STORY | ナノ

▽ ***月の付き合い方


ある日のことだった。
突然、幼馴染のナノに誘われた。故郷に帰らないか、と。口では久々に故郷を見に行きたい、とのことだが、おそらくホームシックというやつだろう。ナノは家族のことが凄く好きだし、その家族もナノのことを大切にしている。愛情を注がれて生きてきたナノに、もう親に会うな、と言う方が無理な話だった。
しかし、俺としては帰る理由なんてなかった。家に帰ったところで誰もいないだろう。近所の同世代と鉢合わせしてなにか言われるのも面倒だ。だから、正直あまり帰りたくなかった。しかしナノのことを考えてみれば、帰ってあげた方のがいいのだろう。多少渋ったが、俺はナノの提案に承諾した。
そして特に準備もなく予定決行。外への出口も分からないので、無理矢理柵を越えて駅を利用することになった。駅は静かで、誰もいない。いつ見ても誰かが利用する気配のない駅だ。なんだか落ち着かなかったが、電車も到着したことだし、変な考えを跳ね除けてナノと電車に乗った。
ガタン、ガタンと揺れて進む電車。俺達は電車に乗るのははじめてで、なんだか新鮮だった。ナノが嬉しそうに窓の外を覗いている。俺は、誰もいないこの電車が不気味に思えて仕方なかった。
辿り着いた先。ナノがえ、と小さく漏らす。目の前に広がるその場所は、先程俺達が出てきたばかりの場所で。
もしかして乗り過ごしたのかな。そうナノが呟いて、もう一度乗ることになった。次は外は見惚れないぞ、と注意している姿が目の端で見える。ナノはともかく、俺も気付かなかったというのか。少し悔しかった。
そして辿り着いたのは、また同じ場所。さすがのナノも不審に思い始めた。すぐにでもここから離れたくなった俺は、ナノを連れて駅を離れた。
だったら別の方法で行けばいい。抜け道に抜け道を重ねてこの街に辿り着いたのだ。逆を辿ればなんとか行けるさ。そうと決まれば話は早く、ナノはやる気になって探し始めた。あちらこちら、覚えのある場所へ。しかし、なかなか見付からない。
休憩していた頃、街中でケイとエンギを見掛けた。二人で遊びに出掛けていたらしく、エンギなんか片手にアイスを持っていた。事情を聞かれたので話すと、一緒に探してくれるらしい。そういえばケイはどうやってここに来たんだ、と聞くと、私は元からハイカラシティ生まれよ、と返された。そうだっけ。違和感が拭えないが、特に掘り返す必要もないし、この話はそれで終わりになった。ちなみにエンギは外から来たが詳しくは覚えてない、と笑っていた。心底どうでもよかった。
休憩を挟みつつ探している内に日も落ちて、気が付けばハイカラシティは夜の街と化していた。これだけ探して見つからない。おい、おかしいだろ。さすがの俺も焦り始めた。もう帰らないと危ない時間なのに、ケイとエンギは察してくれたのか帰りのことは一言も口に出さなかった。ナノもなにも言わないが、凄く不安そうにしている。
なんなんだろう、これは。徐々に不安が募ってくる。だってこんな、見付からないって。俺達は幻でも見ていたというのか。じゃあ、俺達はどうやってここに辿り着いた?
さすがに暗くなってきた。暗いと見落とすのも多くなるし、女にこんなことをさせるのも酷な話だろう。探すのは明日に回して、もう帰ろう。口を開こうとした矢先だった。こんな時間になにをしていたのか、そこにはカザカミが立っていて。
こんな時間までなにをしているのかを聞かれた。それはこっちの台詞なんだけどな。変に突っかかる気力もないので素直に話すと、カザカミは心底呆れたような顔をしていた。
「なに言ってるの、出口なんてないよ」
え、と声が漏れる。意味が分からなかった。出口って。
「このまま、忘れてしまえばよかったのに」
カザカミが溜息を吐く。もったいぶるカザカミに、いい加減苛立ちを覚えたのか、ケイがこの意味を問うた。
「そのままの意味だよ。君達はもうこの街から出られない。もうこの街の住人だよ。だったら、だったらさ。君達のその"外"の記憶なんていらないよね」



2017/01/28



[ back ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -