小説 | ナノ



05
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バイクは神羅ビルの前で止まった

と言っても、もうビルは倒壊していて原型もあまりない

懐かしくも悲惨な光景にユリアはため息を吐いた



カダージュ:「…姉さん、」



振り向けばすぐそばにあるカダージュの顔

ユリアはそれを真っ直ぐ見つめた



ユリア:「……何?」


カダージュ:「僕、ずっと姉さんとこうしたかったんだ」



そう言って手を取ったかと思うと強く引き寄せられた

思わず離れようとしたが、強く抱き締められていて身動きがとれない



ユリア:「カダージュ…っ、いきなりなんなの!?」


カダージュ:「僕の目を見て」



睨み付けるようにその目を見ると、瞳孔の開いた瞳と目が合った



(ドク、ドク、ドク…)



ユリア:「っ…!!」



星痕が激しく脈打つ

何かに反応するように、焼けるように…


と、頭の中に白い光が瞬いた

感情、記憶、情報、怒り、憎しみ、悲しみ……

たくさんのものが一気に流れ込んでくる

頭が割れるように痛い



ユリア:「やだ…!!はなし、て…!」


カダージュ:「思い出して、姉さん。彼の名前はなぁに?」


ユリア:「名前……?」



俺も…───スみたいになれたら


お〜い!セ──ィロ─!!


知らないの?すごく有名な人よ?



ソルジャー・1ST、通称英雄…


クラウド:「ユリア!」



バイクが滑り込むようにして止まり、クラウドが駆け寄る

と、カダージュはユリアを抱き締めたままクラウドを睨んだ



カダージュ:「僕、やっと姉さんや母さんに会えたんだ」


クラウド:「…何が始まるんだ?」


カダージュ:「ふふっ…母さんが教えてくれるさ」



片腕に抱いている箱を愛しげに見つめるカダージュに眉をひそめる



クラウド:「…思念体は何も知らない、か」



その言葉にカダージュはクラウドを見やり、薄く笑った



カダージュ:「どうせ僕は操り人形…。昔のアンタと同じだ。あと……」


ユリア:「きゃっ!?」

クラウド:「っ!!」


カダージュ:「姉さんも、ね」


ユリア:「カダ…っ!!」



いきなり顎を掴まれたかと思うと、ぐっとカダージュの顔が近づいてそのまま唇が重なった


冷たい

何も感じない

なのに、鼓動が…早くなる

苦しい…痛い…!!


ゆっくりと唇が離れるとユリアは膝から崩れ、自分の肩を抱いて震え始めた



ユリア:「やだ、怖い…怖いよ…っ!!」


クラウド:「ユリアっ
ユリア:「ああぁあぁぁああっ!!!!」



悲痛な叫びが辺りに響き渡る

と、ユリアはゆらりと立ち上がってこちらを見やった

銀色に輝く髪

碧く染まった虚ろな瞳

これは、まるで……



クラウド:「ユリア!!」



名前を呼んでも反応がない

ユリアはおもむろに銃を取り出し、こちらに向けた

そして躊躇いもなく引き金を引く



(パァン、パァンッ!!)



