一癖も二癖もあるひとたち。
あぁ、けれどどうにもみんな優しくて甘過ぎる。



私の提案に一番最初に頷いたのは慶次さんだった。パァン!と力強く膝を叩くと零れ落ちそうな満面の笑みを浮かべてその手を私に差し出した。
「そンなら、よろしく!楓!あ、楓って呼んでもよかった?」
呼んだ後にそういって心配そうな顔をした慶次さんの顔を見て思わず笑みが漏れた。
「ええ、構いません。じゃあ、私も慶次さんって呼ばせてもらいますね」
「キキッ!」
「あぁ、夢吉もよろしくね」
忘れるないでとでもいうように夢吉は小さく鳴くと、慶次さんと繋いでいる手を渡って私の肩に乗り移った。その小さな手に人差し指を差し出せば小さな両手でぎゅうと先っぽを握る握手をした。
次に動いたのは小太郎さんだった。なにも言わずに私の前まで移動すると静かにその場にしゃがんだ。そして私の右手に頭を押し付けて来た。
「え、え、な、なんです」
「…風魔、楓ちゃんと契約するっての?」
佐助さんが険しい顔でそういえば小太郎さんはそちらをちらりとみてコクリと頷いた。
「契約って」
「風魔は傭兵だからね。契約によって主人を決めるんだよ」
「契約って…私その、お金は一応ありますけどお給料とかあげるんですかね」
そう尋ねれば今度はふるふると首が左右に振られた。そして再度右手に押し付けられる頭。ふわふわした髪の毛が気持ちいい。
「頭、撫でるだけでいいんですか…?」
まさかと思いながらそろそろとそう尋ねればこっくりと深く頷かれた。後ろで佐助さんがはあ?!と裏返った声をあげた。
「ちょ、な、なにそれ俺様風魔がそんな報酬で契約結ぶとか聞いたことないよ?!」
「…つくづく、楓はヘンなもんに好かれるな」
ごろごろと猫のように右手に擦り寄ってくる小太郎さんを見下ろして、私は途方にくれる。なんでそんなに自分が気に入られたのかとんと検討がつかないけれど、誰かを従えるなんていうのは嫌だった。
小太郎さんと同じ目線までしゃがみ込んで長い前髪の奥にある目を見つめた。
「あのですね、気に入ってもらえたのはうれしいんですけど私は契約で結ばれた関係なんて嫌なんです」
なんで、というように首を傾げる小太郎さんに言葉を重ねた。
「だって、こんなことぐらい、報酬だからとかそんな理由なくてもいってくれればしますよ」
役得ですし!と笑いながらまた柔らかな髪に指を差し込む。そして頭を撫でる。
「だから、お友達になりましょう?契約なんて嫌ですから!…いいですか?」
確認するようにいえば、小太郎さんはしばし逡巡するように顔を反らしてからそれからゆっくりと頷いた。
「じゃあ、これからよろしくおねがいします。小太郎さん」
そういえばいきなり首を左右に振られた。
「え、え!よろしくしてくれないんですか?!」
「……」
そういえば、また首が左右に振られた。
「ええと、小太郎さん?」
「……」
また首を振られる。えーと、もしかしてこれは、あれかな、いやまさかと思いながら私はゆっくりと口を開いた。
「よろしくね、"小太郎"…?」
「!」
呼び捨てにした瞬間。ばっと顔をあげるとコクンと頷いた小太郎は確かに一瞬だけ無表情ではなく、うれしそうに口元を緩めたように見えた。
で、最後に残ったのは小十郎さんにネギではたかれ幸村と政宗に殴られ蹴られた元親さんだ。さすがにボロボロにみえる。
「えーと、元親さん、は」
「……世話ンなる」
ぽつりとつぶやかれた言葉にほっとして笑えば、元親さんの目が丸くなった。
「お前、楓だっけか」
「うえ、あ、はい」
確認するように言われて返事をすればぽん、と大きな手が私の頭にのってわしゃわしゃと先ほど自分が小太郎にしたように乱暴に掻き回された。
「わ、わわわ!」
「いい奴だな」
にか、と笑う元親さんの笑顔は暖かくて思わずお兄ちゃんを思い出した。されるがままに撫でられているといきなりネギ再来。
「…黙ってみてりゃ、いつまで触ってんだ」
「だ、だからそれやめろって!」
「こ、小十郎さんとりあえず朝ごはんにしましょう!人数増えたから増やさなきゃ!ほら服とか買いに行かないといけないし!」

慌ててそういえば今だに青筋を額に浮かべている小十郎さんをぐいぐいと押した。その後ろからがしっと頭を掴まれていきなりぐしゃぐしゃと髪を無茶苦茶に掻き回された。
「ひゃあああああ!な、なに!」
「Ah、消毒だ。消毒!好き勝手触られやがって!」
「そうでござる楓殿!は、破廉恥でござる!」
「幸村の破廉恥の基準がわかんないよ!」
消毒と称して私の頭をぐしゃぐしゃにする幸村と政宗の手からのがれようとしていたときに急に右手を佐助さんに掴まれた。

「アハー。じゃあこっちは俺様がしてあげる」
「え」
そういって右掌に押し付けられたのは佐助さんの唇。
呆然と動きを止めた私たちに佐助さんはそりゃあもう綺麗な笑顔をみせた。
「消毒完了ってね!」
「な、なななななな」
「このクソ猿!Honeyになにしやがる!」
「ささささすけええええ!!!」
「テメェなにしてやがる!」
そこからはじまった追いかけっこのせいでまた朝食は遅れるわけだった。
「楓、お前大変だなァ」
「愛されてるねぇ」
壮大な追いかけっこを見ながら慶次さんと元親さんにかけられた言葉に私は困ったように笑うことしか出来なかった。



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