妊娠を告げた名前。杏寿郎は自身の子を産むという名前に対し反対すると言葉を告げた。 「杏寿郎さん、貴方は私の事を本当に愛してくれていたんじゃないんですか」 杏寿郎はピクリと動きを見せたが、名前を見下しては言葉を発さなかった。 「私は、本当に貴方の事を愛していました。いや、きっと私はまだ貴方を愛してる。こんなにも血も涙もない様な人でも」 「何が言いたい」 杏寿郎は少し怒りを感じさせる表情をさせると名前は1度歯を食いしばり答えた。 「ごめんなさい」 名前は鬼殺隊として現役だった感覚を必死に思い出し全集中の呼吸を一瞬に身につけ瞬間移動したかのように杏寿郎の目の前から消える。 杏寿郎はそれに対し決して追えない速さではなかったが、追いかけることを諦めた。 「名前…」 杏寿郎はその場で膝から崩れ落ちた。 「俺はどうしたら良かったんだ。君だけを、君以外愛せない俺は…」 愛する人を一瞬で失った杏寿郎はあまりにも大きな精神的な衝撃により以前普通に師匠と弟子の関係であった時の理性が戻る。 「あっ…」 杏寿郎は素直な名前への気持ちを思い出し、自然と涙が溢れていた。 「名前…本当にすまない…名前…っ!」 一方名前は、まともな食事を取れていない生活を続けた為体力がなく、呼吸を使い続けるのが困難となっていた。 遠くへ逃げようと一瞬にして考えていたものの、煉獄家からそう遠くない位置で虫の息となり歩くのがやっとになっている。 ましてや裸足で、寝巻きである汚れた浴衣を身にまとって街中を歩くのがとても精神的に苦痛であった。 どこに向かうも定まらない中、音柱の宇髄天元の事をふと頭によぎる。 「(そういえば、愛してるって…私に言ってくれた…)」 宇髄と最後に稽古を行った日、愛の言葉を言われた名前。 今になってあれは本気だったのか演技だったのかと思い悩む。 体力も限界に近づきふらふらと歩く中、宇髄のことを思い出しているとあることに気づく。 「(あれ…私…宇髄さんのこと…好きになってた…?)」 名前は宇髄と行為をしている中で、どこか優しさを感じ途中から演技でも杏寿郎の為でもなく素の自分として接していた事に。 名前は体力の限界を迎え、人気のない路地で倒れてしまった。 |