クラウド:「っく…!!」



ギリギリのところで剣で弾き返し、ユリアを見る

が、もうそこに姿はなく、クラウドは慌てて辺りを見回した



カダージュ:「後ろだよ」



楽しげなカダージュと目が合い、後ろを振り返るとユリアの拳が腹部にめり込んだ



クラウド:「かは…っ!!」



勢い良く吹き飛ばされ、壁に体を打ち付ける

痛む腹部を押さえながら立ち上がると、ユリアはしばらくその様子を見ていたが背を向けてどこかへ歩きだした



クラウド:「ユリア!待っ
カダージュ:「アンタの相手は僕だよ?」



クスクスと笑いながらこちらを見下ろすカダージュを睨む

カダージュは笑みを消さないまま、呟いた



カダージュ:「あとはもう、母さんが望むままに動くよ」






























ユフィ:「おろ?誰か歩いてるよ?」



両手にマテリアを抱えたユフィがガラス越しに下を覗き込む

飛空挺に乗った一行はクラウドの援護に向かう途中だった



シド:「あん?誰がこんな荒れ地を歩くってんだ!」


ティファ:「でも、たしかに歩いてる。髪は銀色だけど、服は…タークス、みたいな……」



色は違うが見覚えのある髪型

タークスの制服

似ている…“彼女”に…



ティファ:「ユリア…?」



その言葉に空気が凍った

誰も触れないようにしていた名前に反応ができない

戸惑う面々を余所にティファは操縦室を急いで出ていった



ケット・シー:「ちょ、ちょっと、ティファさん!?」


ティファ:「確かめてくる!」



こちらを振り返らずに走っていったティファを呆然と見つめる



バレット:「本人かどうかなんて…なぁ?だってよぉ、ユリアは……もう…」


ユフィ:「それに、あの人なんだか様子がおかしいよ?心ここにあらずっていうか…」



ヒソヒソと控えめに話す面々を横目に見やるヴィンセント



ヴィンセント:「…………」



外を見やり、そのスーツ姿の人物を見やる

それはたしかに…ユリアに似ていた



ティファ:「ユリア!」



飛空挺から降りたティファは先を歩く銀髪の女性に声をかけた

と、女性は歩みを止め、ゆっくりとこちらを振り返る

銀髪が揺れ、その顔が露になる



ティファ:「ユリア…なの…?」



自分でも声が震えているのが分かる

2年前と変わらない“彼女”が目の前にいる

やっぱり、ユリアは生きていたんだ…!!

嬉しくて思わずユリアの近くに歩み寄った



ティファ:「もう…っ!心配したんだからね!?どうして連絡
(パァン!!)



