獄寺くんと山本くんに挟まれながら歩く帰り道は、静かだった。
ふたりとも、何もしゃべってくれない。
不安でしょうがない。どうしよう、と思っていると、獄寺くんがおい、と声を掛けた。



「…あんときは悪かったな」
「え?」
「ヒバリと…」

ああ、と反応を示した後、慌ててわたしも謝った。

「そんな!あれはわたしのせいで…!」
「それに…オレを保健室まで運んだの、お前だろ?」
「あ、うん…」
「…守ってやれなくて、悪かった」

タンコブ、とぼそりと言った横顔が少し赤かった。
わたしは、ぶんぶんと首を横に振った。気を失うほどの攻撃を受けたのは、獄寺くんだ。

「ま、お互いもう治ってんだからいいじゃねーか。な、千崎」
「あんだと?!」

山本くんがいつもの能天気な調子で言った。
背の高いふたりは、わたしの頭の上でまた言い合いになっている。わたしは少し可笑しくなって笑った。

「10代目が…お前を守るって言ったんだ」
「え?」
「もう、あんな情けねーことにはなんねぇ。あの野郎、次はぜってーぶっ飛ばす!」

要は雲雀さんにリベンジしたいんだなぁ、と思った。獄寺くんらしくてすごくいい。


「千崎を、守るってことだかんな」


誰に言うでもなく、獄寺くんは呟いた。
山本くんを見ると、いつもとは違う少し真面目な表情で… 小さく小さく、頷いたように見えた。


「じゃ、オレはこっちだから」
「あ?」
「あ、わたしもこっち…」
「そっか、小学校一緒だもんなー、同じ町内なのな」

並盛商店街の手前の十字路で、獄寺くんと別れた。
じゃーなーと明るく手を振る山本くんに悪態をついた後、獄寺くんは早足で去っていった。
そういえば…ふたりともわたしの歩幅に合わせてくれていた、ような気がする。

「ん?どうかしたか?」

山本くんが笑顔で聞いてきたから、わたしも笑顔でなんでもない、と返事をした。

本当に、みんな優しい人達だと思った。
けど、彼…山本くんだけは、ひっかかっていたことがある。

「…山本、くん」
「んー?」
「あの…ごめんなさい…」
「え?」

山本くんは少し考えた後、「あー、さっき言ってた、覚えてるって嘘ついたってやつのことか?」と言った。


「それだったら全然気にしてねーよ」
「ううん!あの…わたし、山本くんの知ってる千崎みちるじゃ…ないから…」
「え?」
「だから…」

思い出を共有できない。
その上、一方的にあなたのことを知らない。
そんなの、嫌でしょ?
そんなの、気持ち悪いんじゃない?

「そんなこと、小学校が一緒だった奴ら、みんなそうなっちゃうだろ」
「そうだけど…」
「千崎、みんなにそうやって泣いて謝るのかよ?」

…ああ、泣き虫で困る。
いつの間にか零れだした涙を拭っていると、山本くんの手がわたしの手を取った。

「お前は悪くないだろ。千崎じゃねーんだから」
「そ、それが悪いんだよ…!」
「んー…でも、よくわかんねーな。お前、オレが知ってる千崎と、全然変わんねーからさ」
「え…?」
「千崎はさ…大人しくて優しい奴だったぜ。お前みたいに。ていうか、本当はお前も千崎だと思うぜ」
「……」

だって、それじゃあ、わたしの記憶は何なの?

「それに…オレ、千崎はあの事故で死んだと思ってたんだ」
「え…?」
「先生には、千崎は入院中、いつ目覚めてもいい状態って聞いてたんだ。けど、いつまで経っても学校来ないからさ」
「…」
「みんなそのうち千崎のこと忘れちまって…オレも、一緒」
「そっ…か…」
「けど、生きてた。こうやって学校に来た。死んだと思ってた千崎が生き返ったんだぜ?」

こう言ったら…怒るか?山本くんは少し控えめに、続けた。


「千崎は一度死んだけど、戻ってきたんだ。だったら、人生楽しく生きないともったいないだろ!」


オレやツナ達と一緒になっ、と明るく言うと、彼は乱暴にわたしの涙を拭ってくれた。

そうだ、難しいことはわからない。
けど、わたしはここに生きてる。
一緒に居てもいいと、みんなが認めてくれた。

「オレも、千崎と友達になりてーし!」
「…いいの…?」
「当たり前だろ!だから、…そんな泣くなよ」

ぐいぐいと袖を押し当てる山本くんの手が、痛い。けど、あったかかった。
わたし、生きてるんだね。

もう、くよくよしない。
困難に出会っても乗り越えていけるのは…沢田くんたちだけじゃない。
わたしも強くなろう。わたしは自分の未来はわからない。けれど、逃げないで前を向こう。


わたしは千崎みちるとして、生きていこう。

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