「うおおおおものすごい風が!しかしこの程度の風に某、負けはせぬ!」
「はいはい、わかったからおとなしくしてね」
「むう、」
ごおおお、とすさまじい音をたてて風を吐き出すドライヤーに向って怒鳴る幸村の頭を掴んでぐるりと前を向かせた。



お昼の佐助さんのご飯はまったくもって文句がつけようがないほどおいしかった。それだけでも驚いていたというのに晩御飯の小十郎さんのご飯までものすごくおいしいことに少しだけ女として負けた気がしたけれど、もう開き直ってこのおいしい料理をもぐもぐと口の中に詰め込むことにした。
「うまいか?」
そう尋ねながらもぐもぐと食べ続ける私の皿に小十郎さんはさっと大皿から取り分けたからあげをのせた。さっきから幸村と政宗がものすごいおかずの取り合いをしているせいでとれなさそうだと心配していたのだけれど、気がつけば佐助さんと小十郎さんが私のお皿に食べきれそうな量を知らない間に載せてくれているようだった。
口いっぱいにご飯を頬張っていた私は声を出せずにコクコクと勢いよく首を縦に振ることで返事をすれば、小十郎さんは嬉しそうな顔をしてそうか、とつぶやいた。
しかし、どうしてもその服装に目がいってしまう。
部屋着はまあいいか、適当なところで買おうと思ったのがいけなかった。
みんな色違いのフリースを着ているというこの状況はまったくもって奇妙な光景だった。
幸村はもちろん赤。政宗は青、小十郎さんは紺、佐助さんはモスグリーン、そして私は無難な白を選んだのだけれどなんともこのみんなでお揃いな感じがこの部屋の光景を異常なものにしている気がする。最初は色違いのお揃いということに難色を示してはいたが、こちらの衣服は昔のものに比べるとやはり格別に手触りがよく、そして軽いうえに防寒性が高いらしく今ではみんななかなか気にいってきていた。
でも、服って言うのは着る人で変わるものだなあと改めて思う。整った顔立ち、そして抜群のスタイルの人が着れば大量生産のフリースもなんのそのなかなかかっこよくみえる。
ちょうど新作で出ていたダウンジャケットも買ってきたのだけれど、もちろん色違いだ。それを見せて「明日これ着て一緒に買い物行こうね」といえばきらきらと目を輝かせていた。
武器を預かる時が一番大変だった。
いくら歴史の知識が浅い私とはいえ、刀や武器が武士の命と同じぐらい重いものであるということは知っている。だからこそ、その話を切り出すときはきちんと正座をしてまっすぐ向かい合って話した。
話を聞いて難しい顔をしていたけれど、「楓だから」と、皆そう言って私に自分の命を差し出してくれた。
受け取ったそれは勿論物質的な意味でも重かったけれど、違う意味でもずしりと私の手の中でその重さを嫌というほど訴えた。そしてあって一日もたっていない私をここまで信頼してくれているというその重さが今更ながらのしかかってきて思わず手を握り締めた。
守らなくてはいけない、というのはおかしな言い方だろう。もちろん、私より何倍もこの人たちの方が強いのだから。けれど、命を預けてくれたこのひとたちを守りたいと思った。
「久しぶりにこんな風に騒いでごはん食べたから、おいしいです」
ごくりと、口の中にあったものを飲み込んでそう小十郎さんに云えば、なぜか一瞬にして食事の場は静まり返ってしまった。
「え、な、なに、何で静かになるんですか」
幸村と政宗なんて最後のひとつの唐揚げを取り合うのを途中でやめてまでこちらを見つめていた。
「なんていうか楓ちゃんってさあ、ほんとずるいよ」
横にいる佐助さんが頬杖をついたまま、へらりと笑ってそういえばほかの三人がゆっくりと頷いたけれどその意味がわからずに私はきょろきょろとそんな四人の顔を見渡した。