頬を弾丸がかすめる

足を止め、ティファは目を見開いてユリアを見つめた



ティファ:「ユリア…?」


ユリア:「…………」



真っ直ぐティファに向けられている銃口

生気を失っている瞳

しかし、姿形はユリアに間違いない



ティファ:「ユリア!どうしちゃったの!?ユリアっ!!」

ヴィンセント:「無駄だ」



いつからいたのか、隣にはヴィンセントが立っていた

“無駄”という言葉にティファは顔をしかめる



ティファ:「…どういう意味?」


ヴィンセント:「街で子ども達の様子を見ただろう。それと同じ……いや、違うな」



軽くかぶりを振り、ヴィンセントはユリアを見据えた

同時に銃を構える



ティファ:「ちょっと!?何して
ヴィンセント:「ユリアはセフィロスの操り人形となった」


ティファ:「…操り、人形…?」



訳が分からず、ユリアとヴィンセントを交互に見つめていると、ユリアはゆっくりと口を開いた



ユリア:「…操り人形?面白いことを言うね」



クスクスとおかしそうに笑いながらも銃はこちらに向けられたまま

ヴィンセントもティファもユリアの様子を黙って見つめていた

と、ふいにユリアの顔から笑顔が消えた



ユリア:「ボクは改造人間だ」


ティファ:「!!」


ヴィンセント:「…改造?」



息を飲むティファと眉をひそめるヴィンセントの反応を見ながらユリアはまたクスクスと笑った



ユリア:「長時間の魔晄照射、ジェノバ細胞の注入…、得られたのはずば抜けた戦闘能力だけ。こんなおかしなことがあるか?」



さもおかしそうに話すユリアだが、目は笑っていない

生気は感じられないのに憎しみや怒りが瞳の中に見えてくる



ユリア:「こんな力いらない、使いたくないって思ってた。…けど、彼の思念がボクに語りかけるんだ。“その力を解放してみろ。そして私のために使ってくれ”って」


ティファ:「ユリア、あなたは
ユリア:「ボクは力を必要とされたんだ!誰かのために力を使える、役に立てるんだよ!!」



銃を構えている手に力がこもる

ヴィンセントは銃を構えなおし、張りつめた空気があたりを覆った



ユリア:「ずっと…待ってたんだ。誰かの役に立てるのを」


ティファ:「だったら!セフィロスじゃなくて私達と一緒に戦おうよ!!ユリアは市民の人達の役に立ちたいんじゃなかったの!?」


ユリア:「市民……?」



瞬間、ユリアは声を上げて笑いだした

少し狂気じみたその笑い声にティファは怯む

ヴィンセントも驚いたらしく、銃の照準が少しずれた

その一瞬の間にユリアはヴィンセントとの間合いを詰め、思い切り殴り飛ばした



ティファ:「っヴィンセント!!」


ユリア:「ボクが市民を助ける?村1つ分の命を奪い、大切な人を誰一人として守れないボクが!?」



その言葉にティファの顔が歪む

たしかにユリアは村1つ分の、ニブルヘイムの人々の命を奪った

大切な人も守れなかった…

彼女はずっとそのことを後悔していたし、何とか乗り越えようと頑張っていたはず

それなのに、そこに付け込むなんて…!!


ケラケラと笑いながらヴィンセントに銃を向けるユリア

が、ヴィンセントの方が素早く構え、発砲した

しかしその弾をユリアは軽々とかわしてみせる



ユリア:「ボクは改造された人間…いや、化け物なんだ。そんなボクに誰かを守る資格なんかあるわけがない」



小さく舌打ちし、もう一度構えたヴィンセントを制してティファはユリアに歩み寄った



ティファ:「ユリア。もう、あなたの中にはこの星を守ろうっていう思いがないの?」


ユリア:「守る?なんのために?」



こちらを見下すような瞳

見覚えのある、冷たくて鋭い瞳

この人はもう私の知ってるユリアじゃない…

ティファはゆっくりと息を吐き、ポケットからグローブを取り出した

その様子をユリアは楽しそうに見つめる



ユリア:「そういえば、ボクのこと操り人形って言ったよね?」



ニッコリと笑みを向けられる

その笑顔には本来のユリアが持っている柔らかさも温かさも感じられない

静かに構えられた銃にティファも戦闘態勢に入った

と、ユリアはどこか自虐的な笑みを浮かべる



ユリア:「ボクはね、ただの捨て駒なんだよ」



瞬間、静かな空間に銃声が響き渡った




ティファ:「っはぁ、はぁ…」


ユリアとの間合いを取り、息を整える

一方のユリアは息一つ乱さずにクルクルと銃を回している



ユリア:「なかなかしぶといんだね、アンタ。でも、そろそろ終わりにしよう?」


ティファ:「っ、はぁ!!」



一気に間合いを詰め、ユリアに蹴りかかる

が、寸前でユリアは目の前から姿を消した



ティファ:「!どこに…」

ユリア:「後ろ」



(───パァンッ!!)



弾はティファの二の腕を掠る

それでも痛みはひどく、ティファはその場に膝を着いた



ユリア:「アンタと戦ってるの楽しかったよ。でも残念だけど、時間切れだ」


ティファ:「どういう…こと…?」


ユリア:「もうすぐ彼が復活する」


ティファ:「っ!?」



大きく目を見開くティファに笑みを向けながらユリアは楽しげに話しだす



ユリア:「彼が復活したら、この星は母さんのもの。彼と母さんが旅に出るための船となるんだ」


ティファ:「…ユリアは、どうするの?」


ユリア:「さっきも言っただろ?ボクは捨て駒。いずれ死ぬ」


ティファ:「そんなの…ダメに決まってるじゃない!ユリア!目を覚まして!!」


ユリア:「…うるさい」



鋭い瞳に睨まれ、体が動かなくなる

銀色の髪を靡かせながらゆっくりとこちらに歩み寄るユリア

片手に握った銃をこちらに向け、低く囁いた



ユリア:「終わりだ」



避けようにも体が思うように動かない

もうダメだ…!

