「ここから先は、推測の域を出ねーな」
リボーンくんの言葉に、わたしはこくんと頷いた。
「みちる、タンコブ治ったか?」
唐突に、リボーンくんがわたしに聞いた。わたしが答えるが早いか、獄寺くんが「あっ」と漏らした。
そういえば、雲雀さんと対峙したときのこと… まだ話してない。
「どうした獄寺」
「え…あ、いや…なんでもないっす…」
「……」
後で謝らないとな、と思いつつ、わたしはリボーンくんに「うん、もう治ったよ」と答えた。
獄寺くんが、少しだけ安堵の溜め息をついたように見えた。
「よかったな。けど、腕の怪我は治ってねぇだろ」
「え?」
「な!」
今度は、獄寺くんはわかりやすく慌てた。
「あ、違うのこれは…」
「わかってるぞ。あのときの怪我じゃねーんだろ?見せてみろ」
「うん…」
そっと右腕の袖を捲くり、包帯の巻かれた腕を取り出す。
「千崎さん…どうしたの?それ…」
「事故のかすり傷なんだけど、なかなか治らないの」
「他にはないか?」
「えっと…頭も強く打ってたみたいで、たまにズキズキくるかな」
「けど、一年前の怪我なんだろ?」
何気なく言った山本くんの一言に、三人が反応した。
一年間もの間意識は戻らなかったけど、身体は生きていたのだ。
…傷が治らないのはおかしい。
「タンコブは一週間前くらいだったな。もう痛まねーのか?」
「うん、ほとんど」
「じゃあ、なんでその傷が治らねぇんだ」
リボーンくんがわたしの右腕の包帯を指差して言う。
そんなの、わたしにもさっぱりだ。
「これはオレの推測だけどな、みちる」
「え?うん…」
「お前、今の両親のことを知らないんだろ?それどころか、この並盛で過ごした記憶もない」
「え?だって千崎はオレと同じ小学校だぜ」
「記憶喪失ってこと…?」
山本くんと沢田くんがすかさず反応する。
「違うぞ。みちるには、今まで別の場所で別の両親と暮らしてきた記憶があるんだ」
「なんで知って…」
「オレの情報網をなめるなって言ったろ」
それって、入院中にお世話になったお医者さんを脅したんじゃ…と思ったが、怖かったので黙っておいた。
「みちるがフゥ太のランキングに入らないこと、読心術が通じないこと、そして怪我が治らないこと」
「うん」
「その怪我に関しては、そのみちるの身体にある自然治癒能力じゃ治せねぇってことだ」
「ど、どういうこと…?」
「オレの推測では、その怪我は、別世界から持ってきた怪我だ」
沢田くん達三人は、話を理解できずポカンとしていた。
けど、わたしは…
「そうかも…しれない……」
「それ以外の事実も一緒だぞ。ランキングに入らないのも読心術が効かねぇのも、おそらくみちるがこの世界の人間じゃねぇからだ」
「うん、うん…しっくりきた…」
「え?!しっくりこないんだけど!」
沢田くんが叫んだ。獄寺くんと山本くんも、にわかに顔を青くしていた。
そりゃそうだ。いきなり目の前の人間が宇宙人だってバラされたようなものだ。
「…じゃあ、オレが昔同じクラスだった千崎はどうなっちまったんだ?」
山本くんが恐る恐る口を挟んだ。
全く同感だ。
「それはわかんねぇな。みちる、お前はどう思う」
「え…えっと…わかんないけど…、わたし、山本くんと会うのは転入した日が初めてなの」
「……」
「…あのとき、覚えてるなんて…嘘ついて、ごめんなさい」
わたしは、あなたの知っている千崎みちるじゃない。
柄にも無く狼狽した様子の山本くんを見たくなくて、わたしは深々と頭を下げた。
黙りこくった三人を見ることなんてできなくて、わたしは頭を上げられなかった。
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