STORY | ナノ

▽ 十三月の付き合い方 督


なんか、こういうのってはじめてだね。
こういうの、正直苦手なんだよなぁ。どこから話そうか。
とりあえず、僕の覚えてる範囲で全部話すよ。曖昧なところはごめんね。
ああどこから話そうか。もうほとんど覚えてないんだ。
気が付いたらこの街にいて、他のインクリングと変わらない毎日を送っていた。いや、少し違うかも。臆病な僕はバトルにそんなに行ってなかった。怖いんだよ。やるのもやられるのも。でも慣れって凄いよね。今では普通にナワバリに入り浸ってるんだからさ。ガチはまだ勇気がいるかな。でも慣れないと、生活していけないから。仕方ないよね。
話がずれちゃったね。まぁ怖がりだから、当時はバトルなんて全く行かなかったんだ。そんな僕を周りは弱虫なんて罵った。だから全てから逃げたくて、僕はこの街から出て行く覚悟を決めたよ。そもそもなんでこんな街に来ようと思ったんだろうね。多分"外"の世界で余程苦しい生活でも送ってたんじゃないかな。
駅も抜け道も全て試した。でも、出られないんだ、なかなか。死に物狂いで探したよ。もはや来た道なんて関係なく。結局、見付からなかったけど。
そこでね、見ちゃったんだ。ハリボテの風景。作られた街。そこで気付いたよ。この街は、誰かが見てるんだって。飽きさせないよう、僕は知らず知らずの内に閉じ込められる。飽きられたら、見放されたら、きっとひとりぼっちになる。誰にも、会えなくなる。
気付いた瞬間、絶望しかなかった。誰に言っても信じてもらえない。当たり前だよね。ありえないことだもの。不都合なことを全て消していってしまう、この街にもう疑問を持つインクリングなんていないよ。
それからは毎日怯えながら暮らした。徐々に消えていく"外"の記憶。いつかひとりぼっちになるという恐怖。でも閉じ篭ってたらお金もなくまいっちゃうのはこちらの方で。仕方なくバトルに参加した。バトルに対する怖さがなくなったのも、誰かと関わらないって決めたのも、多分その頃。だって嫌じゃない。親しい友達なんて作って、もしその時が来たら。ひとりぼっちになったら。きっと僕は耐えられない。だから、壁を作る為に、こんなにも自分を塗り固めて。
このまま誰とも関わらなければいい。冷たい奴だと、嫌われる方がいい。苦しいことだけど、きっと友達が出来るよりずっと楽だから。
そんな時に、あるボーイとガールに会った。初対面らしいのに、互いを守るような立ち回り。変なの。一瞬会っただけの、赤の他人なのに。自分には絶対縁のないタイプだなと思った。でもそれも外れたようで。しばらくして、またそのボーイと出会った。というか話し掛けられた。
ある女の子を捜してるんだって。チーム勧誘なんだろうなっていうのはすぐに分かった。この世界のこともよく知らないで。だったら、苦しみを味わうくらいなら、こっちから壊してあげた方がいいのかなって思った。チームの壊し屋と噂される子が入っても、普通に仲良さそうだったし。じゃあわざと僕から壊してしまおうって。きっとこの世界を知る、僕なりの優しさだと思って。
なのに、こんなに絆されるなんて、思ってもみなかったなぁ。




毎日毎日不安で仕方ない。もし君達がこの世界の事情に気が付いてしまったら、どうしよう。きっと今まで通りの生活は送れなくなる。それなら、この苦しみを味わうのは僕だけでいい。みんなは、知らずに笑顔でいてくれれば、僕は耐えられるよ。
なのに、どうして、こうも真実を探し求めちゃうのかな。
エンギとナノが泣きそうにしてるのが目に浮かぶように分かる。ケイが悲しそうにすることも、フチドリが、苦しそうにすることも。
どうして、どうして。どうしてこんなにもしんどいことを与え続けるの。酷いよ。僕はただ、みんなに笑顔でいてほしいだけ。それだけなのに。
お願い。誰か。誰かみんなを助けて。その為だったら、僕はなんでもするよ。もうひとりぼっちになったっていいから。
誰か、みんなを助けて。



2017/01/28



[ back ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -