名前を呼ばれることがこんなにも心地がいいことだと、初めて知った。
「小太郎、みてみて。きれいな三日月だよ」
「……」
月を指さして喜ぶ彼女を見ながら、それにこくりと頷いて自分も見上げる。
「蜂蜜色だね」
そういって目を細める彼女はひどく美しくて、ふと、渇きが俺の身体を満たす。
愛する方法など、なにもしらない。言葉なんて、とうの昔に失ってしまった。
けれどどうしても伝えたくて、そっと手を伸ばした。
それに気がついたらしく、こちらをみて少しだけ首をかしげる姿はひどく幼く見えた。
「どうしたの?」
触れたいだけだと、そういったらどうするだろうか。
きっと、どうもせずに少し驚いた顔をしてそれから笑うのだろう。
なんでこんな自分のすべてを受け入れてくれるのか、その答えはいまだにわからない。
多分、一生わかりはしないだろう。そっと、伸ばした指先がやわらかな髪に触れた。
そのままどうしようもなくてするりと髪に指を絡ませれば、いまだにまん丸い瞳がこちらを見つめていた。
「小太郎?」
名前を呼ばれてそっと彼女ののばされた指が俺の頬に触れる。
あぁ、こうしてまた一つ囚われていく。そのまま身体を倒してその膝に頭を載せて倒れ込んだ。
少し慌てた声を彼女があげた。
「わっ。ど、どうしたの!」
なんでもない、と意思表示するためにフルフルと首を振る。
こんな顔を見せればしない。こんな、情けない顔を。
おずおずと彼女の指が俺の髪に触れて、いつものようにそっとそっと優しく頭をなでられた。
その感触にそっと目を閉じる。どこまでも優しいその手に俺はどろどろに溶かされてしまう錯覚に陥るのだ。
「なんだかわからないけど、でも、大丈夫だよ」
大丈夫、ともう一度呟いて優しく頭を撫でられる。
涙など、ではしないと知っているのに何かが零れおちてしまう気がした。
「・・・っ」
喉が引きつって、ぎゅうっと彼女の服の裾をつかめばその手に彼女のもう片方の手が優しく重ねられた。




いっそのこと、今まで生きてきた世界のように何かの見返りとしての愛ならば簡単に受け入れられたのに



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