響く鐘の音に意識を奪われて、人が行きかう道の真ん中で足を止めた。
新年が来るまであと数時間だ。いつもこの時間は何となく変な気持になる。
「なまえちゃん、どうかした?」
「え、あ」
ひょいと視界にいきなり佐助さんが現れて我に返った。
わんわんと響く鐘の音はいまだに私たちを包んでいる。
「こんなところで止まってたら、はぐれちゃうよ」
そういって佐助さんが指さす先には遠くなっているみんなの背中。
それをみて慌てて、私は再び歩き出す。ゆっくりと横にいる佐助さんも足を踏み出して私と同じペースで歩いてくれる。
ちっとも追いつけないみんなの背中を見ながら、そう言えばもともとコンパスが違うのだと心の中でつぶやく。私と彼らは身長にかなりの差があり、それはもちろん、足の長さにも差があるということだ。(しかしけして私が足が短いからだとはいわない。私はきっと現代では標準ぐらいだ!みんながモデル並みにスタイルがいいだけ!)ゆえに、普通に歩いていては差は開くばかりだ。
「佐助さんどうしよう、みんな見失っちゃったら見つけるの大変ですよ」
「そうだねえ」
そう言えばみんな携帯も何も持っていない、はぐれてしまっては大変だと、あせってそう言ったのに横を行く佐助さんはのんびりとそう返すだけだ。それに焦れて、佐助さんの顔を見上げてから足を止めた。
なにせ、そこにあったのはうれしそうな笑顔だったのだから。
「ちょっとぐらい、見失ってもいいんじゃない?」
ふ、と笑った佐助さんのと息が白く濁って空気に溶けた。それに目を奪われているうちにいきなり握られた手に驚く。
「皆いたら、こんなことできないし」
「さ、すけさ」
「こうやってわざとはぐれて、なまえちゃんと俺様、二人で新年迎えるってのもいいんじゃない?」
ぐん、と引っ張られて私はまた歩き出す。繋がれた手はそのままに、引っ張られるまま佐助さんの少しあとをついていく。道行く人たちがそのつないだ手を見ているようで顔が熱くなった。
わんわんと鐘の音がいまだに空を、空気を、私をぐらぐらと揺らす。
「今は鐘、幾つめぐらいだろうね」
「え、」
「もうすぐ開けるからもう100近いのかな」
紡がれる他愛無い話題にいまだ混乱している頭で拙い返事をする。
繋がれた手がひどく熱い。
「除夜の鐘は108個の煩悩っていうけど、人間の煩悩は108じゃすまないと思うんだよね」
「ああ、それは私も思います」
やっと落ち着いてきて佐助さんの言葉がきちんと頭に入るようになったところでそう言われて返事を返せば、だよねえ、と佐助さんは私を見て悪戯に笑った。
「だってさ、」

「なまえ殿!佐助!そこにいたのか!!」

その瞬間に幸村の声が聞こえて私たちが声の方向に目を向ければ、あせった顔をした幸村が立っていた。
「いなかったから心配したぞ!佐助、お前が付いておりながら何をしておる!」
「はいはい、ごめんごめん!」
へらっと笑いながら佐助さんはそう言っているうちに私とつないでいた手をさりげなく解いた。
それに気がついて視線を佐助さんにやれば、佐助さんはウインクをしながら口だけを動かして「残念」とつぶやいた。
「なまえ殿、皆が待っているから早くいきましょうぞ!」
「あ、うん。ごめんね幸村」
今度は置いていかれないように幸村の歩幅に合わせて少し大きく足を踏み出した。
離れた手にほんの少しの物足りなさを感じながら、そういえばあの言葉の後には何と続いたのだろうと頭の隅で考えた。



(だってさ、なまえちゃんとしたいこと108ぐらいじゃ足りないしね)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -