チルチルミチル | ナノ


▼ 11.ともだち

リヴァイの部屋で彼と交代で入浴を済ませ、ナマエはベッドの上に腰かけていた。すっかりリヴァイの部屋に泊まっていく空気だが、そこに色気を含むものは感じさせない。

まだ湿った髪のままのリヴァイはイスに腰かけ、早々に話しを切りだした。

「お前の、同期の話しをよく聞いていたはずだ。俺は」

予想外の話題に、ナマエは顔を顰めた。

「私の同期ですか?ひょっとして、誰か亡くなったとか」

「いや、すまんがそれはわかりかねる。エレンとかいう奴の話しは、聞いたことがあったか?」

「エレン?」

さらに予想外の人物をリヴァイが口にしたことで、ナマエは違和感を覚えた。どうして、今エレンの話しなのだと。

「エレンは……話した事ありましたよ。私と一緒で最初から調査兵団志望で。よく話していた私の親友の幼馴染なんです」

「ほぉ……」

「だからいつも一緒にいました。エレンと、ミカサと、あとアルミンっていう子もいて。でもどうして、今それを?」

リヴァイは立ち上がり、ベッドに座っていたナマエの隣に座り直した。
小柄な彼だが、ナマエよりは一回り大きい。リヴァイを見上げる様にしてナマエが見つめていると、自然と視線が絡んだ。

「どうせ聞くことになると思うが……そのエレンが巨人化して、あの壁を塞いだらしい」

「は?」

何言ってんだリヴァイ兵長、とナマエは表情で語った。出て来た話題が予想外を通りすぎて、最早理解にも苦しむ。

「信じられねぇだろうが事実だ」

「いや、あの……巨人?エレンが?」

「そうだ。今は審議所の地下にぶちこまれてるらしいが……」

「本当に冗談じゃないんですよね」

ナマエの脳裏には同時に、ミカサのことが浮かんだ。彼女も今、どうしているのだろう。エレンが巨人だなんて信じられないが、2人が引き離されているのならば、きっと彼女はひどく心配しているに違いない。

「こんなクソみたいな冗談が言える状況か?」

「いいえ……あの、エレンには会えませんか?」

「数日後審議が行われる。それが終わるまでナマエは無理だ。審議の結果によっちゃあ、一生会えねぇかもしれないが」

「そんな……!」

ナマエは思わず立ち上がる。両手が震え、顔に熱が集まっていた。

「落ちつけ。俺とエルヴィンも手は尽くす。今年の新兵は、憲兵に好かれるやつが多いな……全く」

そのリヴァイの様子を見て「すみません」と言いながらナマエは座り込んだ。エレンが、心配だった。

「明日から忙しくなる。お前も、ハンジんとこでこき使われるだろう」

「はい……」

「今日は大事がありすぎた」

リヴァイは表情を緩めて、ナマエの手首を握った。ナマエもゆっくりとその手をすべらせて、リヴァイと指を絡める。

「……ハンジさんには休めと言われたのですが」

「俺も今から、出ようと思う」

2人は同時に立ち上がる。
今エレンのことについて、すぐに何かが出来るわけでもない。けれど「居ても立っても居られない」のは、こういう時に使う言葉だ。

今夜はきっと、リヴァイの側でも眠ることは出来ないだろう。

「お前、着替えないだろうが」

リヴァイはクローゼットから予備の団服を、ナマエに投げつけた。

「これ」

「着替えて来い。もうそれで、構わん」

ワイシャツと、自由の翼が入ったジャケット。それを握りしめて、ナマエは深く頷く。

「そういや」

バスルームに入ろうとした時、リヴァイも立体起動のベルトをつけながら呟いた。

「お前、巨人は怖くなかったか」

「……いいえ」

「そうか」

怖いものが他に多すぎてーーーそれを言おうとしたが、ナマエは思いとどまって自由の翼に目を落とした。

(私はもう、調査兵なんだから)

