小説 | ナノ



01
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ライフストリーム

それは星を巡る命の流れ

星と、星に生きる全ての命の源…


神羅カンパニーはライフストリームを資源として使う方法を見つけた

おかげでミッドガルの市民や他の街の人々の生活は一気に豊かになった

でもそれは、星の命を削ること

そう考える人、アバランチという集団もいた

神羅はアバランチを制圧するためにソルジャー、タークス、神羅兵を惜しみなく送り出した

そのソルジャー、タークス、神羅兵にはそれぞれ一人ずつ特別な人物がいた


師であり友である人物を失ったザックス

ザックスの妹であり、ずば抜けた戦闘力をもつユリア

ザックスの友でありユリアの恋人のクラウド


何も知らない3人は日々を楽しく過ごしていた


しかしある日、そんな日々はある人物によって突然奪われた

セフィロスだ

自分が恐ろしい実験で生まれたと知ったセフィロスは神羅を憎み、いつしか全てを憎むようになってしまった

ニブルヘイムに火を放ったセフィロスは、仲間であったはずのザックスと自分の故郷を燃やされ悲しむクラウドを傷つけ、姿を消した…

その直後、ニブルヘイム事件隠蔽を命令されたタークスだが、ユリアは何者かに拉致されて人体実験を施された



そして5年後…

全ての運命が狂い始めた


逃亡者として殺されたザックス、兄を失ったユリア、記憶を失ったクラウド

そして星を守ろうとする人々

たくさんの戦いがあり、戦いの分だけ失ったものも多かった

仲間であり、ザックスの恋人でもあったエアリスもライフストリームになってしまった

これ以上失いたくない

何もなくしたくない



そして、最後の日…

彼はまた一つ、
大切なものを失った


彼女はまた一つ、
重い悲しみを背負った


2人はまた一つ、
“許されない罪”を意識した





「はいよ、お嬢ちゃん!サービスしといたからねっ」


ユリア:「ありがとう、おじさん」


「いいっていいって。困った時はお互い様さ!」



笑いながら手を振るおじさんに手を振り返し、帰路に着く


ここは中央都市エッジ

街の中心にはメテオの記念碑が建っている

神羅も市民も、“あの日”を忘れないように…


ふと見ると記念碑に花を供えている親子がいた

あそこは毎日花が絶えないし、市民の心の癒しにもなっているはずだ

ミッドガルにいた多くの人々はここに住んでいて、街も活気づいている

建物の建築も順調に進んでいるし、全てがうまくいっているように見える


………けど、


ユリアは向きを変え、路地裏に向かった



「う…あぁ…、」



裏通りに行けば地面に座り込み、ぐったりとする人達

────星痕症候群

2年前にライフストリームを浴びた人々に表れるこの症状は未だに治療法がない

だから症状が進行して亡くなる人も少なくない

助けてあげたいけれど、どうしようもないのが現状だ…


ふと足下を見ると、2人の子どもが蹲っていた

1人は布に包まり、少女に寄りかかっている



ユリア:「その子、どうしたの?」


「え…?…………っ」



少女は目を逸らし、黙り込む

布に包まった子どもを覗き込むと、それは幼い少年で、星痕を患っていた



