蜜色ワンダー | ナノ

Just pure 2

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育ちゃんからぱったりと連絡が途絶えたのは、受験シーズンになってからだった。
お正月に実家に帰って育ちゃんと初詣に行って、こっちに戻ってきてから、連絡がない。
冬。俺は社会人1年目の荒波にもまれながらけなげにさみしんぼしている。

「…うーん」

あまり連絡を催促するのも、がんばってる育ちゃんにはよくないだろう、と思って、とりあえずさみしんぼしてるよって伝えたくて泣いてるスタンプを送っておくにとどめた。
しかしそんながまんは、実を結ばないのである。
育ちゃんの志望大の合格発表があった日。さすがに連絡くるだろって思ってた。

「……う〜〜ん」

しかし、仕事終わって家に帰って飯を食べても、連絡がない。
結果は午前中には出ているはずなのに。
俺は、ひとつの可能性にたどりついた。
…落ちたの、かな…。

★★★

次の日、仕事から帰ってくると、アパートの俺の部屋のドアの前になにかいる。

「…?」

やめてくれよ疲れてんのに変質者とか〜。
と思って近づくと、それはしゃがみこんでうとうとしている育ちゃんだった。

「え!?」
「んっ」

慌てて育ちゃんの肩を揺らして起こす。

「あっ、ともながせんせい」

起きて、ぱあっと顔を輝かせた育ちゃんの手はひやひやに冷たい。
立ち上がらせて、とりあえず鍵を開けて中にいれて、最初の疑問を投げかける。

「どしたの…」
「あのね、友永先生に、直接伝えたくて」
「…」
「第一志望、受かりました!」
「マジ!?」

へへへ、と笑ってブイサインしてる育ちゃんを思わず抱きしめる。

「わっ」
「おめでと!俺連絡ないから、落ちたんかとかすごい心配してたの…!」
「ご、ごめんね」

とりあえずひとしきり喜んでから育ちゃんを解放すると、真っ赤な顔でへらへら笑ってる。
それから、ちらちら俺を見て、言った。

「友永先生、スーツ似合うね…」
「ん?あ〜、まあ…うーん……そう?」
「うん…かっこいい」
「そっか〜」

でれでれしながらふと俺は重大な事実に気づく。

「…育ちゃん、このあと帰るんだよね?駅まで送るね」
「……」

もじもじしていた育ちゃんが、きゅっと唇をかんで、そわっと俺を上目遣いで見た。

「きょ、今日泊まっていったら、だめかな?」
「…………」

頭がショートする。
え、俺のこの狭いワンルームに?育ちゃんが?お泊り?
いろいろ考えて、駄目だ来客用の布団などない、という結論に達する。
断ろうと口を開きかけると、育ちゃんが泣き出しそうな顔でうるうると見上げてきた。

「だ、だめ…?」
「……だめじゃないよ…」

意志がよわい。

★★★

育ちゃんに、俺のスウェットなど無謀だった。
風呂に入ってもらっている間悶々とちんこを鎮めることに一生懸命だった俺は、風呂から出てきた育ちゃんを見てそれが無駄な努力だと悟った。

「ねえ友永先生、これおっきくて、はいんない」

どこのどいつだ育ちゃんにそんなえろいこと言わせてんのは!俺か!
育ちゃんが入らないと言ってたのは、ズボンだった。
ゴム部分が緩すぎて、落ちてくるらしい。まあそうですよね。
なので、上をワンピースみたいにして着て出てきた育ちゃんの、も、萌え袖〜!
萌え袖どころの騒ぎではないしキョンシーみたいになっているけど、それがまたいい。

「友永先生、お風呂入らないの?」
「ん、うん…適当にテレビとか見ててね…」
「うん」

テレビを適当なチャンネルに合わせて風呂に入る。
普段はシャワーで済ませるけど、今日は育ちゃんがいるからお湯をわかした。
バスタブは俺にはちょっとちっちゃくて、体を折ってそこに無理やり入って、ため息をつく。
育ちゃんが何を言おうが俺は床で寝るぞ。ぜったいだぞ。
風呂から上がると、育ちゃんはぼんやりテレビを見ながら、俺のほうを振り返った。

「友永先生、あの…」
「ん?」
「……」

育ちゃんが黙って、俺をじっと見つめて、不自然に視線をそらした。
ん?なに?

「育ちゃん、もう10時だけど、寝る?」
「こどもじゃないもん!まだ起きてるもん!」
「別にこども扱いしてないけど、いつから俺の家の前で待ってたの?」
「…えっと、6時くらいに新幹線が着いて、それから…」
「変な人に絡まれなかった?」
「うん」
「あのね、育ちゃん」

育ちゃんのとなりに座って、あぐらをかく。
それから、ちっさい手を握り締めて、ため息をついた。

「あんなとこでうとうとしてて、変なおじさんとかにいたずらされたらどうするの?危ないでしょ?もし今日俺が残業〜とか飲み会〜とかで日付またいで帰ってきてたら、どうするつもりだったの?」
「……」

そこまで考えてなかったみたいで、しょんぼりして黙り込んでしまう。

「育ちゃんが心配だから、もうこんなことしないでほしい」

ほんと、こんなことで俺が大事に大事に煮込んできた育ちゃんが傷物になってしまったら、どうするのだ。
1年もさみしんぼして、電話でおしゃべりしたあとの、最後のさみしそうな「おやすみ」をネタにひとりさみしくオナってた俺は、どうなるのだ。