ティファが固く目を瞑った瞬間、



(パシャ…ン、)



足元から聞こえた音にユリアは地面を見る

自分の足元には少し大きめの水たまりがあった

…どうしてこんなところに…?

と、水たまり越しに自分の背後に人が立っているのが見えた



ユリア:「っく…!!」



銃を構え直して後ろを振り返る


すると、そこは白い空間だった

辺りを見回してもさっきまでいた場所とは全く異なる一面の白

ティファはおろか、さっき自分の背後に立っていた人物も見当たらない



ユリア:「どこだ、ここ…」


「ユリア、久しぶりだな」



声の主を探してみるがやはり誰もいない



ユリア:「アンタ誰?姿見せなよ」


「おいおい、誰?はないだろ。兄ちゃんだぞ、兄ちゃん」


ユリア:「ボクに兄はいない。嘘を吐くな」


「あちゃー、ひどい言われようだな。俺、泣きそう」



言葉は悲しんでいるようでも話し方からはそんな様子は全く窺えない

小馬鹿にされているような気がして、ユリアは苛立たしげに銃を構えた



「だ〜れだっ!」


ユリア:「っな…!?」



突然目を覆われ、視界が暗くなる

手を引き剥がそうとするが、相手の方が力は強かった



ユリア:「なんの真似だよ!離せって!!」


「だからー、俺は誰でしょう?て聞いてんの。はい、答える!」


ユリア:「ふざけるな!アンタなんか…」




「だ〜れだ!」

「もう!こんなことするのはお兄ちゃんしかいないよっ」

「ははっ!!そう怒るなって、ユリア」





いつだったかの記憶が蘇る

楽しそうに笑う兄妹

この空間がとても好きだった

仲間に囲まれて、大好きな兄と一緒に……



ユリア:「お兄、ちゃん…」


「思い出したか?」



そっと肩に感じる重み

目元に感じる手の温もり

ボクは…あたしは、この温もりを知って…?



「ユリア、」
  ユリア、

ユリア:「っ、やめろ!!」



我に返り、勢いよく腕を振り払う

後ろを振り返るとキョトンとした青い瞳と目が合った

後ろに流された黒髪、中途半端に伸ばされた腕

男はこちらを見ながら何度か目を瞬いた



「思い出したんじゃなかったのか?」


ユリア:「ボクはお前なんか知らない。知らないんだ!!」


「…なぁ、その“ボク”っていうのやめないか?」


ユリア:「お前、話聞いて…
「お前が“ボク”って言うのは弱い自分を隠してる時だろ」



(ドクン、)



ユリア:「弱い…だと?」


「あぁ、そうだ。お前は“ボク”になることで自分を偽ってた。そうだろ?」


ユリア:「だから何だって言うんだよ。ボクはボクだ!お前には何の関係もない!!」


「ったく、何度も言わせんなって。俺はお前の兄ちゃん!お前のことは何でも知ってんの!」



(ド、クン…)


…………めて……



ユリア:「何…言って…」


「俺はずっとお前を見てた。生まれた時からずっと傍にいた。今までお前のこと見守ってたんだぞ?」



…もう、やめて………っ



ユリア:「見てたって…、どこから見てたんだよ!!」


「それは……、」


ユリア:「言えないんだろ?嘘吐きが

これ以上お兄ちゃんを苦しめないで!!



ユリア:「な、ん…!?」


「…ユリア?」



頭が割れるように痛い

誰の声だ、これは

ボクは………誰だ?


