これの続き

里の近くにアイツがでた

どこからともなく湧いて出た噂。噂話なんて信じないけどこの噂は別。少しでも可能性があるのなら。

「すいません、その噂、どこで聞きました?」



必死で走り、里の外れまで来た。もしかしたらまだいるかもしれない。確か、暁の外套は黒地に赤い雲だったはず。絶対目立つんだから分かるはずだろ。
あたりを駆け回り、そこにはいないだろってくらいの場所までがっつりしっかり探した。

「あっ、」

ふとした拍子に躓いて地面に顔から叩き付けられた。むくりと顔をあげれば建物の影からちらりと見えた特徴的な赤髪。あれ、なんか見覚えあるぞ。でもそんなの何年も前だしアイツにもそれなりの変化はあるはず。でも何かしら知っているんじゃないのかあの赤毛。
まさに怪我の功名。今はきっと、全ての運が私に味方している。
ささっと建物の影に身を潜め、様子を伺えば、

「あれ、いない…?」

さっき見えたはずの赤毛がいない。慌てて覗き込めば後ろから手首をぐんと引かれあっという間に壁に押し付けられる。

「いっ、」

あまりにも急すぎる展開、そして強く打ち付けられた背中の痛みに思わず眉をひそめる。
かちゃりという音とともに首に宛てられた刃物。だがすぐにそれをやった張本人の声が驚きの色に染まる。

「…お前、名前か?」
「!」

その声は…!

「サソ、リ…」

喉元に突き付けられたクナイが離れていき、腕の拘束が解かれる。赤毛野郎は、何年も前から全くと言っていいほど変わらない、サソリだったのだ。

「サソリ、」
「ちっ、なんでお前がここにいやがる」
「サソリを探しに来たんだよ」

私を見つめる双眼は、訳が分からないと語っていた。

「サソリは何も変わらないね」
「お前は老けたな」
「サソリのせいです」
「はぁ?」
「サソリがいなくなっちゃうから、皺が増えたんだよ」
「んな訳あるか」

呆れた表情をしながら私に背を向けようとするサソリの腕を慌てて掴む。そうすればサソリは眉間に皺を寄せながら振り返る。

「んだよ」
「せっかく再会できたんだ。もう行かせない」
「はぁ?」

あのサソリが素っ頓狂な声をあげた。

「離せ。お前とは縁を切ったはずだ」
「私は切ってない」
「俺が切ったんだ」

知るかそんなこと。
私はあれからずっとサソリを探して来たんだよ。ずっとずっと、寂しかった。サソリは違うの?
私がいなくて、寂しくなかった?

「…おい、名前。お前、」

泣いてるのか?
そう聞かれて目がしぱしぱしていることに気付いた。慌てて手で拭えば確かに湿っている。

「なんでお前が泣いてんだよ」
「だって、」
「お前が泣いてちゃ、俺が名前の前から去った意味がねぇじゃねぇかよ」
「どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。相変わらず馬鹿だな」
「なっ」

先ほどの感情とは反対に、わなわな震え出す両手を力いっぱい握りしめる。

「…はぁ」

サソリは小さなため息を着くとひょいと私を抱えた。いきなりの出来事に目が点になる。ぱちぱち瞬きをする間にいつの間にかしゅんしゅんと気の間を飛んでいく。

「え、え、」
「何マヌケな声出してんだ」
「だって、」
「名前が俺をこうさせたんだ」
「は」
「もう手放す気はない」
「いや、何を言っているのかがさっぱりなんですが」
「…」
「あの、えと」
「俺がいないとお前は不幸なんだろ?」

自信ありげな顔で私に問いかける姿にすら見惚れてしまうなんて私にはやっぱりサソリが必要なんだ。

「だったら、ずっと一緒にいてやるよ。嫌だなんて言われても、ずっと付き纏ってやる」
「…期待してます」


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