不意打ちは卑怯だと、きっとみんな心の中で叫んでいるに違いない。



きっちりとみんなが正座しているこの光景は私がはじめて4人にあった日の光景を酷似している。
けれど、私も一緒に正座しているということと、昔私が立っていた位置に兄が腕組みをして私たちを見下ろしているという点が大きく違う。というか笑顔な分怖い。なんで笑顔なんだろうほんと!
あれからが嵐のようだった。にっこりと笑った兄は手を差し伸べて佐助さんの腕の中から私をひっぱりあげて、ずかずかと家の中に上がり込んだ。(目をやって驚いたのが本当に殴られて飛んでいったのだろう幸村が壁に突っ込んで壁が破壊されていたことだ)その後ろから大将と呼ばれた男の人と、兄のガラガラ(いまだに正式名称がわからないあの車輪のついたごろごろするかばんのことだ)を手に持ってもう一人の男の人が上がってきた。
おのずと、向う先はリビングであり、そこで「まずは座りなさい」と兄に言われてしゅばっとみんなで一列に正座して今に至る、わけだ。
ちなみに、壁に突っ込んだままぐらぐらしてた幸村は佐助さんが引っ張り出していた。
そこまで考えたところで、兄のため息が頭の上から聞こえた。
「…まさか楓のところにもきてるとは思わなかったんだ」
その言葉に顔をあげると兄はもう一度ため息をついたところだった。兄の後ろでくつくつ、と大将と呼ばれた人が笑った。それを兄がじろりと横目で睨みつけた。
「笑い事じゃない、信玄さん!」
「はっはっ、何を今さら騒いでおる」
くつくつと笑いの発作が治まらないらしいその人は、バンバンと隣にいるもうひとりの男の人の肩を叩いた。それにその人は軽く顔をしかめると、フン、と鼻を鳴らした。
「フン、その通りだな。うぬの元にも我と虎が来ておるのだ。妹のところにきていても不思議ではあるまい」
「何を、ってあんたたちなあ、7人だぞ、7人!しかも男が年頃の妹の家に7人も!」
「そうじゃの、さすがのわしもまさか7人もおるとは思わなんだ」
喧々囂々と続く三人のやり取りに、私はぼーっと見入っていたけれど、他のみんなは違うようだった。
ぽつりと横にいる佐助さんたちがつぶやいた。
「大将ならわかるけどさあ、魔王にまであの言い方って…」
「すげえ…」
「さ、さすがは楓殿の兄上でござる」
「ま、まおう?」
「あぁ、あっちは今じゃ名前知られてないのかな?」
そう言って佐助さんが私の方を向いた瞬間だった。カーンと飛んできたテレビのリモコンが佐助さんの側等部に命中した。
「俺の許可なく、妹に近づくな」
「ええええ俺様さっきからこの距離に座ってたんですけど!」
「あ?」
「すみませんでした」
抵抗するも空しく、兄の眼光の前に佐助さんは散ってしまった。
どうしようとうつむいて考えているといきなり目の前にまた真っ赤な髪の毛があってびくりと顔をあげた。そこにいたのは、大将と呼ばれたその人。
「和彦、わしらはまだ楓に自己紹介しておらなんだ」
「ああ、そうだったな。だが着やすく触るな」
ぺチンと私の頭に触れていた手をはたき落して兄はその人を指さした。
「名前は知っているだろう。このおっさんが武田信玄で、あっちが織田信長だ」
「…わあ」
うちの家に来た中で有名なのといえば政宗と幸村と慶次さんぐらいだったから。あんまりにも有名な二人の名前に私はそんな間抜けな答えしか返すことはできなかった。
そこではじめて私はふと先程の会話を思い出した。
「そう言えば、お兄ちゃんのところにも、ええと」
何と呼ぼうかと悩んでいると信玄さんがにっこりと笑った。
「信玄、でよい」
「あ、ありがとうございます」
その笑みに少しだけ安心しながらもう一度兄の方を向いた。
「お兄ちゃんも朝起きたら信玄さんたちがいたの?」
「…そう聞くってことは、やっぱりお前もか」
「うん。朝起きたらええとまず、いつのまにか佐助さんと幸村と政宗と小十郎さんがいたの」
「…」
「で、その後に朝起きたらまたいつのまにか慶次さんと元親さんと小太郎が来たんだよ」
「…ちょっとまて」
「ん?」
説明することに一生懸命だった私は、その時ある致命的なミスを犯していたことに気がつかなかった。
兄の逆鱗に触れるような、小さくて大きなミスを。



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