それがいけなかった



ユリア:「…あ、……」



腕から流れ出る血

痛みで苦しむ表情

荒い息遣い

全てが鮮明に見えてくる



「うぅ…、痛てぇよぉ…」


ユリア:「え、…っ」



我を忘れ、男に駆け寄る

未だに止まらない血を止めようと手を伸ばした瞬間、



「バカめ!所詮はただのガキだな!!」


ユリア:「っ!?」



目の前で魔法を唱えられる

避けられない…っ!!

そう思い、堅く目を瞑った



(バチバチッ!!)


「ぐぁっ!!」


ユリア:「…え?」



男の呻き声におそるおそる目を開ける



レノ:「……………」


ユリア:「レ、ノ…」



倒れた男の背後にはスタンガンを持ったレノがいた

が、その表情はいつものような明るい感じではない



ユリア:「あの…、ありが
レノ:「敵に情けをかけるなんて最悪だな?」



呆れたような怒っているような、冷たい目

何……?怖い……



ユリア:「レノ……?」

レノ:「お前、向いてないぞ、と」


ユリア:「え?」


レノ:「タークス、辞めちまえ」



あまりにも淡々と言われて、すぐには理解ができなかった

タークスを、辞めろって…?

任務完了の報告をするレノの隣で立ち尽くす

その後、どうやって戻ったのか覚えてない

気付けば部屋に閉じこもり、泣いていた






(コンコン、)



