最近目障りな子がいる。
「ミカサさん!髪切ったんですね」
「……ええ」
朝食の食堂で。新兵のルイーゼはいつものようにミカサに絡む。今日はミカサが髪を切ったばかりなのだ。取っ付き易い話題に食いついてくる。
「ルイーゼ。悪いけど私達静かに食べたいの」
私がそう言い放つと、彼女は困った様に笑って見せ「すみませんでした」と言いながら敬礼を構えた。
「今日の訓練、ミカサさんが指導してくださるんですよね。私、頑張りますから!」
それだけ言うと、ルイーゼは同期達のテーブルへと向かう。彼女が去った後、静かなテーブルには私とミカサの2人きり。
「……確かにルイーゼは騒がしい。でもあまりキツく言うのも可哀想だ」
「ミカサが迷惑かと思ったのに」
わざとふてくされた風に言えば、ミカサは困った様に微笑んで見せた。
今まであんな子は私の周りにいなかった。
近しい人、で言えばサシャやヒストリアもそうだけれど、彼女達は「仲間」としての意識が強い。そう、ミカサに好意を寄せているジャンと同じ。だから気になることなんてなかった。
ルイーゼは違う。私と同じ目をしてミカサを見る。
そしてミカサも、彼女に対してはどこか他の新兵と違った風にして彼女と接するのだ。ルイーゼは、ミカサを追いかけて調査兵団へと入団したのだから。
午後の訓練の後、時間が過ぎてもルイーゼはミカサを捕まえてあれやこれやと質問を投げかけていた。演習場にはミカサとルイーゼの2人。
私は真っ直ぐ、2人に近付く。
「あ!ナマエさん、お疲れさまです」
そう言って私に向かって敬礼を構えるルイーゼ。
「お疲れさま。ミカサ、兵長からの伝言があるから、ちょっとついてきてくれる?」
「兵士長?わかった。じゃあルイーゼ、続きはまた」
「はい。ありがとうございました!」
私はわざと早足で歩く。いつもミカサと歩くときは歩調を合わせて歩いる。だからきっと、もうミカサには伝わっているだろう。私が怒っていること、兵長の伝言なんて嘘なこと。
そうやって少しでも、私について考えればいい。
女子寮に戻ると他の兵がいるので、私は兵舎内の空き部屋へとミカサを引っ張り込む。ミカサの腕を掴んだ瞬間、彼女は「ナマエ?」と不思議そうに口から零した。
「ミカサ」
部屋へ入り、ドアを閉め、そのままミカサの背をドアへと押しつけた。ミカサは私より身長が高い。見上げるような恰好になっているけれど、私は両腕の間に彼女を閉じ込める。
「どうしたの」
「どうもこうも……ほんっと、最近のルイーゼは目に余るよ」
憎しみを込めてそう言えば、自然と両手に力が入った。ぐ、と握り閉めるのはミカサのブラウスの端っこ。
「ナマエがどうして怒っているのかわからない。私はそんなに、ルイーゼを贔屓しているだろうか」
「ええ、してる。ミカサは、エレン以外を見ちゃダメ」
「どうしてエレンが……」
困惑したようにミカサは瞳を揺らしていた。こんな気持ち、吐き出すのは初めてのことだから。
「ミカサはエレンだけを見てればいいの。エレンはミカサに振り返らないから。エレンを追いかけるミカサの隣はいつも空いてる。私はこれからも、そこに居座り続ける。だから、他の子を構っちゃダメ」
「ナマエ……私は」
「エレン以外の特別をつくらないで。そうでないと……私は、貴女をどうやって守ればいいかわからない」
ミカサの唇が震える。会話の苦手な彼女は、私に何を言うべきか考えている風だ。そう、そうやって、私について考えて。本当は私の事を考えている時の貴女を見るのが大好きなんだから。
友達の定義がわからない