「…ごめんなさい」
「ん。寒いとこで待ってて、疲れたでしょ?もう寝よ?」
「うん…」

素直にうなずいた育ちゃんの頭をよしよしして、だっこしてベッドに乗せる。

「おやすみ」
「…友永先生は?」
「俺は床で寝るけど」
「え!?」

一気に顔を青くした育ちゃんが、そんなのはだめだと言い始める。

「あたしが床で寝る!」
「いや、女の子にそんなことさせらんないでしょ」
「で、でも」
「大丈夫、一晩くらいね」
「じゃあっ、じゃあ、あたしすっごくはしっこ寄るから、友永先生もベッドで寝て!?」

はいきた〜。

「だめ」
「なんで?だって、床なんて…」
「育ちゃん、おんなじベッドで寝るってどういう意味か分かってる?」
「え?…………っあ」

気づいたみたいで口をぱかぱかと開いて、顔を真っ赤にしてる。
ちょっと乱暴に、育ちゃんをベッドに寝かせて布団をかぶせて、ぽんぽんと肩のあたりをたたく。

「だから、俺床で寝るの。おやすみ」
「……」

納得いかないみたいな顔してる育ちゃんは、うるっと潤んだ目で俺をじっと見つめて、でも、でも、ってつぶやく。

「でももだってもないです。一緒のお布団なんか寝たら、俺何するかわかんないよ」
「でも…」

あまりの物分かりの悪さにため息をつくと、育ちゃんがびくっと震えた。

「だ、だって、あたしが無理やりお泊りしてるのに、おかしいもん…」

それでも言い返してくるから、たぶん育ちゃんってほんとはすごく頑固で芯が強いんだろうなあ。
育ちゃんがぎゅっと目を閉じて、言う。

「な、なにしてもいいもん、先生、彼氏だもん」
「……」

この子はもう。

「育ちゃん」
「っ」
「怒るよ。俺は、育ちゃんがちゃんと気持ちの準備できるまで大事にしたいのに、そんなことでどぶに捨てるみたいなの、怒るよ」
「……でもぉ」

かなり強情だな。
せめてこの家にソファでもあれば、俺はソファで寝るとなって、こんなに問題にならなかったんだろうけど、いわゆるあとのまつりってやつである。

「頼むから、育ちゃんのことほんとに大事にしたいから、俺を床で寝させて」
「……」

泣き出しそうな顔で、育ちゃんがようやくしぶしぶ頷いた。
ちょっと悪いことしちゃったなあ、と思いつつ、一時のノリではやばや傷物にしてしまうよりはましだ、と思い直す。

「じゃ、電気消すね。おやすみ」
「…おやすみ…」

育ちゃんに、枕と毛布だけもらって、床に横になる。
時計の秒針の音がやけに大きく聞こえる中で、育ちゃんの呼吸の音が響いてる。
それがなかなか寝息にならないことにあせりながら、俺ははやく寝ようと目をぎゅっとつぶる。

「……ともながせんせい」
「…」
「寝ちゃった?」
「……寝てないよ」

暗闇に、育ちゃんのさみしそうな声がとろんと響く。
寝返りを打ってベッドのほうを向くと、育ちゃんの目がじっとこっちを見つめているのが、なんとなくわかった。

「なに?」
「……あのね、あたしね」
「うん」
「1年、さみしいのがまんしたよ」
「うん」

俺もだよ、なんて今言ったらガチすぎてみっともなくて言えないけどね。

「だから、今日、ほんとは、友永先生と一緒に寝れるって期待してたよ」
「…うん」
「だから、だから…」

育ちゃんの言ってる寝るが純粋に寝るなんだってことくらい知ってる。
ふらちなこと考える俺がばかなんだ。
でも、ほんとに泣き出しそうにとろけてる育ちゃんの声を前に、意地なんてもう張れなかった。

「…ごめんなさい、もう、寝る」
「育ちゃん」
「っ」

ベッドに腰かけて、育ちゃんを覗き込むと、育ちゃんが息をのんだ。

「俺、死ぬ気でがまんするから」
「…え?」
「絶対、なんにもしないから」
「…」
「いっしょに、寝よ」
「…!」

近くで見つめた育ちゃんが、ぽろっと一粒涙をこぼして、うれしそうに、ふにゃって笑った。
ほんと、もう、この子がこれまで誰にも汚されずに生きてきたの、信じらんない。
布団にもぐりこむと、ぴとっと育ちゃんがくっついてきた。
おっ、いきなりハードな拷問。

「あのさ、育ちゃん」
「?」
「絶対なにもしないけど、あのさ」
「うん…?」
「ちんこが反応するのは許してね」
「……えっ!?」

育ちゃんがびっくりしたように、今初めてその単語聞いた!みたいな顔で俺を見た。

「いや、だって、しょうがないじゃん…」
「そ、そうなの?」
「うん、しょうがないの。だから、あんまりくっつかないでくれると…」

要求しているはなから、育ちゃんがさみしそうな顔をするので、ああもう!

「ばか」
「わっ…」

育ちゃんを思い切り引き寄せて、腕の中に閉じ込める。
お風呂上がりのいいにおいの育ちゃんとこの体勢のままでいるのは、マジではんぱない拷問だけど、でも、ここにきて育ちゃんを泣かせてたら意味ない。
乗りかかった舟だ、えーい!

「ちゃんと、こうしててあげるから、ね。泣きそうな顔しないで」
「…友永先生、あったかい…」
「ん、育ちゃんもね」
「あのね…」

安心して、ようやく眠くなってきたのか、うつらうつらしながら、育ちゃんがこそこそ内緒話するみたいにつぶやく。

「さっきお風呂出てきた友永先生、かっこよかったよ…」
「ん?」
「髪が濡れてるのって、ちょっとえっちだね…」
「…」

その言葉を最後に、育ちゃんはすうっと目を閉じて、おねむの世界に。
残された俺は、フル勃起したちんこをなだめすかしながら、このやろう、ばか、と悪態をついた。

春。育ちゃんが東京にやってくる。

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