わたしが並盛中学校に転入してから一週間が経過していた。
特に変わりはない。わたしの記憶は相変わらず違う世界のものだし、ここは「REBORN」の世界のまま。
それでも変化を探そうとすれば…、ツナがわたしに挨拶をしてくれるようになって、京子ちゃんと少しばかり会話を交わすようになって。

大丈夫だ、わたしは何もしくじってはいない。




どこからか、女の子の悲鳴が聞こえた。


今は放課後。帰宅部のわたしは、終業ベルと同時に早足で教室を出た。
この一週間、どこにも寄り道せず家に帰っていた。理由は簡単、なるべく漫画の中の人に会わないようにするためだ。

(そんなわたしの気持ちも知らないで…もう…)

さすがに悲鳴を上げた子を放って置けるほど太い神経を持っていない。わたしは靴箱に靴を戻して、悲鳴の聞こえたほうへ向かった。



わたしは、既に半泣き状態で白い何かの中で沈んでいる女の子を見つけた。
恐る恐る話しかけ、顔を確認すると…見たことのない顔。わたしはほっと胸を撫で下ろした。

「あの、どうしたんですか…?」

彼女は、安心したのか恥ずかしかったのか、ゴシゴシと目を拭った後わたしに苦笑いを向けた。

「ユニフォーム、落としちゃったんです…」

ユニフォーム?わたしは、彼女がへたりこんでいる周りの白を手に取った。
大量の白、それは野球部のユニフォームだった。取り込んだ後の洗濯物のような、日光のにおいがする。
わたしの読みはドンピシャで、彼女は取り込んだユニフォームを運ぶ途中、躓いてこの有様、というわけらしかった。

「落としたのが廊下で良かったじゃないですか、グラウンドに出た後だったら終わりでしょ?」
「そ、そうですけど…」
「汚れを払って持って行きましょ!手伝います」
「え!やっ、そんな!」
「だってこんなにいっぱい、ひとりじゃ無理ですよ」
「そ……です…よね…」

彼女はがっくりとうなだれた後、わたしに改めて感謝を述べた。

「だいたい、部員が取りにくればいいのよ。女の子ひとりにこんな重労働…」

ぶつぶつ文句を言うわたしに、彼女はあははと乾いた笑い声を吐き出した。
マネージャーの仕事なんですよ、と言って、最近友達がマネージャーやめちゃったんですと付け加えた。

「そっか、じゃあ二人分の仕事が…」
「そうなんです…」
「大変…ですね」

手伝いたい気持ちはあるが、並盛中にこれ以上深く関わるのは絶対にごめんだ。
そんなわたしの気持ちなんて知らない彼女は、「マネージャー募集中なんです、もしよかったらやりませんか?」と控えめに言った。

「…部活はやりたくないんです」
「え?…どうして?」
「……野球興味ない、し」
「…そうですか…」

嘘。前者は本当。野球は人並みに好きだけど、この…ここの、並盛中の野球部はダメだ。

「あ、いえ、いいんですよ!あたしが二人分頑張ればいいんだし!」
「っそ…」

そんなこと言われたら良心が、ちょっと軋む。
今こうして手伝うこと自体は全く構わない。むしろ彼女の役に立てるなら大歓迎だ。
中途半端なお人好しのわたしは、こんな考えでいつも損してきた。空回りばかりだ。
…ここはきちんと断らないと。そう思って声を出すべく息を吸い込んで、

「あー、マネさん、大丈夫かよ」

…遮られた。


「あっ、あんた、うちのクラスの転入生だろ?」


振り向いた先に立っていたのは、


山本武クン、だった。

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