無垢色の祭壇 | ナノ


▼ プロローグ

高い吹き抜けの天井から吊るされたシャンデリアは、色とりどりのパーティの参加者を反射してクリスタルを虹色に見せていた。贅を凝らしたバンケットホール内には珍しい弦楽器の演者が揃い、終始美しい音色を奏でる。

今日何度目かの薄いシャンパングラスをカチンと乾杯させ、リヴァイは静かにため息を吐いた。目の前には彼から見れば豚小屋の豚とそう大差無い男が、何か口上を垂れている。適当に相槌を打ち、手短な言葉をいくつか吐いてあしらうと、その男の前を後にした。

彼の上官であるエルヴィンは、リヴァイよりもずっとホールの中心にいて、絶えず人の輪に囲まれている。それを視界に収めると、遣る瀬無い気持ちも共に、空になったグラスをボーイのトレイの上に寄越した。

人を避けて、リヴァイはパーティーホールの隅へと逃げる。

ゲストルームへと続くホール出口の手前に、大きな出窓とソファのスペースがある。小休憩ができるようになっているのだ。ソファの手前には間仕切りなのか、いくつものクリスタルが散りばめられたオブジェのようなカーテンが吊るされていた。休憩するにしては落ち着かない場所だろう。しかし会場内はそこだけを切り取ったかのように、リヴァイ以外の人間はいなかった。

間仕切りをくぐり、リヴァイはソファに腰掛ける。浅く座り、足を組み、手を組んで俯いた。彼なりの防衛の意も込めて、どうかしばらくの間、誰も話しかけてくれるなと祈った。しかしクリスタルの隙間から、色素の薄い丸い瞳がリヴァイを見つめていることに、彼はすぐに気が付いた。ドレスも装飾品も白銀なのだろう。その女はきらきらとその場に溶け込んだかのように立っている。リヴァイは臆さず瞳を鋭くし、彼女を睨みつけた。

彼女の方はそこから動く気は無いらしい。やや腰を引き、いたずらな瞳を一層丸くし、柔らかな桃色の唇をきゅっと上げて微笑んだ。リヴァイは立ち上がり、彼女へと近付く。野原で蝶々を見つけた少年が、それを追いかける様が丁度こんな風だ。白銀の羽根が舞う。罠にかかった少年を誘うように、彼女は左右に揺れて見せる。リヴァイが口を開きかけたその時だった。彼女の背後から、リヴァイよりやや年配の男が彼女の肩を掴む。ホール内にはワルツが響いており、男は彼女を誘ったようだった。彼女は困惑の表情を浮かべ、リヴァイの方を見ながらその手を引かれていく。裾の長いドレスをはためかせ、あっという間にホールの中へと消えていく。

リヴァイはその後を追っていた。

赤、ピンク、緑、紫、黒。女性達が身に纏うドレスは様々な色で会場を彩る。その中からリヴァイは、光の全てをそこに集めたような白銀を探した。再びその姿を見つけると、意にそぐわぬ相手とのダンスを強要されていた彼女は、柔らかな笑みを浮かべてリヴァイを確認した。リヴァイは厭らしい顎鬚を蓄えたその男の肩を二度叩き、男がしっかりと掴んでいた華奢な手を離した。すい、と彼女の前にリヴァイは進み出る。そして何食わぬ顔で、今までそうしていたかのように彼女の手を取り、ダンスの相手にすり替わった。

「お前、名は?」

ナマエは口を開く。

リヴァイは定型文のような自己紹介をする彼女を、ワルツを踏みながらただじっと見つめていた。遠くない未来、この瞬間を酷く愛しく思い、また同じくらい憎らしく思うだろうと。そんな予感を抱きながら。


prev / next

[ back ]



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -