張りつめた空気がチリ、と肌を焼くけれど、そんなものに負けはしない。
私はこの人たちを守るのだ。



「…ちょっとまて」
その言葉に顔を上げて私は身体が固まった。そこには般若のような顔をした兄が立っていた。
「朝起きたらってということは、なんだ。お前のベッドにその男どもがいたと、そう言うわけか」
「あ、あわわ」
あまりの剣幕に返事もできずに私が固まっていると、それにとどめを刺したのは信玄さんだった。
「そりゃそうじゃろう。わしらもそうだったではないか。お主の布団に起きたら潜り込んでおったからの」
その言葉に、信長さんもこっくりと頷いている。
あぁ、事実だって言うのはわかります。けどこの状況で言うのはいかがなものですかね!
かかと笑う信玄さんの顔を見て、わざとだ!絶対わざと楽しんでいってる!と心の中で叫びながら兄の顔を再び見れば、遂に般若を超えた。そこには鬼がいた。
「嫁入り前の、楓の、布団にもぐりこむとは何事かああああああ!!!」
「わああああ!お兄ちゃんストップ!」
「止めるな楓!」
殴りかかろうとした兄の腰にタックルしてその動きを止める。いま離せば間違いなくみんな殴られるに違いない。というか、みんなたぶん普通だったらよけられるのに、私のこと考えてよけなさそうな気がする。
それは、いけない。
だって私は、守るといったのだから。この人たちを守ると、決めたのだから。
「皆の話も聞かずに殴ろうとするお兄ちゃんなんて嫌い!」
そう叫んだ瞬間に、暴れていた兄の動きがぴたりと止まった。
そのまま顔をあげて私を驚いたように見下ろす兄の顔をばっと見上げた。
「お兄ちゃんだって、みんなが好きでこっちに来たんじゃないって、信玄さんたちから聞いて知ってるでしょう?みんなだってねらって私の寝床に入り込んだわけじゃないの!」
「…楓」
「確かにお兄ちゃんにみんながいることだまってた私も悪かったの。それはごめんなさい。でも、私はみんなにすごくすごく大切にしてもらったの。今回だってお兄ちゃんが来ている時だけ何処かに泊まってればこれからも内緒にできたのに、きちんと挨拶しようっていってくれたの!」
「う、」
「お兄ちゃんに嘘つくのはだめだって、ちゃんと説明しようっていってくれたのに!」
「うう、」
言葉を重ねるたびに兄がしょんぼりした顔になっていく。
「お兄ちゃんがみんなをいじめるなら、私はみんなを守るんだから!」
ふん、と胸を張ってそう言い放つと同時に、げらげらと信玄さんの大きな笑い声が響いた。
「よくいった!幸村!佐助!楓はなかなかにいいおなごじゃのう」
「そ、そうでございましょうお館様!」
「…つか、この兄妹喧嘩起こした原因、そういってる大将なんですけどね」
やれやれとため息をつく佐助さんは、静かに私の名前を呼んだ。
振り向けば、にっこりとみんながどこか照れたように、笑っていた。
「ありがとうな」
「こ、じゅうろうさ」
ぽん、と背中を叩かれてどこか気が抜けたようにへたり込む私の横でみんながしゃんと背中を伸ばした。
「お初にお目にかかります。和彦殿」
「…」
声を出したのは、小十郎さんだった。驚いてまわりを見れば皆一様に背筋を伸ばし兄を見つめていた。
「片倉小十郎と申します」
「伊達政宗」
「猿飛佐助」
「真田幸村」
「前田慶次」
「長曾我部元親、そしてこいつは風魔小太郎」
順々に名前を名乗ると皆、そろった動作で手を床につき深々と頭を下げた。
「な、み、みんな」
「俺達はこの世界に来て何もわからないところを、楓に助けてもらった」
私が声を上げるのを遮って深々と頭を下げたまま小十郎さんは続ける。
「きっと助けてもらわなければ、俺達はこの世界で死ぬか捕まるかしていただろう。楓は、こいつは俺達の命の恩人だ」
その言葉に私は息をつまらせた。違う、と言いたかった。命の恩人なんかじゃない。
みんなにとって私はそんな大それたものじゃない。
「だから、俺達はここにいる限り楓を守る。大切にする。アンタが心配するのもわかる。確かに俺たちみたいな男と大事な妹が住んでいたら心配だろう。だから、誓う。俺達は楓が泣くような真似は絶対にしない」
そこではじめて小十郎さんは顔をあげてしっかと兄の顔を見た。ほかのみんなも一緒だった。真剣な顔で兄を見上げていた。
「だからアンタに、勝手な、本当に身勝手な願いだが、頼む」
兄の顔も真剣そのものだった。一言も聞きもらすまいとするかのように、また、その言葉の裏になにか潜んではいないかと、探るように小十郎さんを、みんなを見つめていた。
「俺達と楓を、引き離さないでくれ」
その言葉は静かな部屋に響き渡り、そして私の眼から何故だか涙がぽたりと落ちた。
その言葉ひとつがどうしてこんなにも、優しくてそして苦しいのだろうか。



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