昔は、知り合ってちょっとの頃は、俺たち下の名前で呼び合ってた。
あの頃は、俺は野球一筋で(まぁ、今もだけど)、月丘が、恋してた。
今は、俺が恋してて、月丘は、 …えっと、なんだろうな。





そう、あの頃。
多分、あの頃は俺のほうが鈍かった。

『ね、高瀬くん』
『ん?』
『じゅ、準太って呼んでも、いいかなぁ』

『じゃ、俺もみちるって呼ぶな』

あの頃のぱっと輝いた月丘の笑顔、くっきり覚えてる。
けど、あの頃とは、もうお互いに違うみたいだ。
あああああ。あの頃の俺たちカムバック。


「高瀬」
「へ」
「バッグありがとう。じゃあ、またね」
「あ、っ 待って」

ぼっとしてたらいつの間にか校門を越えていて。
駐輪場の前。月丘はいつの間にかバッグを肩にかけていた。

「なに?」

しまった。なんかいきなり呼び止めてしまった。(だってまだ、話し足りない)

「練習!見に来いよな」
「テスト週間じゃん、しばらくやらないんでしょ?」
「(あ)そ うだけど、お、終わったら、さ。お前、来るって言ってて全然来ない」
「…社交辞令だと、思ってた」
「……あのね」
「わかってるよ、ごめん。高瀬がわたしに社交辞令なんて言わないこと」

どきん。心臓が疼く。鈍いくせにいっちょ前に、こいつは的確に俺の心臓をついてくる。

「けど、本当に行っていいんだ?」
「いいよ。お前野球好きじゃん」
「んー。けど、高瀬のファンいっぱい来てるからなぁ」
「俺が呼んだんじゃないし。俺が呼んでるのは月丘だし」
「…へへ」

ふにゃりと気の抜けた笑い方。あー、もうなんなのこいつ。(やべ、俺にやけてる)

「ありがとう。遠くから見る。ファンの子たちの傍なんて怖いもん」
「……近くで見てよ」
「え?」
「…え?」

あ、なんだこれ。なんだこの沈黙。
月丘はこんなことくらいで動じたりしない。
俺が好意を含んだ台詞言ったって、月丘はひょいっとかわしてく。
それは、俺たちが友達の証拠なんだ。
月丘は、俺のこと、もう好きじゃないんだ。(けど、俺は、)

「……わたしが野球好きになったのは、高瀬のおかげ」
「お、う」
「中学のときはいっぱい見に行ってたんだよね、」
「…」
「見に行けば、高瀬がいたから」


どきん、どきん、 ズキン。

そうだ。あの頃は確かに。
月丘は、俺のこと、好きだったんだよな。
だから野球部の練習を、俺のことを、見に来てくれてた。

それでいて、今は違う。

「えへへ、懐かしいなぁ…」

やっぱりはっきり言うのは恥ずかしいよな。
それとも、俺が気付いてないとでも思ってるのか。
わかるよ。お前みたいに鈍くないし、俺は、

「今日、行っていい?月丘んち」
「あー、…うんいいよ。数学やろ!」


俺は、月丘のことが、好きなんだ。

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