ユリア:「弟くん、星痕なんだ?」


「…………」



少女は小さく頷き、弟を抱き寄せた

“星痕を患っている者と接触すると感染する”などという嘘の情報が出回り、罪のない人達が差別されている

この姉弟もそんな経験をしたのだろう…

ユリアは少年の頭を撫で、少女にハンカチとペットボトルに入った水を渡した



ユリア:「それあげる。弟くん、治るといいね」



ポカンとする少女に頬笑み、背を向ける



「あ…、お姉ちゃん!」


ユリア:「ん?」


「お姉ちゃんの…名前は?」



ハンカチを握り締めてこちらを見つめている少女にもう一度笑みを向ける

…そう、あたしの名前は…



ユリア:「ユリア・フェア。タークスだよ」


「タークス…?」



キョトンとする少女に手を振ってその場を去る

分からなくてもいい

誰もあたしの事を知らなくても…

あたしは…消えた存在だから


ユリアが裏通りを出ようとした時、大通りを黒いバイクがものすごいスピードで走り去った



ユリア:「…速っ」



あと数秒早かったら引かれてたかも…

そんなことを考えながらユリアはエッジを後にした







黒いバイクは店の前に止まり、荷物を下ろし始めた



「おう、兄ちゃん!悪いねぇ、いつもいつも」


「いや…、仕事だからどうってことはない」



バイクの主はゴーグルを外し、金髪を掻き上げる

空を見上げた青い瞳が眩しそうに細められた




あと数秒早かったら…

運命は変わっていたのかもしれない
















     Deep Crime














ユリア:「ただいま」


レノ:「おう、おかえり」



ドアを開けるとレノはソファーに座って携帯をいじっていた

ユリアは買ってきたものをキッチンへ持っていく

と、目の前のラジオが何か喋っている

…誰だ、付けっ放しにしたやつは

軽くため息を吐き、買ってきた食材を冷蔵庫にしまいながらラジオに耳を傾けた



『今朝発表された調査委員会の報告によれば、大気中のライフストリーム濃度は2年前の100分の1程度で、人体に全く影響の無いレベルまで下がっているとのことです』



お、調査組の皆さんお疲れさまですね



『しかし、神羅カンパニー本社ビルである当社所有の魔晄炉周辺は依然、危険レベルにあり。星痕発症を避けるために該当施設周辺には近づかないようにと委員会は警告しています。…次は神羅カンパニーに対する補償請求に関するニュースです』



そこまで聞いてラジオの電源を切る

毎日毎日同じニュースばかり…

安全になる時なんてあるのかな?


今後の市民達の生活を考えていると、ふいにレノの声が聞こえてきた



レノ:「あ、もしもし?俺だよ俺!俺、俺!」



…今、巷を賑わせている詐欺の一種?

確かに「そっち」の人に見えなくもないけど…



レノ:「どちら様って…!…レノだぞ、と。覚えてない、のか?」



少し悲しげな声がなんだか哀れでならない

慰めてあげようとキッチンを出た瞬間だった



レノ:「なぁ、ティファ。クラウドいるか?」



その言葉に体が固まる

この2年間、ずっと聞くことのなかった2人の名前

どうしてレノがティファと連絡とってるの…?




(───ドクン、)