***

「あれ?ナマエ、戻ってきたの」

「ニファさん。なんだか落ち着かなくて……代わりますよ。ハンジさんは?」

「ご覧の通りだよ」

2人の視線の先には、捕えた巨人と戯れるハンジとそれを諌めるモブリットの姿。

「もうかれこれ1時間以上はあんな調子なんだよ。私よりモブリットさんと代わってあげて。彼も疲れてるはずだから」

「そうします」

顔を見合わせて苦笑すると、ナマエはハンジを羽交い絞めにするモブリットの肩を叩いた。

「ナマエ!助かるよ、これ手伝ってもらえるかい?」

モブリットも疲れがあるのが、ハンジに対してこれ呼ばわり。

「ナマエー、いいとこに帰ってきたね!もう居ても立っても居られないよね?!巨人が近くにいるんだもんねぇ?!」

「ハンジ分隊長!落ち着いて下さい。モブリットさん疲弊しきってますから!私も手伝いますんで、とりあえず落ち着きましょう、ね?」

モブリットと一緒になってハンジを抑えるナマエ。

「ナマエ、宿舎から帰ってきたのか?もし手があるならこっちも手伝ってくれ!救護室に怪我人が入りきれん!」

巨人の柵の外を、通りすがりのギードがそう言いながら叫ぶ。

「ナマエ、エルヴィンのやつも手が空いたら顔を出せと言っていたぞ」

反対側からは本人も忙しそうに小走りのミケ。皆、それぞれに忙しいのだ。

(……やっぱり、ちゃんと休んでおけばよかったかも)

そうは言ってもこの状況。
わかりました、とナマエも大声を上げると、とりあえず目の前のハンジにもう一度声をかけた。

***

ナマエの数日間はこんな風だった。壁の穴を塞いだといってもトロスト区は壊滅寸前の有様であるし、調査兵団も多くの兵士を失っていた。

そして審議が行われる日の朝早く、慌ただしく朝食を摂っていたナマエの向かい側の席に、エルヴィンがトレーを持って腰かけた。

「んむっ、おはようございます!」

食べかけのパンを慌てて飲み干し立ち上がると「ゆっくり食べなさい」とエルヴィンは微笑む。

「言ってくだされば、お部屋までお持ちしますよ?」

あまり食堂に顔を出さないエルヴィン。首を横に振るエルヴィンを見て、ナマエはまた椅子に座り直した。

「いや、構わない。皆自分の仕事で忙しいからね。私の食事にまで、手を煩わせるわけにはいかないだろう」

「でもすぐ済みますし。いつでも言ってください」

「ナマエは働き者だな。ハンジやミケも褒めていたよ、あの壁が壊された日も休まずに人一倍動いていたと」

「そんなことないです」

自分の与り知らぬ所で幹部組の話題に上がっていたことがこそばゆく、ナマエはうつむいてスープをつついた。

「これからリヴァイ達と一緒に、エレン=イェーガーの審議に出席する。ナマエも準備をしなさい。ハンジ達と一緒にいるといいだろう」

「行っていいんですか?」

「彼と会わせてあげられるのは、内容次第といったところだが」

「そう……ですか。でも、きっと大丈夫だと思います。エルヴィン団長と、リヴァイ兵長がいれば。私の時みたいに」

「それはどうかな……体の大きさが違いすぎる」

それがエルヴィンなりの軽いジョークだとわかって、ナマエははにかむようにして笑う。エルヴィンもそれを見て目尻を下げて笑った。

「エルヴィン、こんな所にいやがったのか。もう時間だ」

いつもより少し早足のリヴァイが2人のテーブルに近付いてくる。エルヴィンはそれを確認して、トレーを持って立ち上がった。

「すぐ行くよ。ナマエはハンジ達と同行させる」

「ああ?憲兵が群がる所にこいつを連れて行く気か?」

「今日は大丈夫だろう。君も心配の種が尽きないな、リヴァイ」

ふん、とリヴァイは鼻を鳴らすと、ナマエを見て「早く食え」と睨んだ。ナマエは慌てて頷くと、残ったスープをかき集める。

「ん?そういえばナマエの調査兵の制服はもう出来たのか?サイズが合っていないようだが」

肩幅の合っていないジャケットのナマエ。しかしナマエが口を開くよりも前に、リヴァイは「もう行くぞ」と言って歩き始めたのだった。

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