- ナノ -

カレー日和

俺と初めて食堂に行ってから、
みょうじは度々食堂を利用するようになった。

栗山を誘ったり、同じ部活の先輩や同期と
並んで食事をする姿を見かけた。

ある日、一人でカレーの列に並ぶみょうじに
話しかけている男がいた。

会話の内容までは聞こえなかったが、
何やら楽しそうに話している。

吹部のやつか?
いや、吹部にしては派手な感じだし…

カレーを受け取るまでの間、
二人の談笑は続いた。

席に着き、先程の男の観察をするが、
奴の連れを見るとクラスメイトが数人いた。

どうやら同じ学年のようだ。

「ね、治、あいつらって同じ1年かな、
なんか知らない?」

カツ丼のカツを頬張りながら
治は振り返って俺の視線の先を見つめる。

「ああ、アイツらバスケ部の奴らやな。
今カレー食うてる奴が俺と同じクラスや」

「そうなんだ、名前は?」

「佐藤。なんや、角名が知らんやつに
興味示すとか珍しな」

「や、ちょっとね」

「さよか」

治は興味なさそうに返事をし、
またカツ丼に集中した。




別の日、また食堂でみょうじと佐藤が
カレーの列に並びながら話している。


……おもしろくない


教室に戻る前に
みょうじを捕まえて聞いてみた。

「あぁ、あれはカレーの友や」

「え、どういうこと?」

「私食堂行く日はカレー食べる日って
決めてんねんけど、先週くらいかな?
なんかいつもカレー食べてるなーて
声かけられてん」


確かに、いつもカレー食べてたな。


「で、食堂のカレーの素晴らしさを
語ったら意気投合した」

「名前とかは知らないんだ?」

「知らん。あれはカレーの友や」




用心に越したことはない。

みょうじに次カレーを食べたくなった日は
俺を誘うようにと言うと、

「え、角名もやっとカレーに興味出てきた?」

と、目を輝かせている。

なんで、こいつはこんなにカレー好きなんだ。

少し呆れていたのだが、
じゃあいつにする?明日にする?
と楽しそうに話しているみょうじを見るのは
正直悪くない。

結局、次の日一緒にカレーを食べる
約束をした。




翌日の昼休み、4限目の授業が終わると
みょうじは教室に飛び込んできた。

「角名!はよ行こ!すぐ行こ!
今すぐ行こー!」

「なまえ、今日は角名くんとお昼食べるん?」

「せやねん、めぐちゃん!
やっと角名もこちら側に」

「こちら側って何なんだよ」

「カレーサイド」

「そんな場所には行きたくない」

「ええやんもう、そんなん!はよ行こ?」

「いってらっしゃーい」

栗山は手を降って俺たちを見送った。




二人で食券を買い、カレーの列に並ぶ。

みょうじは満面の笑みだ。

「なんでそんなにカレー好きなの?」

「わからん。でも食堂のカレーはな、
作るおばちゃんのその日のコンディションで
なんか絶妙に味変わって面白いねん」

「カレーソムリエかよ」

「はっ、なんかそれカッコいいな!」

「マジかよ」

ハハッと二人で笑っていると
後ろから声をかけられた。

「あれー、カレーちゃん今日は男連れかいな?」


来やがった。


「あ、カレーの友!チーッス!」

「今日もカレー日和だねぇ」

「友よ、今日は新入りを紹介します」

「あ、知ってるで。バレー部の角名くんやろ?」

「え、なんで知ってるん?」

「バレー部は目立つしな。
それにカレーちゃんとよぉ一緒におるの
見かけるから調べてん」

なんだこいつ、ニヤニヤしやがって。

気に入らねぇ。

奴を牽制しつつ、カレーを受け取ってから
みょうじには先に治のとこに行ってもらった。

給茶機に並んでいると、佐藤が絡んできた。

「角名くんはなまえチャンの彼氏なん?」

「……友達だけど?今はね」

「ふうん、そうなん。
でも彼氏ちゃうくてよかったー。
俺あの子狙ってるから」

「奇遇だね。
俺も狙ってるんで邪魔しないでくれる?」


視線がぶつかる。


「ふふん、ほなまたね、角名くん」

手をヒラヒラとさせながら
佐藤は去っていった。




「なんや、今日は角名もカレーかいな」

治が定食の味噌汁をすすりながら言う。

「治くんも今度一緒にカレー食べような!」

「おん、ええでー」

「角名もはよ食べなカレー冷めてまうで?」

「あぁ、うん」


いつものように、治が先に食べ終わって
帰ったタイミングで
みょうじにしばらくは食堂に行く時は
俺を必ず誘うように言う。

「えっ、なんで?」

みょうじは無邪気に聞き返すが

「はっ、もしかして角名カレーに目覚めた?
じゃ、私と毎日カレーパーリィやな」

と、自分に都合の良い解釈をしようとする。

「は?違うし嫌だけど」

と、即否定した。

「えー、そこまで言う?じゃあ何なん?」

と、不服そうに聞いてくるので

「なまえと一緒に
ご飯食べたいだけなんだけど」

と言うと、みょうじはあっという間に
顔を真っ赤にして

「……またそうやってからかう……」

とつぶやいた。

いや、本音なんだけど。

それは言わずにおいて、今は大人しくなった
みょうじを気が済むまで眺める事にしようかな。