そして私が思っている最大の難関お風呂である。4人を浴室に呼んでここの機能を説明してシャンプー、コンディショナー、ボディーソープをドンっと並べる。それらが全てライムの香りだったことに今は少し安心する。もしローズやピーチの香りだったら、ぞっとすることになっていただろう。
そんな香りのするみんなは、笑うためならまあ見たいけど、やっぱり見たくない。
「一番風呂がいいでござる!」
そういったのはやっぱり幸村さんで案外お風呂の機能を説明したときもわくわくするばかりで驚かなかったのがして気にちょっと残念だ。シャワーとかもっとおびえると思ったのになんて考えていると政宗がそんな幸村の顔をむにっと掴んだ。
「俺が一番に決まってんだろうが!なあ!楓!」
「なにを!負けぬわああああ」
「Ha!やるってか?」
風呂場に反響する大声に耳をふさぎながらぐいっと政宗の手を引っ張った。
「幸村が先に行ったんだから、今日は幸村が先。早い者勝ち文句なし!」
「Honey…お前、ちと強気になったんじゃねえか?」
「政宗がああいうことするから、この一日でずいぶん図太くなったの。あとこれは地。さー、でてくでてく!」
そう言って政宗の背中を押しながら、幸村にバスタオルを渡して残りの人とみんなでぞろぞろとリビングに戻る。雄たけびが聞こえて勢いよくシャワーを出す音が背中に聞こえた。
「真田幸村、只今あがったでござる!」
「それじゃ、次は俺か」
「うん。政宗行ってらっしゃい。幸村、わからないところはなかった?」
「なかったでござる」
こくりと幸村は私の目の前までくるとこくりと頷いてそう言った。瞬間に、私の顔にぽたぽたと雫が落ちてきた。
「あ、す、すまぬ!」
「い、いやいいけど髪全然ふけてないよ」
ごしごしと私の頬に落ちた水滴を袖でこする幸村の手を掴んで髪に触れればじっとりとまだそれは水を含んでいてぎゅうっと握ればまだぽたぽたと水がこぼれおちた。
「ちょっと座っててね。あ、待ってる間にもう一回髪の毛拭いておいてね!」
「うむ!わかった!」
「あ、政宗待ってまだ脱がないでね!!!」
そういって素直にごしごしと髪を拭く幸村を置いてぱたぱたと浴室に行けばぎりぎりセーフでまだ政宗はフリースを脱いだだけだった。
「Ha、どうしたHoney。俺と一緒にはりたいのか?」
「はいりたくありません!ドライヤー、ええと髪を乾かす温風が出るからくりを取りに来たの」
そういって目当ての物を見つけると手に取って出ていこうとしたのに、ぎゅうとその手を掴まれた。
「Hey,もしかして、それは真田の髪を乾かしてやるために持ってくのか?」
「え?うん。そうだよ」
そういえば政宗が顔をしかめた。
「…政宗?」
そのまま手を離してくれない政宗の顔を覗き込めば、不意と目がそらされる。どうしよう、と思っていると急にするりと手が解放されて少しよろけた。
「どうしたの」
「俺も」
ぽつりと呟いた政宗はこちらを見ようとはしない。なんというか。拗ねてる、感じだ。
「俺もあがったら髪を乾かしてくれるンだろうな」
そう言ってやっと私の顔を見た政宗の顔はやっぱりしかめっ面だったけれど、そのセリフのせいで全く怖くはなかった。私は小さく笑うと政宗のきれいな黒髪に指を絡ませた。
「しょうがないなあ。政宗もしてあげるよ」
「…Shut!真田と一緒の子供扱いなんてするんじゃねえ」
「だって、政宗子供っぽいんだもん」
そういったものの、政宗の顔はやっぱりうれしそうだった。

それからドライヤーを使ってふたりとも乾かしてあげたところ、まさか幸村と政宗そろって私に乾かしてもらうことが習慣になるとは予想外としか言いようがないことだった。



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