ユリア:「っう…!!」



右肩を激痛が襲い、慌ててキッチンの端を掴んで体を支えた

意識が朦朧とし、レノの声が耳を通り抜けていく

そう、自分の体にも星痕は表れた

ルーファウスも星痕を患っているため、これ以上仲間に負担をかけたくない

その想いからユリアは星痕を隠し続けてきた

なかなか去らない痛みに焦りを覚える

早くこの場から去りたい、誰かに気づかれる前に…早く…
「ユリア」



静かな声ではっきりと呼ばれ、意識が引き戻される

振り返ると不機嫌なオーラを纏った人物がいた

車椅子に乗り、頭から布を被っている人なんて一人しかいない



ユリア:「ルーファウス…」


ルーファウス:「何をそんなところに突っ立っているんだ?」


ユリア:「……なんでもないよ」



流れる冷や汗をさりげなく拭うとレノがキッチンに現れた



レノ:「あれ?社長もユリアもこんなとこで何してんスか?、と」


ルーファウス:「私は水を飲みに来ただけだ」



不機嫌オーラ丸出しで言うルーファウスに苦笑いを向け、レノはユリアに向き直る

ユリアは軽く視線を泳がせ、笑って見せた



ユリア:「レノの電話、邪魔しちゃ悪いかなって思ってさ」


レノ:「電話……っおま、聞いて…
ユリア:「あー!買い忘れ思い出した!行ってきま〜す」



レノの言葉を遮り、颯爽と外に出る

階段を駆け降りていると後ろから腕を掴まれた



レノ:「ユリア!待てって!!」


ユリア:「なんで?早く行かないと売り切れ
レノ:「泣くなよ…」



言われて自分の頬を流れている水滴に気づく

一瞬、冷や汗が目に入ったのかと思ったがそうではない

レノは苦しそうな、申し訳なさそうな声で謝った



レノ:「悪かった…。ユリアがいるって分かってたのに、あいつらの名前出して…」



違う…レノが悪いんじゃない…



レノ:「でも分かってくれ。あいつらの協力がなきゃ、ツォンさんもイリーナも助けられない」



今はいない2人の仲間

彼らを助け出すには自分達だけではあまりに非力だ



レノ:「それに…平和のためにも」



分かってる…、分かってるよ

優しく頭を撫でるレノに涙が溢れだす

こんな事で心配をかけたくない

もう、“彼への想い”は忘れたと思っていたのに…



レノ:「…なぁ、ユリア」


ユリア:「何…?」


レノ:「俺に…いや、俺らに隠し事してないか?」



真剣な瞳に見つめられ、一瞬怯む

が、ユリアはゆるゆると首を横に振った



ユリア:「そんな、何も隠してなんか───っ!!」



ふいに背筋に悪寒が走った

辺りを見回すと、いつからいたのかバイクに跨った銀髪の青年が3人こちらを見ている

中央にいた青年が可愛らしい笑顔を向けた












「見つけたよ、姉さん」





































『「ヒーリンにいるレノから電話あったよ。仕事の依頼だって。クラウド…元気にしてるの?」───メッセージは以上です』



携帯を閉じ、ポケットにしまう

気づくといつも自分はこの崖の上にいる

親友を失ったこの場所に…

沈みがちな気分を無理やり奮い立たせる

気乗りのしない依頼相手だが仕方ない

相手が神羅だろうが誰だろうが、依頼が来たらそれは“仕事”だ

ゴーグルを着け、バイクのハンドルを握った瞬間、



クラウド:「っ!!」



左腕に激痛が走り、目の前に閃光が散る

無意識に腕を押さえていた右手を外し、軽く息を吐いた

星痕症候群、クラウドもまたそれを患う者の一人だった

突如表れたその症状にクラウドはティファやマリン、デンゼルと暮らしていた家を出た

星痕は感染する、なんて噂はクラウドもティファも信じていないが、自分はそこにいてはいけない気がしたのだ

気を取り直し、エンジンを吹かすと黒いバイク…フェンリルは勢いよく発進した




















クラウドが去った数分後、3台のバイクが崖の上で停車した

中央の1台が近くに刺さっていた錆びた剣、バスターソードを蹴飛ばす

それは地面から抜け、静かに倒れた

同時に、すぱんと頭を叩く小気味いい音が響いた



「痛っ」


ユリア:「全く痛くなさそうな顔しておいてよく言う…じゃなくて!何してんのよ!?」



目の前にある銀髪の青年の頭を叩き、睨みつける

この3人の中で一番幼い顔をしているが…自分とさほど歳は変わらないだろう

変わらないはずなのに…



「だって邪魔だったから」


ユリア:「はぁ?だからって…
「姉さん、少し静かにして」



射抜くような視線に右肩が痛み出す

痛みに顔を歪めると“ごめんね?”と肩を撫でてから視線を外した



「なぁ、カダージュ。あれが兄さんの街か?」


「あぁ」


「…歓迎してくれると思うか?」



長髪の青年がユリアの前にいる少年、カダージュに問う

カダージュは笑いながら首を振った



カダージュ:「無理無理」


「泣くなよ?ヤズー」



そう言って意地悪い笑みを浮かべる短髪の青年

ヤズーと呼ばれた長髪の青年はそれを一瞥して前を見た



ヤズー:「母さんも一緒なんだよな?」


カダージュ:「…どうかな?」


ヤズー:「…泣くなよ、ロッズ」



ロッズと呼ばれた短髪の青年は強面にも関わらず、子どものようにベソをかいている

と、カダージュは崖の下を顎で差した



カダージュ:「ほら、兄さんだ」


ヤズー:「う?」



見ると、バイクを走らせる金髪の男性

遠目だったがユリアにはそれが誰だか分かった



ユリア:「…カダージュ、アンタ達一体…」



言いかけた言葉は激しいエンジン音にユリアの声は掻き消される

と、両脇にいたヤズーとロッズがバイクで崖を駆け降りて行った

それは真っ直ぐ、さっきの金髪…クラウドに向かう

ユリアは楽しそうな表情のカダージュを見つめながら数分前の事を思い出した








カダージュ:「見つけたよ、姉さん」



そう言って歩み寄るカダージュにユリアはひたすら頭に?マークを浮かべる

…母さん、いつの間にあたしには弟ができたの?

