朝日は柔らかく、私を照らす。
あぁ、こんなにも世界はやさしさで満ちていたのだと、初めて知った。



起きれば、そこは私の部屋だった。なんでここにいるのかと、数回瞬きをして、そっとベッドから足をおろした。階下の騒がしさからいって、もうみんな起きているのだろう。うっかり寝すぎてしまったと慌てて下に降りていけば、リビングで朝から元気に騒ぐみんなの姿があった。
「おはよう!」
「っむぐ!」
そういって朝から抱きついてきたのは、言わずもがな兄である。ぎゅううとそのまま抱き締められて過激な愛情表現に窒息寸前だ。ばたばたと手足を動かして何とかそれから抜け出すと、そばに座っていた元親さんの横に避難するように走った。
「お、起きたか、楓」
「おはようございます。元親さん」
「なっ、なんでお兄ちゃんより先にそいつにいうんだ!」
「だってお兄ちゃんいきなり抱きつくから言えないんだもん!」
ぎゃあぎゃあとうるさい兄にそう言えば、まあまあとなだめるように元親さんがまだ寝ぐせのついたままの私の頭をなでた。
「おうおう。兄貴にもちゃんといってやれって」
「うっわ、元親に言われるとものすごく腹が立つぞ」
いつのまに名前呼びするほど兄と元親さんは仲が良くなったのだろうと思いながら、言われるがままに兄におはよう、と云えばものすごく嬉しそうな顔でもう一度おはようと返事が返ってきた。
「お、起きたんだね。楓ちゃん」
ひょいっとキッチンから顔を出したのは佐助さんだった。ちなみに、オプションのおたま付きだ。
「おはようございます」
「もう少しでできるからね。先に顔洗っておいで」
「はい」
まるでお母さんとの会話だとくすくすと笑いながら洗面所に向かえば、先客で慶次さんがいた。
「おはようございます」
「ん?あ、おはよ!」
顔を洗ったのだろう、ぽたぽたと顔を滑り落ちる水を首にかけたタオルで拭き取りながら慶次さんはにかっと笑う。その笑顔を見ると元気になるのはいつものことだ。慶次さんは、太陽みたいな人だと思う。
「あ、そういえば」
「ん?」
「なんで私、自分の部屋にいたんですか?」
リビングでは兄がいるから尋ねられなかったのだが、ここには慶次さんと私しかいない。ここぞとばかりに、先ほどから持っていた疑問をぶつけた。もしかしたら昨日のは夢だったのだろうか。だとしたら、ひどく恥かしい。そう思っていると、慶次さんがああ、と短く声をあげた。
「だって、一緒に寝てるとこあの兄貴に見つかっちゃやばいだろ?だからってことで、あの兄貴が起きる前に運んだんだよ」
「え、えええ、わ、私歩いて行きましたかね…?」
もちろん、そんな記憶はない。ないけれど、だとしたら、私は一体どうやって運ばれたのか。結局その答えは一つしかないのだけれど。
「もちろん、抱っこした運んだぜ?ちなみに運んだの俺!」
にか!とわらって告げられた言葉に恥ずかしさで死にそうになる。あああ、きっとこの重い身体は彼の腕にひどい負担をかけたに違いない。申し訳なさと恥ずかしさで死ねるなら今だ。
「す、すみません重たかったでしょう」
「なあにいってんだよ。逆に軽すぎだっつの」
その言葉とともに慶次さんの大きな手が私の両脇に差し込まれ、ぐいっと身体を持ち上げられる。
「わ、わわわ!?」
「ほら、羽みてえに軽い。ちゃんと食えよ。こんなに軽けりゃ、ひょいっと抱えてさらわれちまうぞ」
「な、そ、そんなことないですよ!」
「いーや」
所謂赤ちゃんの高い高いの格好で上下にしばらく揺さぶられた私は、軽く目を回しながらその言葉を必死で否定するも慶次さんはもっと食べろと言うばかりだ。
「楓をまつ姉ちゃんにあわせたら、そりゃもう山盛り御飯食べさせられるぜ」
「まつねえちゃんって」
「俺の姉ちゃん。ま、本当のじゃないけどな。でも、自慢の姉ちゃんなんだ。飯もうまいしな!」
「へえ。慶次さんのお姉さんなら素敵な人なんだろうな」
そういえば、間近にある慶次さんが目をぱちくりさせた。
「俺のならって、なんで?」
「え?だって、慶次さんだって素敵な人なのにその慶次さんが自慢するぐらいだから、やっぱり素敵な人なんだろうなって思ったんです」
そういえば、慶次さんはしばらく黙った後に、小さな声でかなわねえなあ、とぽつりとひとつだけつぶやいた。それから、いつもとは違うどこか柔らかな笑みを浮かべた。
「…うん。本当に楓にあわせてえなあ」
「はい、私も是非とも会いたいです」
そういって私たちは顔を見合わせると一緒にくすくすと笑った。
リビングの方からごはんができたと叫ぶ佐助さんの声が聞こえてから、やっと私の身体はまた地面へと戻された。



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