チルチルミチル | ナノ


▼ 12.遠い空が鳴る

女型の巨人ーーーアニがハンジ達が仕掛けた巨人捕獲の罠の前を通りすぎた瞬間、ナマエは彼女と目が合った気がした。

けたたましい音を立てて罠が発動する。肉を貫通できるだけの針がついた、ハンジ特製の巨人捕獲網。それで一瞬女型の動きは止められたかと思ったが、今一歩のところで女型は罠を掻い潜った。

「ダメだ!」

隣にいたモブリットが叫ぶ。同時にナマエはトリガーを構えた。

「私も援護に回ります!」

(今度は、負けない)

網を掻い潜った女型の前に、ナマエは躍り出た。
もう迷いは無い。恐れも無い。小回りの利く体を全力で回転させて、腕に切りつける。掴まれる前にまた、アンカーを放つ。思い切りガスを噴かせると、あっという間にアンカーを刺した壁が目の前に飛び込んでくる。一旦、足場を作る。そしてもう一度、跳躍ーーー。

青い空と、その巨大な体とのコントラスト。眼下には惨劇。

「ナマエ!」

ちょうどその瞬間、後から追ってきていたミカサ、アルミン、ジャン達が援護に入った。巨人化したエレンも、同様に追って来た。

空中でミカサとナマエは目を見合わせると、少しだけ頷く。

「エレンは正気を保ってる。けれどアニは、壁の外に逃げる気だ」

ミカサの視線の先をナマエも追うと、アニは東の壁へと向かっていた。それをエレンが阻止しているように見えた。

「ねぇ……本当にアニだった?」

今一度、ナマエは確かめる。ミカサは黙って頷いた。

「二手に分かれて回りこめ!絶対にここで捕えるぞ、逃がすな!」

ハンジの声が響く。
エレンとアニは、広い平地な場所へ躍り出ていた。アンカーを刺せそうな場所は無い。

(今出ても、エレンの邪魔になるだけか)

ミカサとアイコンタクトを取りながら、ナマエは2体の巨人の遠からず近からずな場所を探してアンカーを打ち直していく。エレンがここで、女型を倒すことが出来ればそれで終わりなのだが。

「エレン!」

ミカサの悲痛な叫び声。女型に投げられたエレンは、建物に埋まってぐったりと動かない。その隙に、女型は再び走りだしていた。

「逃げられる」

ミカサを追う形で、ナマエもそれに続く。女型はあっという間に、壁に手を掛けていた。そのままの姿で、壁を登って逃げる気なのだ。

アンカーを打つ方角を、高く構えた。ミカサもナマエも、大きく跳躍する。そして女型の行く手にアンカーを放つ直前、ミカサはナマエに向かって叫んだ。

「私は右」

「わかった、左」

同時に女型の指へと斬りかかる。一瞬の、斬撃。ナマエは左の指を全て切り離すと、壁へと飛びついた。ミカサは女型の額の上に軽く降りると、その衝撃で女型の体が大きく揺らぐ。

「アニ、堕ちて」

ナマエの視線の横を、やけにゆっくりとアニが横切る。

どしん、と大きな音を立ててアニは地面へと落ちた。同時に気を失っていたエレンが、アニに飛びかかる。ナマエは思わず眼下の建物にアンカーを放ち、2体の巨人の近くへと降り立った。

「ナマエ!危ないよ、離れて」

アルミンがナマエの肩に手を掛ける。

「でも2人が」

どう見てもアニに飛びかかったエレンは正常じゃなかった。怒りをそこに凝縮したかのように、アニのうなじへと噛みついている。しかしそのエレンのうなじを削ぎにかかったのは、少し遅れて到着したリヴァイだった。

「リヴァイ兵長!」

誰かがそう叫ぶのを封切りに、周囲にいた兵士全員がアニへと飛びかかった。アルミンはリヴァイの腕の中にいるエレンのもとへと走る。

ナマエは、少しだけ離れた場所からそれらを眺めていた。体が動かなかった。

「んだよこれ、おいアニ!出てきて落とし前つけろよ!」

ジャンがアニに向かって刃を立てる。しかし結晶体のようなもので覆われたアニは傷1つつくことなく、その中で眠りについてしまったようだった。

(……アニ)

真っ白だ。
その正体が確信となった時、もっと傷ついたり、怒りや悲しみが沸き起こるかと思っていた。でも今のナマエはただただ「無」だった。

「ナマエ、ハンジ達を手伝え。あいつを移動させる」

いつの間にかエレンをアルミンに渡したリヴァイがナマエの隣に立っていた。リヴァイの命令で、ナマエは我に返る。それは上官として、一兵士に伝えるただの命令だ。けれど真っ白になったナマエにとって、その声は世界に色彩を戻すには十分な命令だった。

「はい!」

場は混乱している。動き出さなければとナマエがリヴァイの方を向いた瞬間だった。リヴァイの視線が、ミカサがいる壁の方へと向かう。ナマエも自然と、その先を追った。

「な……に、あれ」

そのすぐ隣にいたミカサも、ただじっと見つめているようだった。アニが手をかけて、壊れた壁の中から顔を出した巨人の姿に。

ーーーどうしてあんな場所に巨人が。

その場にいた兵士全員が、どこからどう動けばいいのかと困惑していた。かろうじてモブリットが、ハンジに指示を求める声をあげる。しかしハンジが口を開くよりも前に、ウォール教のニック司祭が現れ、その巨人に布を被せろと叫んだのだった。

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