額を押さえてよろめくユリアを慌てて受け止める男

男は心配そうにユリアを見つめ、声をかけようと口を開いた瞬間だった



ユリア:「ボクは…いらない存在だったのか?」



その言葉に男は目を見開いた



「誰がそんなこと言ったんだ?」


ユリア:「言われてない…ボクが、そう思ってるだけ…っう!」


「お、おい!しっかりしろ、ユリア
!!」



膝から崩れそうになったユリアを支えると、苦笑いが返ってきた



ユリア:「アンタ、どんだけお人好しなんだ?ボクはアンタを撃とうと思えば、
「いや、撃てないね」


ユリア:「……は?」



自信満々に言い切った男の顔をまじまじと見つめる

男はニカッと明るい笑顔を向けた



「ユリアは、兄ちゃんのこと大好きだもんな?」



……なんなんだ、こいつ

きっとこいつはバカが付くほど妹が好きなんだろう

そして、ボクの中にいる“あたし”も…

怒りも呆れも通り越して笑えてきたこの兄妹にユリアは微かに笑みをこぼした



ユリア:「アンタも…困った兄ちゃんもったもんだな…」


「ユリア?」


ユリア:「じゃあね、“お兄ちゃん”」



そう頬笑んだ瞬間、ユリアは白い光に包まれた

その眩しさに男は思わず目を瞑る

光が収まったのを感じ、うっすら目を開けると異質な精神が辺りを漂っていた

こいつがユリアを……

男が一睨みするとその精神はきれいに消えた

と、腕の中にいるユリアがぴくりと動いた



ユリア:「お兄ちゃん…?」


ザックス:「っユリア!」



やっと呼ばれた自分の存在にユリアの方へ向き直る

さっきまで銀色だった髪は自分と同じ黒に戻り、瞳にもいつもの柔らかさがあった

が、ザックスを見た瞬間、ユリアの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた



ザックス:「え、え!?ユリア!?」


ユリア:「っご、め…ん」



自分の腕に触れているユリアの手が震えている

ザックスはその手にそっと自分の手を重ねた



ザックス:「…あれがお前の本音か?」


ユリア:「っ!!違…、!!」



見守っていると言ってくれた兄に対してひどいことを言ってしまった

兄の存在を否定してしまった

その事を謝らなければいけないのに言葉が出てこない

口を開いたり閉じたりしているユリアにザックスは笑みを向けた



ザックス:「ごめんな?兄ちゃん、嘘吐きで」


ユリア:「っ!!」



その笑みが悲しげなものに見えてユリアは慌てて首を横に振る

それを見てザックスはフッと吹き出した



ザックス:「そんなに振ると首取れるぞ?」


ユリア:「……っ、」



───お兄ちゃんの嘘吐き…っ!!


───ごめん、ユリア…


冷たい雨の感触

力なく笑う兄

零れ落ちていく幸せ

全て鮮明に覚えている


どうしてあの時、罵声を浴びせてしまったのだろう

伝えたい事はたくさんあった

聞きたい事もあった

けれど、全部過ぎ去ってしまったこと…



ザックス:「さっき、お前に“嘘吐き”って言われて気づいたんだ」


ユリア:「え…?」



ふいに口を開いたザックスを見上げる

その表情はどこか遠くを見つめていた



ザックス:「俺、いろんな人達と約束してたんだ。街を守る、コピー機を直す、一緒に花を売る…。でも、果たせなかった」



そう言って自嘲気味に笑う兄の横顔に胸が痛む

もう約束は果たせないんだ、お兄ちゃんは………?

お兄ちゃん“は”…?

