「ずりィずりィずりィ!!!」
「ずるいでござるずるいでごさるずるいでござる!!!」
なんだそれは早口言葉か!とつっこみたくなった買い物から帰って来たキッチンでのこと。



家の鍵を開けた瞬間に熱烈に出迎えてくれた真田さんと伊達さんはどうやら何も壊していないようだった。ただ置いているものがあちこちずれていたから、興味があるものは片っ端から触ってみたのだろう。
それにちょっとだけほっとしつつただいま、といえば元気よくおかえり!と声が返って来た。

「今はお昼もご飯食べるんだねぇ。すーぱーってところに並んでる食材も種類すごかったし、俺様新鮮な魚なんて久々に見たよ」
「今は冷蔵庫っていう長期間食材を保存できる手段がありますからね」
「そうそう!これすごいよね!!」
そういってぺたぺたと先ほど使い方を教えた冷蔵庫を叩く佐助さんの顔はうれしそうだ。
「あ、じゃあ本当にごはんはお任せしてもいいんですか?」
「当ー然!おいしーのつくってあげるからさ。右目の旦那のお手伝いでもしててよ」
そういってにこっと佐助さんは笑う。佐助さんは料理を、小十郎さんは壊れた天井の掃除をしてくれるというのは、買い物の帰り道に決めたことだった。
あれからスムーズに名前を呼べるようになるまで何度も何度も呼ばされたものだから、もうあまり抵抗はなくすんなりと下の名前を呼べるようになっていた。
「じゃあ、佐助さんわからないところあったら呼んでくださいね。で、小十郎さ、」
「佐助さん!!??」
「小十郎さんだと!!??」
ん、と続けようとした言葉は伊達さんと真田さんの大声に掻き消されてしまった。
今までそのままごはんができるまでテレビを見ててといわれて大人しくしていた二人は目にも留まらぬ早さで立ち上がると一気に私の目の前まで移動して来ていた。
広めのダイニングキッチンとはいえ、4人も入るとさすがにぎゅうぎゅうだ。
「なっ、なんですかっ!」
「それはこちらの言葉でござる!!楓殿!!!」
「楓!!!」
なぜかものすごい剣幕で叫んだ二人に思わず後ずさればトン、と何かに背中が当たった。その瞬間、なにかが私の両肩に乗った。
そして、後ろから聞こえた声で肩に乗ったのは佐助さんの手で、二人の勢いに後ずさっていた私の身体を後ろから支えてくれているのだと気がついた。
「ちょっと旦那達危ないから台所から出ていってくれる?楓ちゃんが怪我しちゃうかもしれないでしょ」
「それに楓が怯えてる。自重なさいませ、政宗様」
そういってリビングから顔を出したのは小十郎さんだ。
なぜか二人の顔は微妙に笑っている、…気がする。
それに対してもっとしかめ面になったのは伊達さんと真田さんである。な、なんかかわいいぞ…。しかめ面してる二人はいつもより少し幼く見える。
でも何が二人をそんな顔にさせているのかわからなくて少しだけ首を傾げた。
「え、ええと…お留守番が嫌だったなら、ごめんなさい。明日は伊達さんと真田さんと、」
「そこでござる!」
「それだ!」
また大きな声で言われて、驚きでからだが跳ねる。え、えーなにが!
「なんで佐助と片倉殿だけ名前なのでござるか!!」
「That's right!そこだ!なんであいつらだけ親しげに名前で呼んでるんだよ」
「えええ何でそんなこと気にしてるんですか!」
「そんなことじゃねえ!!!」
「そんなことじゃないでござる!!」
「わわわ」
「ずりィずりィずりィ!!!」
「ずるいでござるずるいでごさるずるいでござる!!!」
呆気にとられていたものの、そういいながらじたばたとじだんだを踏む真田さんと、しかめ面で私を見つめたままそういう伊達さんをみていると、思わずぶはっと吹き出してしまった。
「ちょ、す、すみませ…ツボにはいっちゃっ…あは、ははは」
笑いが止められずにそのままからだを震わせて笑う私を見て、伊達さんと真田さんはくるりと目を丸くした。
「あは、あはははは、はあー…、わ、わかりました。わかりました」
笑いすぎて酸素がたりなくなって言葉もとぎれとぎれになる。でもなんだ、
このかわいい生き物達は。たまらない!
息を整えて、笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭うと二人を見た。
