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2022.09.30   
 同じ時刻、医務室にいた少女は目まぐしい音を横目に眼前の青年と格闘していた。青年が治療を拒んで暴れるのだ、無意識なのが尚のこと質が悪い。なんで、意識を失ってるくせに、こんなにも莫迦らしい芸当を、いかようにして会得したものか。跳ねる髪を一つに結びあげて、頬を叩いて気合を革める。――さあて、もう一度よ。もう一度、夜爾。
「劉嵐! もういい加減にしなさい!」
青年の耳元に向けて叫んだ。ぴくりと肩が跳ねる。
止血はもう終わっているからいいとして、患部を確認して消毒をしてやりたいだけなのに、医務室に運び込むため気絶させたことが仇になるとは。青年の額にできた見事なたんこぶを恨めしそうにねめつけた。
「まったく……これは狸寝入りなの?」
「ねえねえ」
背後から甲高い少年の声がして夜爾は飛び出そうになった声を飲みこんで、まごつきながら、振り返った。
「なんでしょうか?」
「いや、劉嵐って聞こえたもんで」
金髪頭が二つ、扉から覗き込んでいた。一瞬、ぎょっとしたがすぐさま平静を取り戻して夜爾は二人を手招いた。
「そんな変に覗いてないで入ってきたら? 星、それに黒暗さんまで」
金髪の少年――星は目を爛々とさせていた。
「おーい劉嵐兄さん大丈夫?」
そう言って駆け寄って、遠慮なく頬をぺちぺち叩く。
「だめだ、こりゃ。完全に伸びてやがる」
唇を尖らせて言う星の頭に手を置いて、
「そこまでにしておきなさい。ほっぺが腫れてしまう」
心配そうに金髪の青年――黒暗が注意した。
「でも起こさないと……よなが困ってるじゃん」
夜爾は曖昧に頷いてやった。
「もう少し穏便に起こせないか? 乱暴に起こすのは可哀想だ」
「黒兄は兄さんに甘い」
ぷっくり膨れる星に黒暗ははにかむ。
「なんで笑うの!? そういうところだよ、あんぽんたん」
年の離れた兄に食って掛かる弟。そこに割り込んだのは呻き声だった。それは寝台にいた青年から洩れていた。
 
 

at 19:05
2022.09.27   
 夕時に騒がしくなった。大所帯がうるさいのはなんらおかしくもないのだが、その喧噪は根本から違うものだった。滅多に見ない顔と長廊下で行き違う。それも相当数。宗太は浮立っていた――今日こそは日記の中身が充実するだろう。紙面と向き合った彼女の顔もきっと――。
「宗太邪魔よ」
涼やかな声。振り返った。月亮は氷のような面構えで立っていた。おもわず、言葉が詰まった。月亮の片眉が上がる。
「騒がしいね」
上ずってしまった己の声を聞いて、さらに宗太は身が縮んだ気がした。頬が熱い。
「そうね。そして忙しい。わかってるでしょ。特に用がないなら、もういい? なにもないのなら今日はゆっくりしてたほうがいいわよ」
ぴしゃりと言って月亮は踵を返そうとする。
「待って」
その一言を絞り出したときだった。ゴーン、と大鐘が三回鳴った。皆が一時、静止した。普段よく聞くのは二種。鐘が一回は時を告げるため、二回は里の者の出立と帰還。それ以上になると普段鳴ることない数であり、三回が示すのは外部から接触であった。困惑の空気が辺りに広がっていた。
月亮は身体の向きを変えて、宗太の腕を掴んだ。
「え? どうしたの」
「いい、宗太。部屋に戻ってじっとしてなさい。誰に声かけられても絶対に出てはダメよ」
一段と冷えた声で耳打った。
「わかったら、返事」
不承不承、宗太は大きく縦に二度、首を振った。
  

at 18:34
2022.08.08   
ななしのななし、もうわけわからない 

at 03:28
2022.07.23   
 どうしても、というほどのことない些細な願いであったからきっと誰も知らない――いや、あの子しか知らないことだった。私とあの子、二人だけの秘密。そう、甘いような酸っぱいような幼いころに交換した夢。今はもう忘れてしまったかしら。大袈裟すぎるわね。でも私はこの山に登って、これを思い出した。あの子は私の代わりに海を見てくれただろうか。

  

at 17:42
2022.07.23   
てすと 
more
at 17:42
2021.07.24   
 どうすることのない一日をどう記したらいいものか。少年は頭を悩ませていた。
いつもどおり、朝起きて、飯食って、淡々と用事を済ましていって、馬鹿やって、飯食って、阿保やって、恒例の説教を喰らって、興じて………あと、まあ晩ご飯を食べて、一息ついて寝るだけだ。そう、少年は唇を尖らせて乗せた筆を遊ばせる。一昨日といっしょとか、この間と同じ、〃、こんな手を続けてたら相手に注意された。流石に三回目には物理的な制裁まできた。ああ、だからと箇条書きしてみたところで何か言われる気がする。もうしばらくこの課題と付き合わなくてはいけないか。今度は頭が痛くなってきた。筆を机の上にひとまず置いて、目頭を押さえる。なんでこんなことを確約してしまったのだろうか。もっと別に楽なことあっただろうに。何一つ思い浮かばないが。―――日記を書きあおう、とか自分から言った。先手を打とうと咄嗟の出来事だった。そのときも何かの小言からで、ああまあ――忘れた。
  

