爆破音が、廊下中に響き渡っている。
獄寺のダイナマイトによるものではない。
勝負開始から15分が経過したため、廊下の至るところに設置されていたハリケーンタービンが爆破され始めたためだ。

チキンレースだと、ヴァリアーの面々はおもしろくなってきたと言いながら笑っている。
みちるは、自分は一生あの人たちのようにはなれないなと、一瞬考えた。

「敵もろとも死んじまうぞ」

リボーンのその言葉に、一瞬で覚醒した。
心臓が胸の中で暴れまわっている。どうしよう。どうしたらいい?

リングを敵に渡して引き上げろというシャマルの助言に、迷いなく「戻って来い!」と獄寺の身を案じ叫ぶ了平。

どうしよう。
獄寺くんが、死んじゃう。

勝ち負けなんか、どうでもよかった。
ただ、目の前からあなたが消えてしまうことが、何よりも怖かった。

置いていかれることが、他のどんなことより――


「隼人!修行に入る前に教えたことを忘れたのか!!」


いつも落ち着いているシャマルのこんな大声は、初めて聞いた。

生きていてほしい。
あなたがいないと、わたしが寂しいからじゃない。
あなたが大切だから、あなたを大切に思う仲間が大切だから、あなたに生きていてもらわなくてはいけない。

「ふざけるな!!」

ツナの叫び声が響いた。怒声だった。

「何のために戦ってると思ってるんだよ!!」

自分たちが戦う理由、強くなる理由。
それは、みんなで一緒にまた遊びに行くため。
それは、みんなで笑い合うため。


――もう、いなくなってもいいなんて、絶対に思わない。
わたしは、わたしを必要としてくれる仲間たちの輪の中にいるのだ。

『俺はきみを、失いたくない』――。
ありがとう。わたしはボスの、あなたのその言葉を、きっとどこにいたって忘れることはないよ。


ねえ獄寺くん。
一緒に生きようよ。



観戦カメラが破壊され、目の前のモニターがノイズに曇った。

「そ…そんな……」

その場にへたり込むツナ。
悔しさに表情を曇らせるバジル。
みちるは、モニターから視線を外せずに、立ち尽くしていた。

心にぽっかりと穴が空いたような、それでいてずしんと重石が落とされたような心地だった。
死んでしまったら、どうなるの?
もう二度と、会えないんでしょう?

しかし、リボーンが指し示した先には、黒い煙の中から足を引きずりながら現れた獄寺の姿があった。
赤外線センサーが止まっている。それは、勝敗が決した証でもあった。

「すいません…10代目……」

たとえ敗けても、共に生きることを選んだ。
ツナは迷いなく獄寺に駆け寄り、本当に良かったと声をかけた。
シャマルが安堵の溜め息と共に、弟子の成長を小さく祝福した。
次の勝負の勝利を託された山本は、いつもと変わらない明るい笑顔で応えた。

みちるは、まだその場から動けないでいた。

ふらりとその場に倒れこんだ獄寺にハッと焦りながらも、みちるの心の中は、言葉にできない喜びで満ち溢れていた。
現状を受け止めることに精一杯で、泣くことも、笑うことも、できなかった。

それでも、霞む目で獄寺がみちるを一瞬見たことに、みちるはすぐに気付いた。
みちるも迷いなく、獄寺を見ていたからだ。

獄寺が少しだけ目を細めて、苦しそうに、でも笑ったことに気付いた。
みちるの胸の中に、嵐が巻き起こった。

よかった。本当によかった。
一人にならなかった。
独りにさせなかった。


次の瞬間、みちるは声を上げて泣き出した。
あまりに小さな子どものような、そんな泣き声だった。
その場にいた全員が一瞬怯んだが、すぐに小さく笑い始めた。

「獄寺くん」ツナが小さく、獄寺にそう声をかけた。
獄寺はそれを受けて、ふらりと弱々しく立ち上がると、みちるのほうへ歩み寄った。


「千崎…」


獄寺がみちるに手を伸ばした、そのとき。
階下でけたたましい騒音が響き渡り、レヴィ・ア・タンの部下が焦った様子で侵入者の存在をレヴィに報告した。

程なくしてその場に現れたのは、心強い、仲間の存在。


「僕の学校で何してんの?」

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