……じゃあ、あたしは…



ザックス:「俺は…本当に嘘つ、っうお!?」



話の途中にも構わずユリアはザックスの首に腕を回し、思い切り引き寄せた

突然のことにバランスを崩しかけるがザックスは持ち前の運動神経でなんとか立てなおす



ザックス:「え、ちょ…ユリア?」



ユリアの表情を窺おうにも首にしがみついていて顔が見えない

と、その腕に力がこもった



ユリア:「ありがとう」


ザックス:「…え?」


ユリア:「あたしが調子悪い時はご飯作ってくれた、ネクタイの締め方教えてくれた、任務がうまくいかない時に励ましてくれた、クラウドとのこと応援してくれた…」



ずっと一緒にいたから気づかなかった

失ってから気づくなんて思わなかった

大切な家族だから、いつも支えてくれたお兄ちゃんだから…



ユリア:「見守っててくれて…ありがとう」


ザックス:「ユリア…」


ユリア:「あたし、お兄ちゃんには本当に感謝してる」



今まで感謝の言葉なんて言ったことがなかった

恥ずかしかったし、必要ないと思ってた

けど、言葉にしなきゃ伝わらない…

それを知ったのは本当に最近



ユリア:「お兄ちゃんが果たせなかった約束はあたしが果たす。あたしがお兄ちゃんの分まで…生きる」



こう思えるようになったのも最近

やっと…乗り越えられそう

罪の意識も、自分自身も



ザックス:「…………」


ユリア:「?…お兄ちゃ
ザックス:「ス、ストップ!そのまま!!」



黙り込んでしまったザックスの顔を見ようと体を離そうとしたら、頭を押されて同じ体勢に戻った

何事かと首を傾げていると大きなため息が聞こえた



ザックス:「お前さぁ、いきなりそういうこと言うなよ」


ユリア:「え!?なんで?」


ザックス:「泣いちゃうだろ〜?感動して」



いつものような明るい調子で話しているが、微かに声が震えている気がする

ユリアは小さく笑い、その背中をあやすようにポンポンと叩いた



ユリア:「お兄ちゃんはあたしのこと大好きだもんね〜」

ザックス:「当たり前だろ!」


ユリア:「うわ、言い切った…」


ザックス:「俺はユリアのこと……」



昔のような軽口の叩き合いをしていると、再びザックスが黙ってしまった

が、今度はユリアより先に口を開く



ザックス:「これはクラウドのセリフだな」


ユリア:「へ?」


ザックス:「とっといてやる!その方が嬉しいだろ?」


ユリア:「な、に言って…!!」



突然のことに声も少し裏返ってしまい、ユリアの顔は熱をもつ

と、ザックスは体を離してニカッと頬笑んだ



ザックス:「幸せになれよなっ」


ユリア:「っ…!」


ザックス:「俺は、ユリアが幸せならそれだけで十分」


ユリア:「お兄ちゃん…、」


ザックス:「ははっ!ユリアは本当に泣き虫だな」


ユリア:「…、うるさいっ」



溢れそうな涙をこらえながら目を逸らす

それをザックスは柔らかな笑みで見つめ、そっと頭を撫でた



ザックス:「お前はもっと自分に自信持て。何もしないうちに諦めんなよ」



…そうだよね

まだ何も始まってない

あたしの戦いはこれからだ



ユリア:「あたし、戦ってくる」


ザックス:「うん」


ユリア:「カダージュ達とも、ジェノバ細胞とも、…クラウドとも」


