初めてちゃんと付き合ったっていうか、彼女ができたのは中三のときだった。
俺はなんか浮き足立ってて、「みちる、俺、彼女できた」って能天気に月丘に報告して。
「うそ!すごい、よかったね」と言って、月丘は、笑ってた。
あの頃月丘は俺が好きだった。から、多分悲しそうに笑ってたに違いないけど、もう思い出せない。
あの頃は俺、月丘に恋してなかったから。

それから後、俺は彼女がいても月丘との接し方を変えなかった。
だって月丘のこと、友達だと思ってたから。
月丘に恋愛の相談とかかなりしてた。月丘は、元気なかった。今考えれば当然だ。

で、当然だけど彼女と別れる日がやってきて、俺はまた別の奴と付き合って。
振ったり、振られたり。けど、告白したことはなかった。ていうか、今まで、一度もない。

月丘はなんでも話せる友達だった。
恋愛相談はずっとしてきた。「彼女と別れた」って話をする度、月丘はソワソワしてた。
それで「ひょっとしたら」って思った。月丘は俺のこと好きなのかもしれないって思った。
けど俺は月丘に恋してなかったから、ちょっと優越感感じて…っていうか、まぁ嬉しいって思いつつ、気付かないフリした。

そしたら、いつからか月丘はソワソワしなくなった。

あ、もう俺のこと好きじゃないんだ。って思ったら、…俺のほうがソワソワしてた。






我ながら馬鹿だと思う。

月丘にソワソワし始めてから、最初のほうは「そんなわけない」って気持ちに蓋をした。
それでまた、告白されたからって色んな子と付き合って。けど、なんか、身の入らない恋愛だった。
自覚したらスッキリした。月丘のこと、好きだ。だから、他の女子と付き合っててもダメだったんだ。

こんな不安定な気持ちで、月丘と話せない。
月丘が可哀想だと思って、それ以前に失礼だと思って、高一のときはあんまり話さなくなった。
でも、意を決して半年くらい前に「久しぶり」って声かけたら、月丘はめちゃくちゃ嬉しそうに笑って、「久しぶり、高瀬!」って言ってくれた。

正直、名字呼びに戻っていたのは頭にガツンときた。(だって、好きだから)


そういえば、半年前――春休みか。
月丘とたくさん話した。野球のこと、学校のこと、友達のこと、恋愛のこと。
あの日は俺の部屋に呼んだけど、こいつは全然どきどきしてない感じだった。このやろう。俺はすごくどきどきしてたぞ。

「高瀬、今の彼女さんって誰?」
「へ?今はいない」
「うそ!?一月くらいまで、見かける度違う女の子連れてた気がする」
「あー…(そういえばあの頃スパン短かったな…)」
「みんな可愛かったね。お似合いだと思ってたよー、でもそっか、今はフリーか」
「お、おお、(なんだ、え、期待していいのか)」

「高瀬、今もモテるよね。女の子とっかえひっかえで、変わっちゃったなぁって思った。昔は一途だったのに」

あー、これは絶対忘れられない。
俺は思いっきり動揺して、開きっぱなしだった漫画雑誌を落としたんだった。

「あのさ、お、お前から見て俺って…軽い奴?ナンパ?」
「んー…」
「…(ごくり)」

「わたしのことなんかもう忘れちゃったと思った。もう一回こうやって話せて…嬉しい」
「……お?」

「わたしみたいなのとまだ友達でいてくれる。昔と変わってないのもわかったよ。高瀬は変わってないと思う」

「しかもエースなんでしょ?努力家だし、有名人だし、優しくって、モテるの当然!」
満面の笑みでそう言う月丘に、俺は苦笑いで答えたっけ。
月丘にモテなきゃ、今の俺は全然満足できないんだよ。そのへんわかって る、わけないな。こいつに。


「月丘は?」
「え?」
「彼氏いねぇの?」

よく普通の声色で聞けたと思う。あの頃の俺えらい。
月丘は「いるように見える?」って聞き返してきたから、俺は普通に頷いた。そしたら月丘は苦笑した。

「いないし、いたことないよ」
「は!?」
「なにそれ、馬鹿にしてんのモテモテ高瀬」
「や、ちがくて、え うそだろ」
「やっぱり馬鹿にしてるじゃん!」
「そうじゃなくて!」

「いるだろ、ほんとは」月丘は首を横に振った。そりゃ、高一の終わりだし、まだ普通だと思うけど。

「や、だって」
「ありがとう。けどほんとだよ。いなくて妥当じゃない?」
「月丘かわいいじゃん」

「あ、」唇から不意に漏れた。なに言ってんだ俺。いや可愛いよ、月丘、すげぇ可愛くなったと思う。
髪長くなったし、あどけない顔はそのままだけどそこそこ美人だし、その、スタイルとかも、女らしくなった、し(なんて言ったら怒られたろうな)
俺がこいつのこと好きだから、その贔屓目はあると思うけど。
けど、月丘は大人しくてあんまり友達が多いほうじゃないけど、話してたら好きになっちゃうようないい奴なんだ。

「えっと、ご、ごめん…か?」

引っ込みがつかなくて、俺は思わず謝った。
恐る恐る月丘を見たら、 真っ赤になって俯いてた。
これが漫画だったら、多分赤いハートにキューピッドが矢を射ってた。(う、うわああ、なにこいつ!すげー可愛い)

「ごめんじゃない!」
「は、え、?」
「ごめんなさい!でしょ!!」
「…え?」
「も、もうもう、ばかじゃないの、かわいくないし、全然」
「え、っと…月丘さん?」
「高瀬かっこいいんだから、思ってもないこと簡単に言っちゃだめ、だよ、それじゃナンパだよ」
「え、ていうか 思ってなくない、んだけど」
「もう、もういいってば!ありがとう!高瀬のいけめん!あほ!うそつき!!」

罵られてるのか、褒められてるのか、照れてるのか。つーか全部混じってた。
それで俺、完璧に落ちてた。恋愛慣れしてなくて、ちょっと自信のない、ずっと前の月丘と変わってない。
なのに、今は違う。俺が、違う。 月丘のこと、好きで好きで仕方なくなってる。

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