Fateまとめ

Step.16 未完成の愛を恋と呼んだ

「貴様の望み通り玩具程度に扱ってやる」

 地を這うような低い声。ギルガメッシュがこの声を出す時は決まって機嫌の悪いときで、ルーラは諦めたようにへらり、と笑った。

「だっておーさまうちのこと好きちゃうやん」

 フリだと分かっていても、ギルガメッシュから優しくされる度に誤解してしまいそうになる。ギルガメッシュから愛されたい、と口に出してしまいそうになる。
 自分が望んではいけないことなのだ。愛されないと分かっていながら、その資格が無いと分かっていながら、期待をするのは虚しすぎる。

「どうせ愛してくれんくせに、」
「貴様、」

 ぎちり、とギルガメッシュに掴まれた手首が強く痛む。折れてしまいそうな程強く掴まれた腕から、ギルガメッシュの怒りが伝わってくる。
 怒りを滲ませたギルガメッシュの声に、耐えていた涙が溢れだして、ぐにゃり、と目の前が滲んでいく。

「……………我は、貴様が欲しい」
「それ、前も言うてた」
「貴様の全てを寄越せと言っている」
「うちもうぜんぶおーさまにあげたもん。うちがあげれるのもうないし」

 ぼろぼろと涙が零れる。恋心も、自分自身も、全てギルガメッシュに明け渡した。ルーラがギルガメッシュに渡せるものなどもうありはしない。

「貴様の翡翠の目」

 するり、とギルガメッシュが目元を撫でる。優しく涙を拭われ、ルーラの肩がぴくり、と跳ねる。

「アメジストの髪」

 ギルガメッシュの手がゆっくりと動かされ、髪に触れた。慈しむような、大切な宝を触れるように撫でられ、心臓がとくん、と跳ねる。

「貴様の心も、感情も、全て寄越せ。我はまだ受け取っておらんぞ」
「あげたもん」
「貴様が見ておるのはかつての我であろう。"今の我"に全て寄越せ。……………貴様が我に全て寄越せば、我も、貴様と同じものをくれてやる」

 ギルガメッシュの静かな声が部屋に響く。一瞬思考が止まって、動き出した時にはもう涙があふれた出していた。

「ぁ……………」

 目が溶けてしまいそうなほどボロボロと流れる涙が雨のように顔を濡らす。
 涙を止めようと目をこすれば、頬に触れられていたギルガメッシュの手がするり、と動いた。

「……………貴様は存外泣き虫よな」

 ギルガメッシュが静かに笑いながらルーラの頭を乱暴に撫でた。少したぎこちないその手つきに、更に涙が溢れだす。
 ルーラにとってギルガメッシュは正しく「運命」だった。ユーフラテスの畔で見たあの日の輝き。瞼に焼き付いて離れない、己の魂に刻み込まれた光。身を焦がす程の熱が、光が、焦がれたままずっと消えなかった。

「、だって、うち、おーさま、」

 涙で震える声で呟きながらギルガメッシュを見上げれば、強く腕を引かれ、胸に抱き込まれる。
 どくん、どくん、とギルガメッシュの仮初の心臓が速く脈打っているのが聞こえる。ギルガメッシュと触れている部分が熱を持って、ルーラの心臓もどくん、どくん、と脈打った。

「二度言わすな」

 ずっと涙が溢れて止まらず、ギルガメッシュの胸元をびしょびしょに濡らす。ぽろぽろと大粒の涙を零しながらしゃくりを上げるのを宥めるように背中を撫でられ、空いているもう片方の手で涙を拭われる。手つきは乱暴なのにギルガメッシュの声は優しくて、胸がぎゅうっ、と締め付けられる。
 ギルガメッシュがただのギルガメッシュとして、己を選んでくれたのだ。
 ルーラは震える手で縋るようにギルガメッシュに手を伸ばした。

「……おーさま、あんな、うち、おーさまに、全部、うちの全部あげる。うちのこれまでも、これからも、全部おーさまにあげる」
「献上だたわけ」

 だから、あいして。ひどく子供じみた自分勝手な願い。それでも、ルーラがそう言った瞬間、抱きしめるギルガメッシュの力が強くなる。
 ずっと、それこそ何千年も焦がれ続けてきた。己の恋心が擦り切れて何もかも分からなくなって、それでも、ルーラはギルガメッシュに焦がれ続けた。ただ1人、ギルガメッシュからの愛が欲しかった。

「貴様の全ては我のもの。髪の一本、血の一滴、その爪の先に至るまで全て我のものだ」

 ゆっくりと頷けばギルガメッシュに顎を掬われて、口付けが1つ落とされる。触れるだけの優しいキスにふにゃり、と笑えば、ギルガメッシュもつられたのかふ、と静かに笑った。
 再び唇が重なって、今度は応えるように口を開いた。触れた所から熱が伝わって、ゆっくりと溶かされていく。
 ずっと、これが欲しかった。ずっとこれが欲しかったのだ。


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