さむくて
いたく、て
どろどろしてて


無音で真っ暗な世界を浮遊した、後

わたしは意識を手放した










「―――…?」

ここは、どこ?
ガバッと勢いよく身体を起こし、周りを見渡した。
白い壁に天井、カーテン、独特のにおい、

ベッドの上の、ほとんど無傷の、自分。


(どう…いうこと…?)


まさか、生きているなんて。


うっすらと覚えている。
わたしは大きなトラックに轢かれて…気付いたときには、冷たい道路に横たわる感覚を全身に感じた。
何も見えなくて何も聞こえなくて…熱い液体が頬っぺたのあたりをどろどろと流れていた。きっと、この液体は赤いんだと思った。

てっきり、ここは天国か、とも思ったのだけど。
リアルな布団の感触、頭に残る痛み、痛々しく巻かれた包帯… そしてこの風景、におい。
きっとここは病院だ。わたしは病院にいる。つまり、助かったのだ。
わたしは生きてる。


喜ぶべき…なの、かな。


そんなことを考えながら呆然としていると、突然目の前のカーテンが開いた。
そこに立っていたのは、見知らぬおじさんとおばさんだった。

「みちる…!目を覚ましたのね!」

おばさんは、わたしの肩を掴んで泣きそうな声で言った。
わたしは突然のことにびくりと肩を震わす。
思いのほか強かった力に動揺したのはもちろんだが、それ以上に、



「…誰…ですか……?」



…おどろいた顔を浮かべたふたりより、あのときのわたしは冷静だったのだろう。


そう、あのときだけは。

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