ザックス:「ユリア?いるのか?」



食事も摂らずに部屋に引きこもっているユリアを心配して声をかけるが、中から返事はない



ザックス:「開けるぞ〜…?」



静かにドアを開けると、室内は真っ暗で

目を凝らせばベッドの上で蹲っているユリアがいた



ザックス:「お…!?なっ、ど、どうしたんだよ?」



慌てて駆け寄ってみても返事はおろか反応もない



ザックス:「…なんか嫌なことでもあったのか?」



隣に腰掛けてそっと頭を撫でてやると、ユリアの肩がぴくりと動いた

が、それは小刻みに震えだす



ザックス:「ユリア…?」

ユリア:「タークス、辞めろって…言われた…」


ザックス:「…誰に?」


ユリア:「……レノ」


ザックス:「くっそ…!!」

ユリア:「待って!」



勢いよく立ち上がったザックスの腕を慌てて掴む

ザックスはユリアを振り返り、半ば怒鳴るように言った



ザックス:「なんで止めんだよ!そんな事言われてムカつかないのか!?だいたい、そいつに言われる筋合いは
ユリア:「あるんだよ…」



振り絞るように小さな声で呟かれた言葉

ユリアは目を伏せ、俯いた



ユリア:「あたしが敵を…人間を撃てないでいるから…。だから……」


ザックス:「ユリア…」



再びユリアの隣に腰を下ろし、肩を抱き寄せる

まだ幼い妹に対人戦をさせるなんて、とタークスに対する怒りが込み上げる反面、さすがタークスだな、と感心もする

ソルジャーである自分にとっては対人戦なんか大して苦にもならない

けど、ユリアは違う…



ザックス:「よし、星を見に行こう!!」


ユリア:「へ?」


ザックス:「星だよ、星!ほら、行くぞ!!」


ユリア:「え、え?ちょ、お兄ちゃん?」



混乱しているユリアに構わず、部屋を出て外に向かう

最終列車に乗り、ミッドガルを出ると広大な景色が広がっていた



ザックス:「ユリア、こっち」



手を引かれるがままについていくと、ミッドガルを一望できる崖の上に出た

夜空には満天の星が輝いている



ユリア:「きれい…」


ザックス:「何年ぶりだろうな、星なんか見たの」



ミッドガルは明るすぎて星が見えないし、最近は忙しくて空を見上げる事もなかった

と、ザックスが懐かしそうに夜空を見上げた



ザックス:「覚えてるか?昔はこうして2人で星見てたよな」


ユリア:「うん。あたし、いっつもお願い事してた気がする」



“明日もお天気になりますように”とか“おやつにドーナッツが出ますように”とか、しょうもないお願いばかりだった

でも、兄は違う…

あの時から、神羅に入ってソルジャーとして活躍する事を夢見ていた

自分とは覚悟が違うんだ



ザックス:「俺だって願い事ばっかりしてたさ。強くなりたい、ソルジャーになりたい、そしたら世界中の人を幸せにしたい、て」



にこやかに話すザックスの横顔を見つめる



ザックス:「俺はソルジャーになれた。だから皆を守るために戦わなくちゃいけない。戦う事が当たり前なんだって思ってた。…でも、ユリアを見て違うって分かった」


ユリア:「…え?」


ザックス:「怖いんだろ?人を撃つのが」


ユリア:「…………っ」



図星だ

同じ人間だから痛みも苦しみも分かる

攻撃した時に一瞬でも可哀想と思ってしまった

そんな自分が情けない…


と、ふいに頭をぐしゃぐしゃと撫でられた



ユリア:「!?お兄ちゃん?」


ザックス:「それでいいんだよ、ユリアは」


ユリア:「どういう、事?」



このまま、弱いままでいいわけがない

敵一人倒せないでタークスが勤まるわけが…



ザックス:「ユリアには戦う事が当たり前だと思ってほしくない。大切な何かを守るために戦う、そういう気持ちでいてほしい」


ユリア:「大切な…何か?」


ザックス:「そうだ。例えば…、アバランチの奴らがユリアの仲間を傷つけようとしてる。それでユリアは見てるだけ、なんてできるか?」


ユリア:「……できない」



できるわけがない

目の前で仲間が傷つけられるなんて耐えられない

ザックスを見上げると、その目は優しく細められた



ザックス:「そういう事だ。ユリアの優しさはすごい武器になるんだぞ?」


ユリア:「ホント…?」


ザックス:「ホントだって!自信持てよ、な?」



ニカッと頬笑まれ、小さく頷く



ユリア:「…ありがとう、お兄ちゃん」



聞き逃してしまいそうなぐらい小さな声で呟かれた言葉にザックスは満面の笑みを浮かべた



ザックス:「ユリア、約束しよう」


ユリア:「ん?」


ザックス:「俺は何があってもソルジャーを辞めない。だから、ユリアもタークスを辞めるな」


ユリア:「…分かった。約束だよ?」


ザックス:「あぁ、約束だ」



しっかりと小指を絡ませ、笑みを向ける

どんなにつらい事があっても挫けるな

どんなに悲しい事があってもめげるな

ユリアは強くなれる

俺も、もっと強くなるから

ずっとユリアの傍にいるから…







ユリア:「…行ってきます」


ザックス:「おう!行ってこい!」



今日もまたアバランチの制圧

ただ、前と違うのはルードも一緒ってとこ

ユリアは部屋を後にし、現地へ向かった

ただ、前と違うのは…





「死ねぇ!神羅め!!」


レノ:「っく…!ルードはあっちを頼む!!ユリアは奴らが出したモンスターを倒せ」


ルード:「分かった」


ユリア:「…うん」



それを合図に三方向に散らばる

これはきっとレノなりに気を遣ってくれたんだろう

でも……



ユリア:「もう!何匹いんの、こいつら!!」



倒しても倒しても湧き出るように現れるモンスター

視界の隅にはアバランチ集団に悪戦苦闘しているレノ

と、レノの背後に一人回り込んだ

その男は拳を高々と振り上げる



ユリア:「っ!!レノ!後ろ!」


レノ:「!やべ、

(パァンッ!!)



銃声が響き渡り、誰かが倒れた

レノは足元に倒れた男を見下ろし、ゆっくりと顔を上げる

そこには銃を構えているユリアがいた



レノ:「ユリア、お前…」
ユリア:「おしゃべりは後!早く片付けよう!!」



素早く弾を装填してモンスターに向き直るユリア

レノは口端を軽く上げ、“あぁ”と頷いた





レノ:「もしもし、ツォンさん?レノです、と。…はい、今終わりました。…はい、…はい、と」



報告を終えると、ルードと戯れているユリアを見る

この間とはまた違う顔つきになってきたな…

ルード、連れてこなくてもよかったか?、と



レノ:「おーい、帰るぞ!」


ユリア:「あ!待ってよ〜」



駆け寄ってくるユリアを待ちながら、レノはさきほどの事を思い出した



レノ:「そういやお前、撃てるようになったんだな?」


ユリア:「ん?…あぁ、見つけたんだ。戦う理由」


レノ:「戦う理由?」


ユリア:「そ。仲間を守るために戦おうって決めたの」



にこやかに言うユリアが一瞬大人びて見え、思わず見惚れる

すげぇ覚悟決めてんだな、こいつ

レノはフッと笑みを漏らすとユリアの頭に手を置いた



レノ:「悪かったな、ユリア」


ユリア:「ん?」


レノ:「お前は立派なタークスの一員だぞ、と」



初めはキョトンと首を傾げていたユリアだが、理解したのかみるみる表情が笑顔になっていく

ホント、ガキだなこいつは

喜びを伝えたいのか、飛び跳ねながらルードの元に行くユリアを黙って見つめる

なぜだろう、アイツから目が離せない

危なっかしいからとかそういうんじゃなくて、もっと……



レノ『…いや、まさかな』



一つだけ思い至った考えを切り捨て、レノは前を向いた

俺がこんなガキを?…あり得ないぞ、と







ユリア:「お兄ちゃん!ただい、ま…?」



今日あった事をいち早くザックスに話したかったのに部屋には誰もいなかった

今日は任務もないからって言ってたのに、どうしたんだろう…

電話をしてみようかと携帯を開いた瞬間、



(──ビーッ!!ビーッ!!ビーッ!!)