と、レノが瞬時にユリアを背後に隠した



ヤズー:「なぁ、カダージュ。あの人が姉さんなのか?」


ロッズ:「一緒に遊んでくれるのか?」



カダージュの後ろには似たような風貌の男性が2人

つまり、3兄弟…


母さんんんんんん!!!!三人産んだの!?お疲れさま!ていうかあたし、彼らとあんまり年の差感じないんだけど、どういう事かな?

お兄ちゃん、どうやら我が家は5人兄弟だったみたいです…



カダージュ:「姉さん、ボク達と一緒に来てよ」


ユリア:「一緒って…
レノ:「行かせるわけないだろ!」



手を差し伸べてきたカダージュを振り払い、ユリアの腕を引いて室内に逃げ込む

と、ドアの前にはルードとルーファウスが待っていた



ルーファウス:「さっそく来たか…」


レノ:「社長!?」

カダージュ:「へぇ、アンタが社長?」



ゆっくりとドアが開き、カダージュは無邪気な笑みを浮かべながら近づいてくる

と、ユリアの右肩にある星痕が脈を打つように反応した

異様な雰囲気が室内を包む



カダージュ:「ねぇ、社長?母さんはどこにいるの?」


ユリア:「母、さん…?」


ルーファウス:「君達の母親など私に分かるわけがないだろう」



ごく当たり前の答えをしたはずなのに、カダージュは笑みを崩さぬまま、オーラに怒気を含ませた



カダージュ:「社長、分かってるよねぇ?こっちには人質がいるんだよ?」


ルーファウス:「人質…?」


カダージュ:「これ、」



そう言って取り出されたのは調査時に使う小型の装着カメラ

それには所々に赤い点がこびり付いている



ルーファウス:「ルード、映像を出してくれ」


ルード:「はい…」



奥の部屋からノートパソコンと数本のコードを持ってきたルードはてきぱきと接続を始める

その間カダージュは部屋の中をキョロキョロと見回しているだけで、特に危険は見られない

けれど、この雰囲気はなんだろう…?

しばらくすると、ボンヤリと映像が映し出された



ユリア:「これ、イリーナの…!!」



映っているのは北の大空洞、2週間前にレノ達が調査しに行った場所だ

あの日、イリーナとツォンが何者かに拉致されたとは聞いていたが…



イリーナ『ツォンさん!見てくださいっ』


ツォン『…うん、…当たりだ』


イリーナ『気持ち悪いっすね〜』



ユリア:「……ねぇ、レノ」



近くにいたレノを見る

レノは視線を逸らし、俯いた



((パァン!パァン!!))