「幸村さん。政宗さんって、呼んでいいんですね」
そういってにこりと笑えば、いままでぽかんとしていた二人の顔が変わった。
政宗さんは隻眼を一瞬驚いたように見張って、そして幸村さんは心配になるぐらい顔が一気に赤くなった。
「ゆ、幸村さん」
大丈夫ですか?といおうとしたけれど、それは突然政宗さんにぐいっと手を引っ張られたことで音にはならなかった。するりと肩に置かれた佐助さんの手が離れる寸前に「あっ!」と何故か焦った声が聞こえたきがした。
「惜しいな、楓。ちぃっとばかし俺の望みには足りねぇなァ」
整った顔がすぐ目の前にあって急に心臓がうるさくなる。
「え、えっ」
「さん、はいらねぇ。政宗だ。Are you OK?」
流暢な英語で尋ねられたものの、ばくばく煩い心臓のせいで全く頭が働かない。そんな私を見て政宗さんはいっそう目を細めて、猫みたいににんまり笑った。
「オイ、呼ばなきゃこのままKissすんぞ」
そういってぐっと近づいて来た顔に本気を感じて私は半ば悲鳴の如く叫んだ。
「ぎゃーーー!政宗!いった!ほらいったってば!政宗!」
「A-han、よくできましたってとこか。あと俺には敬語も無しだ。OK?」
その言葉にコクコクと首を縦にふれば、政宗は満足そうに息を吐いてそしてそのまま、なぜか、近づいてくる顔が止まらないんですけど!
「ぎゃ、ぎゃー!うそつきいいい!」
「あー?ちげぇよ。これは、ご褒美のKissだ」
にんまりとわらった政宗にそういわれて謀られた!と頭の中で叫んだ瞬間政宗の頭がすぱーんという良い音と共に横にぶれた。ぱ、と政宗の手が離れて、今度は違う手に受け止められる。
「…政宗様」
地を這うような、小十郎さんの声。因みに手には何故か今日買ってきた白ネギ。あなた、ネギで主人殴りましたよ小十郎さん!
「今のはかーなーりーやりすぎでしょ」
後ろから聞こえた声に抱き留めてくれたのは佐助さんだと知る。その目も何故か鋭い光がある。
なぜかぴりぴりとした空気を破ったのは、やはり柴犬こと幸村さんだった。
「楓殿!その、某も呼び捨てがいいでござる…」
ぽつりとつぶやかれたその言葉にはああと佐助さんと小十郎さんのの大きなため息と伊達さんのはっ、という笑い声が響いた。
「あと、敬語もやめていただきたいのだが…だめでござるか?」
最終兵器首傾げ。
だから、それは、卑怯だって!
嫌だって言えるわけないじゃない!!
「う、うん、だめじゃない。えーと、幸村」
そういえば幸村はぱあっと顔を明るくして嬉しそうににかっと笑った。
ああ、オプションで、ちぎれんばかりに振られる尻尾とピンと立った耳が見える…。
「旦那、無意識に楓ちゃんに甘えるのやめてよ!」
「な、なななな何をいっておる佐助!俺はただ楓殿にはこれからお世話になる故、」
「そうだぜ、真田よォ。俺のHoneyに何色目使ってんだよ」
「ちょっと、政宗さ」
「政宗、だ」
「う、ま、政宗」
さん付けで名前を呼ぼうとしたらすかさず訂正が入った。ああ、これはまた呼び捨てにするしか選択肢はないみたいだ…。
「何で私のことどさくさにまぎれてハニーとかよんでるんですか!」
「そりゃァ、俺がお前を気に入ったからに決まってんだろ」
にやり、と政宗はまた笑う。それがあまりにもくやしくて一回ぐらい殴ってやろうと手をのばすまえに、政宗の頬にするりとネギが当てられた。
「…政宗様、正座なさいませ」
未だに小十郎さんの声は低い。そして、怖い。
「…楓殿、片倉殿が怒ると佐助が怒ったのと同じぐらい怖いでござる」
「ね、怖いね…」
つぶやいて、二人で顔を見合わせてぶるりと身体を見合わせた。
「あ、でもいいにおいがしてきたでござる」
幸村がいえば、確かにふわりと鼻をおいしそうなおみそ汁のにおいが掠めていった。
「ほんとだ。おいしそうなにおい」
「佐助の作るご飯はおいしい故、きっと楓殿も気にいるはず」
にかっと笑ってそういう幸村に笑い返して、目を閉じてもう一度胸いっぱいにそのにおいを吸い込んだ。
懐かしい香りに胸がじわりと温かくなった。



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