突然、社内警報が鳴り響く

と、今度は携帯が鳴りだした



ユリア:「もしもし?」


ツォン:「ミッドガルがジェネシス軍に攻められている。八番街まで来てくれ」


ユリア:「分かった」



電話を切り、急いで外へ向かう

が、八番街の手前でモンスターに囲まれてしまった



ユリア:「あーもう!急いでる時にーっ!!」



敵を睨み付け、銃を取り出す

と同時に背後から飛んできた斬撃によって一瞬にしてモンスター達が殲滅された



ユリア:「……え?」



訳が分からず辺りを見回すと、長い銀髪と刀が視界に映る



「どうした?急いでいるんだろう?」


ユリア:「セフィロスさん!!」



こちらに頬笑みかけているセフィロスに笑みを返せば、彼は手に持っている長刀でスッと先を差した



セフィロス:「さっきザックスが行ったばかりだ。もしかしたら会えるんじゃないか?」


ユリア:「あ、ありがとうございますっ!!」



勢いよく頭を下げてセフィロスの差した方向、八番街に足を向ける



セフィロス:「ユリア、」


ユリア:「はい?」


セフィロス:「…たまにはザックスに優しくしてやれ。思春期だって泣いてたぞ?」


ユリア:「………はい」



セフィロスが含み笑いをしていることに気づかないフリをしてもう一度頭を下げ、その場を去った

ザックスとセフィロスは仲が良いというのは知っている

おかげでユリアも何度か会った事があるし、名前を覚えてもらえる仲になった



ユリア『でも、それとこれとは別だよね…』



兄の寵愛っぷりもここまでくると腹が立つ

でも、それに慣れてしまっている自分がいるのにも腹が立つ



ユリア:「いや、あたしはブラコンじゃないっ!!」


レノ:「…何言ってんだ?」


ユリア:「あ……」



走っているうちに八番街に着いていたらしい

訝しげな表情のレノを笑ってごまかし、ふと先を見つめる



ユリア:「あれ?シスネ?」


ルード:「…アイツが一番に着いたらしいな」



ジェネシス・コピーに囲まれながらも顔色一つ変えないシスネに感心する

と、視界の隅を見た事のある容姿が横切った


視界の隅を横切った人物、ザックスはシスネに駆け寄ろうとしていた

その行く手をレノが塞ぐ



レノ:「八番街はタークスの担当だぞ、と」


ザックス:「それどころじゃないだろ!ツォン、なんとか言ってくれよ!!」


ルード:「アイツなら心配ない」


ザックス:「え?…あらま……」



シスネを囲んでいたジェネシス・コピーは既に倒されていた

同時に彼女の片手には大きな手裏剣が握られている



ユリア:「そうだね〜、お兄ちゃんは可愛い子が心配だもんね〜。あぁ、忙しいねソルジャーって」



隣から冷たく言い放てばザックスは驚いてこちらを振り向いた

その表情には焦りが浮かんでいる



ザックス:「あ、ユリア、これは…っ」


ユリア:「別にあたしには関係ないし?お兄ちゃんのナンパなんていつもの事だもんね」



ふいっと顔を背ければ力なくうなだれるザックス

と、ユリアはその服に目を止めた



ユリア:「お兄ちゃん、服が違う…」


ザックス:「ん?……あぁ。俺、今日から1STになったんだ」


ユリア:「え!?ほ、ホントに!?」


ザックス:「おう…」



嬉しそうに顔を輝かせるユリアとは対称的に表情が晴れないザックス

何かを察したツォンはレノ達に向き直った



ツォン:「他のエリアの様子は」


レノ:「ミッドガル中、モンスターだらけだぞ、と」


ルード:「ソルジャー達も苦戦している」


ユリア:「セフィロスさんまで呼ばれるなんて…相当だと思うよ?」



話を聞いていたらしく、真剣な表情で辺りを見回すユリアを見てツォンは心の中で小さく笑んだ

いつの間にか、タークスらしくなったな



ツォン:「レノ、ルード、ユリア」


レノ:「はいよ、と」


ツォン:「頼む」


ルード:「了解」


ユリア:「行ってきま〜す」



“じゃあね!”とザックスに手を振り、走り去るユリア

ザックスはその後ろ姿を黙って見送った



ツォン:「ユリアはよく働く。こちらとしても助かるばかりだ」


ザックス:「でも…まだ子どもだ…」


ツォン:「でも、タークスの一員だ」


ザックス:「………そっか。…そうだよな」



タークスの任務はいつも危険と隣合わせだ

ユリアだってそれは承知のはず

“大丈夫かな”とか“ケガしないかな”とか心配するだけ無駄だろう



ザックス:「無事に帰ってきてくれればいいや」



どんな危険な目にあっても、大ケガしても、笑って「ただいま」って言ってくれれば俺は満足だから

……頑張れよ、ユリア





この日から徐々に、何かが変わっていった

目に見えるもの、見えないもの

その変化に気づいている者は、まだ誰もいない





02 -終-