真っ赤な顔で口をぱくぱくさせていると、しゃがんでいた高瀬が立ち上がった。
高瀬はにこっと笑った後――右手でわたしの頬を軽く引っ張った。

「い゛っ…」
「かわいー顔」

茶化すようにそう言うけど、高瀬の顔も赤かった。
すぐに照れ隠しなんだってわかった。喉の奥がきゅうっと苦しくなったような気がした。

「月丘、もうずっと恋してねーだろ」
「え!?な、なにそれ!」
「余裕なさすぎなんだもんよ」

高瀬はわたしの頬を引っ張るのをやめた後、そのまま右手で同じ場所を撫でた。
その瞬間、かーっと顔に熱が集まるのがわかった。
高瀬の台詞だけでこんなに翻弄されてるのに、これ以上赤くなることなんてあるのだろうか。

「ば、ばかあっ!さわんな!」
「うおっと」

高瀬の手を払おうと左手を上げようとしたら、すっと身を引いて避けられた。くそう!

「高瀬みたいにちゃらいのよりマシだもんっ!!」
「おまっ、俺のこと軽い奴って思ってないって言ったくせに」
「たっ、高瀬なんかナンパだ!!」
「相手が月丘だからに決まってるだろ!?」

そういう言葉で、簡単に丸め込まれる自分が情けない。
だけど、言葉でどんなに高瀬をナンパと言ったところで、わたしは高瀬のこと信頼してる。

照れてなんかやらない。
訂正なんてしてやらない。
…けど、勝手に熱くなる身体をどうにもできない。

「…月丘、信じてくれないんだ」
「……」
「俺のこと、誰にでも同じように、頬っぺた触ったりする奴だと思ってんだ」

しゅんとする高瀬に、わたしはくるっと背を向けて、家に入っちゃうつもりだった。
…つもりだった、のに。

「……高瀬こそ…わたしが本気でそう言ってないコト、わかんないんだ」
「……」
「………」
「…………プッ」


…高瀬、今、吹き出しやがった。


「たかせ…あんたねぇッ…」
「ごめん、ごめん。わかってンよ。月丘が俺のこと、硬派でかっこいーエースだって思ってることくらい」
「そこまで言ってない!!」
「月丘が、どんだけ俺のこと大事に思ってくれてるか知ってるよ。友達として」

「友達として」が、やけに心に響いた。

わたしは高瀬のこと、いっぱい理解しているつもりだ。
けど、高瀬もおんなじだったみたい。
高瀬も、わたしの性格とか、ちゃんと知っててくれた。

だけど今まで、恋愛対象として向き合ったことがなかったから。
高瀬がこんなに、好きになった相手に真剣なこと、わたしは知らなかった。
逆に高瀬も、わたしがこんなに純情なこと、知らなかったからびっくりしてる。
わたしだって、自分がこんな風になっちゃうの、今までわかんなかった。

「…ありがとう、高瀬」
「ん?」
「なんかちょっと吹っ切れた。もう緊張しないで話せるよ」
「え?うそ、残念」
「へ?」
「照れまくってる月丘が新鮮だったしさ、俺のこと気になって仕方がない〜って感じでよかったのに」
「あーら、それは残念でした」
「…ま、いーけど」

そう言うなり、高瀬は一歩わたしに近づき、するりとわたしの頬を撫でた。さっき触ったみたいに。

「こーすっと、ちゃんと照れてくれるし」

高瀬は、そのままぷに、とわたしの唇を親指で押した。
わたしは咄嗟のことに全く動けず、言われるがまま「ちゃんと照れて」しまった。

「…な、」
「な、な、なんっ」
「ちょっとは“俺”のこと、男として意識しただろ?」

そりゃ、高瀬は、かっこいー、から…
なんて、前みたいに軽口で言い返せなかった。

目の前の高瀬が、確実に、前とは違う存在になっていた。なって、しまった。
高瀬はもう、わたしのことを“友達”だとは思っていないんだ。
それがすごく、寂しくて。
けれど、人の気持ちは、他の誰かが強制できるはずはないんだ。


高瀬は、わたしが、好きなんだ。

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