イリーナ『っう…!!』


レノ『イリーナ!?』


イリーナ『い、行って…!』



飛び立つヘリを見送り、イリーナの視線は前を向いた

迫り来る敵に発砲するが相手は構わず近づいてくる

ふと、映像がツォンへ移動する



イリーナ『ツォンさんっ!』


ツォン『っく…』


イリーナ『!っきゃ!!』



何かに掴まれ、画面にはさっきの迫り来る敵…カダージュが映る

軽く頬笑みながら彼は言った



カダージュ『必ず返してもらうからね?』



そこで映像は切れた

そして彼らは今、“返して”もらいにきたのだ


……ジェノバの首を



ユリア:「なんで…ジェノバを取ってきたの?」



自分が聞いていたのは“調査”という事だけだ

“ジェノバの探索”だなんて一言も…



カダージュ:「きっと姉さんを驚かせたかったんだよ」



ふいに耳元で囁かれ、思わず後ろに下がると背後からしっかりと抱き締められた



カダージュ:「姉さんも母さんに会いたいんでしょ?」


ユリア:「え…?」


レノ:「っおま
カダージュ:「で?母さんはどこ?」



先ほどとは打って変わって冷たく低い声

ルーファウスは怯む様子もなく淡々と話しだした



ルーファウス:「あれはとある人物に頼まれてな。君達と同じ…そうだな、“兄”とでも言っておこうか」


カダージュ:「兄さん…?」



自分に兄がいること自体が初耳らしく、目を瞬いている

…いや、あたしが“姉さん”て呼ばれる意味も分からないんだけど



ルーファウス:「君達の兄さんはここから東に進んだ場所、ミッドガルに住んでいる。容姿は金髪で
カダージュ:「分かった。ありがとう」



それだけ聞いてカダージュはユリアの手を引いたまま歩きだす

ユリアが抗議するよりも早く、レノが行く手を塞いだ



レノ:「待てよ。ユリアは関係ないだろ?」


カダージュ:「姉さんは僕達にとって大切な存在なんだ。…邪魔しないでよ」



そう言って腰に差してあった双刃を抜き、レノに向ける

ユリアは慌ててカダージュの腕にしがみついた



ユリア:「やめて!あたしが一緒に行けばいいんでしょ?」


レノ:「ユリア…!」

カダージュ:「そうだよ、姉さん。さ、行こう?」



優しく頬笑まれ、再び手を引かれて歩きだす

悔しそうに顔を歪めるレノから目を逸らし、開かれたドアから外を見やった

下には彼の仲間と思われる2人がバイクに跨ったまま待機している

と、カダージュはユリアの手を引きながら楽しそうに話しだした



カダージュ:「僕、姉さんがいるって分かった時、すごく嬉しかったんだ。ほら、僕達3人兄弟だからさ。やっぱり女の子もほしいなって…」


ユリア:「…ねぇ、その事なんだけど
カダージュ:「あ、僕はカダージュ。で、あっちにいる髪が長いのはヤズーで、短いのがロッズ」


ユリア:「うん、ねぇ、カダージュ?あたし達の共通点って一体…
カダージュ:「ジェノバ細胞。姉さんも分かってるよね?」



カダージュの言葉がズシリと響く

ジェノバ細胞…、本来ソルジャーにしか使われない特別な措置だが、ユリアも実験体としてその措置を施されていた

そして同時期に同じく実験体とされた青年が…



ユリア:「ま、さか…!!」


カダージュ:「姉さん?」



キョトンと首を傾げるカダージュに“何でもない”と首を振る

カダージュはにこやかに笑うとユリアをバイクに乗せ、自分もそれに跨った



カダージュ:「しっかり掴まっててね、姉さん」



それを合図に3台同時に発進する

猛スピードで走るなか、ユリアはルーファウスの淡々とした口調を思い出した

…何考えてるの?ルーファウス…


















「さすがだ、自称元ソルジャー」



耳慣れない機械音とともに隣の部屋から車椅子に乗った人物が現れた

頭から大きな布を被り、全身を覆っていて表情は窺えない

だが、醸し出す雰囲気はどこか懐かしさを感じる…



「腕は鈍っていないようだな」



クラウドは目の前の人物を見つめた

この声といい、態度といい…



クラウド:「ルーファウスなのか?…アンタもついてないな」



2年前にウェポンがミッドガルを襲った時、爆発に巻き込まれて死んだと思っていたが…

ルーファウスの隣に立っていたルードを見ると、目を逸らして気まずそうに咳払いをした
 


ルーファウス:「あの日、私は
クラウド:「俺に何の用だ?」

ルーファウス:「ビルが崩れ落ちる直前に
クラウド:「俺を襲ってきた奴らは?」

ルーファウス:「なんとか
クラウド:「帰るぞ」



お互いの話の噛み合わなさにクラウドが吐き捨てるように言う

ルーファウスはしばらく黙り、ゆっくり口を開いた



ルーファウス:「…お前の力を貸してくれ」


クラウド:「興味ないね
ルーファウス:「我ら神羅カンパニーは世界に対して大きな借りがある。世界をこのような惨めな状態にした責任は我々にあると言われても仕方がない。よって、この負債はなんとしても返さねばならないのだ」



やけに饒舌なルーファウスに不信感を抱きながらも黙って話を聞く

後ろからドア越しに“開けてくれよ”と言う声が聞こえ、レノを外に閉め出したのを思い出した

……アイツの顔は極力見たくないし、この扱いで十分だ



ルーファウス:「その第一歩として…我々はセフィロスが残した影響の調査を始めた」



セフィロス、という言葉にクラウドの目つきが変わった

…どうして今さらアイツが出てくるんだ?



