パチパチと炎の爆ぜる音がする。
魔獣すらも寝ているのか、静かすぎる夜の森でクーフーリンはキャスターのギルガメッシュとそのマスターであるルーラと共に火を囲んでいた。
(たっく……………なんでこんな事に)
レイシフト先でマスターとはぐれたあげく、ギルガメッシュと共に夜を明かすなんて今日ほど己の幸運値を恨んだことは無い。せめてもの救いはルーラがギルガメッシュといることだが、そのルーラは半分寝かけているのか、先程からゆらゆらと頼りなく体を揺らしている。
「……………」
ギルガメッシュとクーフーリンの間に会話は無い。ぱちぱちと火花が散る音と何らかの鳥の鳴き声のみが夜の森に響く。
時折頭上を眺めながら、手慰めに焚き火をつつく。そろそろ日が変わる辺りか。ぼんやりとそんな事を考えていれば、ギルガメッシュが座る場所をほんの少しだけ右寄りに移動した。その不可解な行動にクーフーリンが眉を顰めた瞬間、バランスを崩したルーラがぱたり、とギルガメッシュの膝の上に倒れ込んだ。
ギルガメッシュが僅かに移動しなければルーラは地面に頭をぶつけていただろう。バランスを崩せばちょうど膝枕になるようにわざわざ座る位置を調節したらしい。あのギルガメッシュが、である。
信じられないものを見るようにクーフーリンがギルガメッシュを凝視すれば、ギルガメッシュがゆっくりと顔を上げた。
「なんだ」
寝顔を見せるのが嫌なのか、ころん、と己の腹側にルーラの顔を向けさせながらギルガメッシュがクーフーリンを睨みつけた。まるで親猫が子猫を守るために威嚇するような行動に、クーフーリンは両手を上げる。
「なんでもねぇよ」
そう返せばギルガメッシュがふん、と鼻を鳴らしながら小さく形の良い頭に手を置いた。
頭を撫でるように髪を触るギルガメッシュの目はついさっきクーフーリンを睨みつけてきたのとは別人のように穏やかで、クーフーリンはす、と目を逸らす。
見てはいけないものを見てしまったかもしれない。居心地が悪くなって、必要以上に焚き火をつっき回しながら薪を足していく。
己の知っているギルガメッシュは傲岸不遜で自己中心的、他人のことなどお構い無しに自らの悦を求めるような男だった。それこそ目の前で燃えている火のように苛烈で、気に入らなければ誰だって殺す。我がルールだと声を大にして言うような、そんな男だった。
(あのわがまま王子がなぁ)
惚れたら負け、とはよく言ったものだ。あのギルガメッシュが、たった1人の娘子のために自分が座る位置をずらして、あまつさえ膝枕をするなんて冬木の自分は信じられないだろう。
クーフーリンははぁ、と息を吐きながら意味もなく焚き火をつつき回す。
陽はまだ昇りそうにない。