ザックス:「あぁ。頑張れよ」



そう言ってザックスは立ち上がり、ユリアを引っ張り上げる

と、どこからか光が差し込み、ユリアを照らし出した



ザックス:「気を付けてな。俺はこっちで見てるから」


ユリア:「うん。…あ、お兄ちゃん」



ちょいちょいと手招きをするユリアに何事かと腰をかがめるザックス



ザックス:「どうした、ユリア…っ!?」



柔らかく、温かい感触が頬に伝わる

それが何かに気づいたザックスは頬を押さえ、慌てて体を起こした



ザックス:「え、な、おま…っ!!」


ユリア:「あははははは!!お兄ちゃん顔真っ赤!」



耳まで赤くなっているザックスにケラケラと笑うユリア

ふと、ユリアを包んでいた光が強さを増し、眩く輝きだした



ユリア:「エアリスに怒られろー!あはははっ!!」


ザックス:「お前なー…!」

ユリア:「お兄ちゃん」



文句を言おうとしたザックスもその優しい声音に口をつぐむ

眩しいぐらいの光の中でユリアはにっこりと頬笑んだ



ユリア:「ありがとう」


ザックス:「…あぁ」



笑みを返すとユリアは嬉しそうにはにかみ、光の中に溶け込んだ

その光が消える頃にはもうユリアの姿はそこにはなかった



ザックス:「〜〜〜っ!!なんなんだよ、もー!」



顔を両手で覆い、蹲るザックス

その後ろから、ゆるく結われた髪を揺らしながら明るい女性の声が聞こえた



「ふふ、ザックスはユリアのこと大好きだもんね〜?」


ザックス:「エアリスまでそういうこと言わないっ!」



クスクスと笑う女性、エアリスは未だに蹲っているザックスの背中を見つめながら話しだす



エアリス:「でも、本当のこと、だよね?」


ザックス:「───、そうだけど…」


エアリス:「ならいいじゃない。よかったね、お兄ちゃん」


ザックス:「そう、だけどさ…っ」



言葉を詰まらせるザックスに歩み寄り、そっとその背中を抱きしめる

小さく聞こえる嗚咽にエアリスは黙って額を背中に付けた

何度か大きく深呼吸をしたザックスはゆっくりと息を吐きだす



ザックス:「はぁ…、ユリアはどこであんなこと覚えたんだろ…」


エアリス:「あはは!心配するところそこなんだ?」



兄妹の感情とか、別れとか、そういうものはエアリスにはあまり分からない

けど、彼の傍にいて少しでも元気づけてあげたい

彼の笑顔をずっと見ていたい

そう思いながらエアリスはザックスに寄り添った





























体が温かい

優しい温もりが体を包んでいる



「───っ、───!!」



…誰か、呼んでる…?



「──から、───ユリア───、」



誰?この声…


ユフィ:「だっから!ユリアだっていう証拠は!?そっくりさんだったらどうすんのさ!?」

ティファ:「でも、本当にユリアなんだから!前に教会で私のこと助けてくれたのよ!?」


シド:「でもなぁ…、いっぺん死んだって聞かされた人間が目の前にいるってぇのも…」


バレット:「信用ならねぇっつーか…」



………………えっと…

すっごく起きづらい!!!!

何これ、たしかにあたしの名前は出てるけどなんか違う!

もっとこう“しっかりして!ユリア!”みたいなのを想像してたのに!!

起きあがったら皆と感動の再会…みたいな流れじゃないの!?



