「いたいた!慶次さん!」
「お、なまえ」
「もう!探したんですよ」
「ごめんごめん」
やっと見つけた慶次さんに駆け寄れば、軽く謝られて眉をしかめた。
「本当に心配したんですからね!」
「いやー、だってここのおっちゃんが甘酒くれるっていうからさ」
そういって慶次さんは紙コップを掲げて甘酒売場のおじさんと目を合わせて笑った。相変わらず、知らない人と仲良くなるのが早い。
慶次さんは私の知らないうちに行く先々で知り合いがいる。それは多分天性のものなんだろう。
「お嬢ちゃんもいるかい?」
「甘酒、ですか」
にこにこわらっているおじさんにそういわれて、そういえば甘酒を飲んだことがないのに気がついた。
「お酒入ってないんですっけ?」
「あぁ、甘酒は名前には酒ってついてるけどアルコールはいってないよ」
それを聞いて、じゃあひとつといおうとした瞬間後ろから大きな掌が私の口を塞いだ。
「なまえはだめ」
「むぐっ、」
誰、とは言わずとも慶次さんに決まっている。
「なんだい慶ちゃん、ちょっと過保護じゃないかい?」
「はは、そうかな?」
さっき出会ったばかりのおじさんが慶ちゃんなんて呼ぶのに驚きながら口を押さえている慶次さんの手をやっとのことで剥がした。
「け、慶次さん!」
「だってなまえ、酒苦手だろ。これ、確かに酒じゃないけど弱いやつだったらこれでもやっぱりちょっと当てられたりすんだから、だめ」
「むー!」
むに、と頬っぺたを両方引っ張られて笑いながら言われる。けど、だめと言われたらしたくなるのが人情だ。
「のみたいです!」
「だーめ」
「う〜慶次さんの意地悪…」
「…」
見上げれば一瞬だけ慶次さんが動きを止めてそれから小声でなにかつぶやいた。
早口で小さな声だったから私にはなんていったかきこえなかったけれど、おじさんにはきこえたらしいにやにやと笑いながら私たちを見ていた。
「意地悪、だってよ」
「…ほんと、まいったよ」
はあ、と慶次さんは笑いながら困ったようなため息をつくと、置いていた自分の甘酒の入ったカップを私の前に差し出した。
「一口だけだからな!」
「わ!」
やった!と叫んでそれをうけとると口を付ける。どきどきしながらごくり、とのめば甘いもののやっぱり微かにお酒のような味がした。
「……」
「ほら、やっぱりあんまりすきじゃなかっただろ」
飲んでなにも言わずにカップを返した私に慶次さんはやれやれというように笑いながら、私の頭を撫でた。それがくやしくて、そっぽを向けばおじさんと慶次さんの笑い声が重なった。
「ま、その一口で嬢ちゃんが酔っ払ったら慶ちゃんがお姫様抱っこして連れて帰ったらいいじゃないか」
「なっ」
「そんなの当たり前だろ」
「ちょ、慶次さんっ!」
そういってにやりと笑う慶次さんはカップに残っていた甘酒を一気に煽ると、コン!といい音を立てておじさんの机に置いた。
「んじゃ、おっちゃんごちそうさん!」
「はいよ!二人とも仲良くな!」
「えっ、あっ」
別れもろくに言えないまま、慶次さんに手を引っ張られて歩き出す。明らかにおじさんは私と慶次さんが恋人同士だと誤解していたのに、結局解けないままだ。
「け、慶次さん!誤解されたままですよ!」
「ん?ああ、いいじゃん」
「や、いいじゃん、じゃなくって…!」
引っ張られながら切れ切れにそういったら急に慶次さんが立ち止まったものだから後ろを付いていっていた私はその背中におもいっきりぶつかってしまった。
「った、…!」
なんで、と言おうと顔をあげて息を止めた。
「だって、そう思われるの、俺はうれしい」
「慶次、さん」
にこ、と慶次さんは笑う。
「だからもうちょっと、なまえは俺のだって誤解させててもいいだろ?」
その言葉はあまりにも不意打ち過ぎて、私の心臓は鷲掴みにされてしまった。繋いだ手にぎゅ、とちからがこめられるまで私は息をすることすら忘れていた。
顔が熱いのは、きっと甘酒のせいだと思おうとした。



(俺を見上げるその無防備さも、その全てを自分だけのものに出来たなら)



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