大切な人に武器を振るうことと
大切な人を守れないってこと

どっちもつらくて、どっちも簡単なことじゃない

何かを悪いと言うのは、とても大変なこと
そして同じくらい、許すことも難しいこと

わたしは、逃げ続けていただけかもしれないね



「フゥ太…」

鼻と耳から血を出し、そして涙を流し、フゥ太は地面に沈んだ。
利用価値・利益、そういったもののために他人を操る六道骸。
ツナを動かす衝動になりえるには、充分だった。

「誰かと一緒にいたいって思うことは、その人を利用するためじゃない…!」
「ほぅ?」
「利用価値がその人の魅力なのかよ!?お前にも仲間がいるじゃないか!」
「…利用価値、ですか。彼女が嫌いそうな言葉ですね」

骸の言葉に、ツナは小さく反応を示した。「…彼女…?」

「千崎みちるですよ」
「…なっ!」
「クフフ、…やはり千崎みちるはそちら側の人間なのですね」
「……」
「残念ですね、やはり生かしておくべきではなかった」

ツナの顔がさっと青くなった。
しかし、骸の言葉の意味はつまり、みちるが生きているということだ。

「…あの子は人を利用価値で判断しない。敵である僕にすら、ある程度、心を許していた」
「………っ」
「しかし、自分自身には利用価値がないと決め付けている。不思議な子です」
「……そういう、子なんだ…」
「そうなんでしょうね」
「…六道骸!千崎さんをどうするつもりなんだよ!」
「どうもしませんよ。…しかし、僕をたまにおかしくさせる」
「……」
「彼女のそういうところに、興味が沸いただけです」

「それは、彼女の気に入らない点に過ぎませんがね…」

骸のその台詞に、ツナは身構えた。

「僕に恐怖せず、動くなと言っても勝手に動き回っていましたし。まるできみたちが助けに来ることがわかっていたかのように、どこか余裕ぶっていましたよ」

ツナは押し黙った。
みちるは実際に、助けが来ることを知っていたのだろう。
みちるは未来を知っているから。みちるは、この世界の人間じゃないから。
ツナはそう思った。そして、それを骸に悟られないように努めた。

そしてツナたちはまだ知らない。
みちるが骸に「信じる」と言った理由を。
これから骸に降りかかる未来と、ボンゴレファミリーとして戦う彼の未来も、みちるだけは知っているからだ。

「“千崎みちるはこの世界の人間ではないかもしれない”」
「…!」
「彼女が僕に話したんですよ」
「そ、そんな…」
「しかしそれ以上は何も言わなかった。あとはきみから話してもらうことにしましょう」

千崎みちるは、僕らにとって有益な人間になりえるかもしれませんからね――
その言葉が引き金となり、ツナがムチを持って骸に向かっていった。



…千崎さん。
有益とか価値とか、そんなことは関係ないんだ。
もしそういう類の言葉で言ってほしいんだったら、きみは価値がない人間なんかじゃないってはっきり言える。
“守る”っていう言葉だって、最初は「情報屋を守る義務」だったかもしれない。けど今は違う。

獄寺くんや山本、京子ちゃんやハル、リボーン、それにオレだって、
きみのことを、仲間だと思ってるから。
きみのことを、友達だと思ってるから。


みんな、いつも、きみに会いたいと思ってるんだ。

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