ヴィンセント:「そううまくいくわけないだろう」


ユリア:「ですよねー…って、え!?」



予想外の返答に思わず起き上がる

目の前には記憶に新しいあの無表情があった



ユリア:「…ねぇ、前々から思ってたんだけどさ。ヴィンセントって人の心とか読めるわけ?」


ヴィンセント:「いや、表面上のものしか読めないな」


ユリア:「つまり顔に出てたってことね…」



はぁ、とため息を吐くと至る所からの視線に気がついた

さっきまで言い合いをしていたティファ達もこちらを凝視している



辺りを静寂が包む

その静けさがなんとなく気まずく、ユリアは何か言おうととりあえず口を開いた



ユリア:「あ…えっと、こんにち
ティファ:「ユリアっ!!」



言い終わる前にティファが首元に抱きついてきた

それを支え、ユリアは目を瞬く



ユリア:「ど、どうしたの、ティファ?」


ティファ:「どうしたの、じゃないわよバカ!すっごく心配したんだからっ!!」



目に涙を溜めてこちらを睨むティファ

その瞳から冗談や嘘を言っているようには思えない

と、他のメンバーもおそるおそる近づいてきた



シド:「本当に…ユリアか?足あんのか?」


ユリア:「…まぁ、いちおう」



そう言って片足を上げて見せると、全員の表情が一気に明るくなった



バレット:「なんだよ、ユリア!生きてたんなら連絡くらいしろよな!!」


ユフィ:「ホントだよ!今までどこ行ってたのさ?ていうか、あの後どうなったの?」


レッドXV:「ユリア…、本当によかった…」


ケット・シー:「ほんまですわ〜。あんなお別れの仕方ないやろ?」



まわりを囲まれ、頭をぐしゃぐしゃと撫でられたり、肩を小突かれたりと手荒い歓迎を受けながらユリアは呆然と立ち尽くす

それに気づいたティファはユリアの顔を覗き込んだ



ティファ:「どうしたの?どこか調子悪い?」


ユリア:「うぅん、違くてさ…」



全員の顔を見回し、一人一人を確認する

バレット、シド、ユフィ、レッドXV、ヴィンセント、ケット・シー、ティファ…

2年前と変わらないメンバーがここにいる

互いに支え、認め合い、ケンカもしながら旅をしてきた仲間達



ユリア:「あたし、死んだことになってたから…もう皆に会えないって思ってた」



会えなくても構わないと思ってた

むしろ会いたくないとさえ思っていた

会ってしまったらきっと、“何か”に気づいてしまう

今の生活が変わってしまう

それが怖かった

でも…、



ユリア:「会えて、よかった…っ」



笑顔のユリアからはボロボロと涙が零れている

それが悲しさからではないと気づくと、ティファの瞳からも涙が零れ落ちた



ティファ:「あたしも会いたかった…!」



きつく抱きしめられ、少し息苦しかったが今はそれが心地よかった

震える声を無理やり押さえ、ゆっくりと口を開く



ユリア:「…皆に、お願いがあるんだけど…」


ユフィ:「何?どんな?」



小さく深呼吸をし、涙を拭う

黒く輝く瞳には強い意志が宿っていた



ユリア:「連れて行ってほしい場所があるの」


















クラウド:「っはぁ!」



廃屋と化した神羅ビルの中、金属のぶつかり合う音が響き渡った

剣を振りかぶり、セフィロスに斬りかかるクラウド

が、それはいとも簡単に躱され、刀で弾かれた

それでも体勢を立て直し、間合いを詰めて鍔競り合う



セフィロス:「ほう?何がお前を強くした?」


クラウド:「アンタには言いたくないねっ」



そう言って剣で押し上げ、セフィロスは天井を破って上階へと吹き飛ぶ

クラウドは勢いよく地を蹴ってそれを追った

屋外に出て辺りを見回し、セフィロスの姿を探す

と、頭上から何かが崩れたような音がした

慌てて見上げるとビルの一部が斬り落とされ、こちらに落ちてくるところだった

素早くその場を離れたため激突は免れたが、すぐに背後からセフィロスが斬りかかってくる

攻防を繰り返しながらお互いの隙を探していると、ふいにセフィロスが口を開いた



セフィロス:「お前への贈り物を考えていた…」



言っている意味がよく分からない

その言葉も気にせずに何度も斬りかかるがセフィロスはいとも簡単にはじき返す

そしてニヤリと口角を上げた



セフィロス:「絶望を贈ろうか?」


クラウド:「っ……!」



その笑みにぞくりとする

贈られるというよりも何かを奪われるのではないか

そんな不安とともにユリアの顔が頭を過ぎる

と、セフィロスの気が上空に向いた



セフィロス:「……いい贈り物が見つかった」


クラウド:「何…っ!」



刀で弾き飛ばされた時にバランスを崩し、地面へ急降下する

壁に剣を突き刺し、落下は免れたがその一瞬で上空にあるものが見えてしまった



クラウド:「飛空挺…」



そこから何かがひらりと飛び降りる

ハッとしてセフィロスを見るとその残虐な笑みを深め、こちらに見下すような視線を投げかけていた



セフィロス:「跪き、許しを請う姿を見せてくれ」



瞬間、セフィロスの頭上が崩れ始める

自分の体力が限界に近付きつつあることをクラウドは分かっていた

けれど、一刻も早くこのビルの上へ行かなければならない

そこには今さっき飛空挺から飛び降りた人物、ユリアがいるから…!!

クラウドは剣をもう一つ取り出し、両手にそれを握って壁を蹴り、宙を舞った





05 終

2010.09.29