「げほっ、」
いきなり解放され、一気に空気を取り込んだルーラがゲホゲホと咳き込みながら激しく肩を上下させる。焦点の合っていない翡翠からはぽろり、と涙がまたこぼれ落ちた。
ルーラの白く細い首にくっきりと残る手の痕はまるで首輪のようで、ギルガメッシュは確かめるようにその痕をなぞる。我の、我だけのもの。
(離さん。決して逃しなど……………)
本物の首輪でも着けさせようか。それならば例え逃げ出したりしても、己の元に帰ってくる。
するり、と辿るように痕を撫でれば、また絞められるかもしれない、と怯えているのかルーラがびくびくと震える。翡翠の目は未だ蕩け、ゆらゆらと揺れながらギルガメッシュを見上げていた。
そんなルーラの姿を満足げに眺めながら、ギルガメッシュはぺたり、と細い首を手のひらで覆う。びくん、と跳ねた体をくつくつと笑いながら、ゆっくりと上体を倒す。
「貴様は我のものだ」
砂糖を煮つめたようなどろり、と重たい声。自分でもどこから出しているのだと言いたくなるほど酷く甘ったるい声で確かめるようにそう囁けば、ゆるり、とルーラの手が動いた。
「ぁ、うちは、ずっと、おーさまのもん、やで、」
少し苦しげに息を吐きながら、ルーラが抱きつくようにギルガメッシュの背中に手を回した。
己が聖杯戦争で召喚されれば、ルーラは必ずその世界に存在して、ギルガメッシュと出会う。ルーラの呪いはそういう呪いだ。かつてのルーラの執着が己とルーラを結ぶ楔になっている。
ギルガメッシュは何もルーラに残せていない。ルーラがギルガメッシュと出会ったとして、また己のものになる保証など、己を選ぶ保証など何一つない。ルーラの呪いはギルガメッシュと出会うことただ1つだけだ。
だからこうして言葉にして、言葉にさせて、形にして、結び付きを強くしなければ。ギルガメッシュのものだと、ルーラが生まれ変わっても魂に残るように刻みつけなければギルガメッシュは満足出来ないのだ。
首を覆っていた手のひらを上に動かして顎を掬うと、再びルーラの口を塞ぐ。今度はルーラから招き入れるように薄く口が開かれ、ギルガメッシュはゆっくりと舌を入り込ませた。
ルーラのせいでこんな感情を知ってしまった。己がエルキドゥ以外の他者にこれ程執着することを知ってしまった。
知ってしまったから、手離すことなど出来ないのだ