at 20:59
2021.07.19   
 清涼感漂う短髪の黒髪、翡翠の瞳――月亮は手に携えていた愛用の薙刀を壁に立てかけて、ゆっくりと室内を見渡した。まったく、誰だ、今度は――眉間に皺が寄る。僅かな違和感を感じた。きっと勝手に物が動かされたからだろう。きっちりとした性格の彼女は自室、および自分が主だって使う部屋の隅から隅まであらゆるものの配置を記憶している。支障が出るほどではないが、ちゃんとしてなきゃ気になってしまって不愉快だからだ。少女は額に手を置いて、深く息を吸った。動かされたのは机の上の……これか。文鎮がズレてる。人の書類を盗み読んだ不届き者でもいるのかな。そんなに機密の高いものでないから見逃してやってもいいが、さて今一度どうしようか。口元を覆うように左手を当て、思案していると扉が鳴った。返事はしなかった。もう一度、扉が鳴らされる。昨晩の案件だろう。時間は狂っていたが、さほどのものではなかった。まったくあの阿呆は体内時計のズレているらしい。いつも任務終えて里に帰ってくるのは夜遅く。どんな任務でもだ。特に寄り道てきなことをしているわけでもないらしい、同行者をつけてても何故か時間がそうなってしまうのだとか。ただ昨晩は余計がついていた。さて、それの裁量もせねば。三回目の音が鳴るより先に月亮は声を返してやった。
  

at 22:04
2021.07.18   

 少年が目を覚ましたときには太陽はもう頭上を通り過ぎようとしてあった。寝過ごした――そうわかっても動きだそうという気は湧かない。寝ぐせでぼさぼさであろう栗茶色の髪をくしゃりと掻いてから額に左腕を置いて、天井とにらめっこを決め込んだ。大きく息を吸って、吐く。そういえば――と少年宗太は昨夜を思い返した。
夜中だったか、騒がしかった。どこからかの早馬が寝静まった里に駈け込んで来たのだ。宗太は偶々、その時刻に起きていて、その様子を建物の二階の窓からこっそり見ていた。幸いなことに少年は夜目が利いた。視線の先にいたのは見知った少女と知らぬ女、子供がいる。神経を尖らせて耳を澄ませたが、さすがに潜めた音を拾うことは出来ない。ただ、その表情は読み取れる。そんなに深刻そうな顔じゃないな――宗太は心安い間柄の少女の顔を見て思った。そしてなにより遅れて見つけた青年の姿でなんとなく納得した。でも、どうしてか胸騒ぎが去らない。眼も冴えた。布団に潜ってもずっと朝まで起きている気がした。そんな感覚がした。実際はいつのまにか意識は途切れていたのだが。
流石に窓から差し込む光が眩しくて、小さな呻き声を漏らしながら、宗太は仕方なく起きようと思った。水。顔を洗いたい。喉を潤したい。さて、いいかげん寝台から抜け出そう。 

at 22:56
2021.06.18   
 ――世界は丸い一つの極彩色の宝玉から生まれたという。
それは渾沌の中で生まれた龍らが抱いたものであり、特色のない箱庭だった。
そうこの最初の世界はあらゆるものから閉ざされたものだった。かの龍が死ぬときに七つに砕け、弾けて、飛散した破片はこの世界を広がった。
それぞれが龍の屍とともにこの大地を創り、ややしばらくあってからそのままそこへ宿った。はじめこそは何もなかった大地だったが、複雑に豊かな色が交わり、さらに多くの命を芽吹かせ、そして最後に欠片の残滓が依り代を頼りに集まり小さな竜へと姿を変えたのだった。その竜が目覚めた場所だけが不毛の地になっていたという。
命あるものはなにものであれ、そこで生きることはできない禁断の地。
そこはいつかの龍が還るための場所。

いま、この大陸には七つの国とそれを一つと纏める宗主国がある。古に龍が住まったとされる玉流山を手にして大陸の覇者となった大国は創世の伝説に沿って領地を七つに分けた。そして、それぞれにそれぞれの色を宿した玉を与えた。それはやがて七つの国になった。

中央から少し東にずれたところにある山間にその邑はあった。遠くからはてっぺんがやたら平たいただの大きな山にみえるのだが、その山には大鍋のような窪地があって、泉も川があって、小さな湖、林、ちょっとした箱庭のような場所だった。当然の如く、そこに人里が作られていた。この人里はどの国にも属さないとある集団が遥か昔から治めていた。中心から少し北の丘にその里の重要な建物がある。黒塗りの木材でどっしりと構えた楼閣からこの里を隅々まで見渡せる。晴れた日にはそれは遠く、山の向こうの大陸中心の玉流山まで。

かの山も誓約を逃れたこの異郷を見つめるように天空の城を構えていた。その欄干に手をかけて白い少女は飛んだ。その日は太陽が闇に呑まれて、天は昏く、残された月だけが皓々と輝いていた。

 

at 21:30
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