ルーファウス:「あれから2年。復興の道を歩み出した世界の一番の脅威は何だ?…そう、忌まわしき星痕症候群だ」



自分の右手の甲を見つめ、ルーファウスは話を続ける



ルーファウス:「我々はその原因がセフィロスにあると考えている。世間では魔晄炉や魔晄エネルギー、そしてライフストリームが星痕の原因だと考えられている。しかし、本当にそうだろうか?ライフストリームは星の誕生とともにあり、魔晄エネルギーが実用化されてから40年以上だ。にも関わらず───」



そこまで言ってゆるゆると首を横に振った

その態度からも世間での考え方が間違っていると言いたいのが見えてくる



ルーファウス:「星痕など一度も歴史に登場しない。では───、我々の時代にいったい何が起こったというのだ?…考えられる事は一つ、セフィロスの登場だ」

クラウド:「セフィロスは死んだ」


ルーファウス:「やつの精神はどうだ?ライフストリームに溶け、しかし拡散することなく、星を巡っているとしたら?」



導き出された答えに間髪いれず反論するが、ルーファウスの説も考えられなくもない

だが、死んだ人間の精神がライフストリームにならないなんてあり得るのだろうか?

最後の戦いの時、セフィロスの精神はライフストリームに溶けて…



クラウド:「っ!」



いや、溶けていない

セフィロスを倒した時、ライフストリームとともに赤い紐のようなものがあたりを彷徨っていた

もしもあれがセフィロスの精神だとしたら……



ルーファウス:「もちろんこれは私の想像だ。しかし、可能性は捨てきれない。真実を知ることが星痕の治療にも繋がる。そこで我々は───、セフィロスの痕跡の調査を始めた。まずは…覚えているか?」


レノ:「北の大空洞だぞ、と」


ルーファウス:「何があったと思う?」



意味深な問いかけにクラウドの眉間に皺が寄る

それを知ってか知らずかルーファウスは口角を上げた



ルーファウス:「安心しろ、あそこには何もなかった。…しかし、予期せぬことが起こった。奴らが…現れたのだ。…カダージュの一味だ」


クラウド:「カダージュ…」


ルーファウス:「奴はお前も狙ってくるぞ。もう接触があったのではないか?」


クラウド:「俺は関係ない」


ルーファウス:「いや、お前も我々同様セフィロスと深く関わった者。カダージュの目的が、やがて来るその瞬間の準備だとしたら…、我々ほど邪魔な存在はないだろう」


クラウド:「準備?」


ルーファウス:「セフィロス…復活」



クラウドは呆れたようにため息を吐いた

馬鹿馬鹿しいにもほどがある

まさかこんなくだらない話をするために呼び出したのか?



クラウド:「話は終わりか?」


ルーファウス:「では本題に入る。カダージュ達に対抗するにはお前の力が必要なのだ。手を組まないか?元ソルジャー・クラウド」


クラウド:「自称、な」



ルーファウスに背を向け、ドアを開ける

が、外に出る一歩前に気になっていた事を口に出した



クラウド:「母さん、て何の事だ?」


ルーファウス:「さあ?カダージュが何か言ったのか?」



おどけた様な笑い方にクラウドの眉間に再び皺が寄る



クラウド:「ルーファウス、何を隠している?」


ルーファウス:「ともに戦う同志に隠し事などしない」



その言葉をクラウドは鼻で笑った

表情を隠すような布を被っといてよく言う…



ルーファウス:「お前も星痕の情報はほしいはずだ。一緒に暮らす孤児たちのために」



一緒に暮らしていた彼、デンゼルのため…

デンゼルも星痕を患っている

路地裏にいる子ども達も…助けられるのか?



ルーファウス:「子ども達に笑顔を取り戻してやりたくはないか?…我々の最終目的は世界の再建だ、クラウド」



背を向けていた体勢を直し、向かい合う形になる

そこにはこちらに手を差し伸べるルーファウス

神羅の言うことなんか何かの罠に決まっている、でも…



クラウド:「俺は…」

レノ:「頼む、クラウド。神羅カンパニーの再建だぞ、と」



開けられたドアからこちらを見ているレノ

その一言にクラウドの顔つきがいつもの無表情に戻った



クラウド:「興味ないね」



お決まりのセリフを吐き、レノを押しのけてさっさと出て行く

危うく神羅の連中に騙されるところだった

あんな話を真面目に聞いていた自分もバカみたいだが…

バイクに跨り、ふと建物を見上げる

心の隅で“もしかしたらユリアがいるかもしれない”などと思っていた事の方がもっとバカらしい

自嘲気味に笑い、バイクを走らせた

忘れたいのに忘れられない…

消えることのない胸の痛みをクラウドは風を切る音で紛らわせた





01 終


2010.01.08



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