組織のお兄さんは外



節分関係ない節分小説
トリプルフェイス分裂話です。

・日本国が絡まない緊急時にわりとシャキッとしない降谷
・悪の組織という字面から不憫な扱いを受けがちなバーボン
・なんだかんだで無条件に信用されてる安室透(チート)
・夢主

の4名でお送りします。


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「節分とは……平安時代の初期から行われている鬼払いの儀式、追儺が元になっていると言われています。地域差はありますが一般的には「鬼は外、福は内」の声とともに豆を撒いて、年の数だけ豆を食べる風習です」
「はい、分かりました……でも私がして欲しいのは節分の説明じゃなくて、どうしてこうなってるかなんですけど……」

私の言葉に、丁寧に説明してくれた安室さんは誤魔化すようににこりと笑った。安室さんから「大事な話がある」と電話をもらった私は、仕事帰りに彼の自宅に寄ることになったのだが……玄関を開けたら、それはもう大変なことになっていたのだ。
目の前のテーブルに置かれた、安室さんが淹れてくれたコーヒーにはまだ手をつけていない。というかそれどころじゃない。いつもは感じないのに、今日は部屋がえらく狭いような気がする。冷めないうちに、と穏やかな笑顔のイケメンに言われて、湯気のたつ液体が注がれたカップを持ち上げた。深煎りの独特な芳香が漂う。お店で飲むようなコーヒーがこうして飲めるのは大変嬉しいことだ。嬉しいことなのだが……口をつける寸前で、私は再びカップをソーサーにカチャリと戻した。

「…………あの、落ち着かないのであんまり見ないでもらっていいですか?」

ダイニングテーブルに座る私の横に、コーヒーを淹れてくれた安室さんの姿がある。彼は前から私が食べたり飲んだりするところを見るのが好きらしく、特に安室さん自身が作った料理をポアロで食べている時なんかは洗い物の最中でも隙あらば見てくる。それは慣れているのでまあいい。問題はここからだ。
私の目の前に、グレーのスーツを着て黒いネクタイを締めた降谷さんが座っている。頬杖をついて、私がコーヒーを飲もうとしているところをじっと眺めている。彼はレストランなんかでも、自分が食べることを忘れてずっと私が食べるところを眺めていることがあった。見惚れているとかそういうことではないらしい。私が何かを食べたり飲んだりするのが好きなんだとか。
そしてテーブルから少し離れた壁際には、白いシャツに黒いジレ、手袋まで装備した完全武装の組織の人が凭れ掛かってこちらを凝視していた。私はあまりこの人の前で物を食べないようにしているので、単純に珍しいのだろう。
そう、ひとりなら問題はないのだ。問題ないというか、見てくるのは想定内なのでいつも通りだ。なぜ……三人いる……?

実は私がトリプルフェイスだと思っていたのは勘違いで、最初から三人いたとか?でもこんな顔が同じイケメンが三人もいるなんてどう考えてもおかしい……私は混乱のあまり私を見つめる降谷さんをひたすら見つめ返していた。互いに真顔である。ややして、このまま黙っていても埒があかないと考えたのか、安室さんが私の横から口を開く。

「……昼頃に商店街を通ったら、子供達に豆をぶつけられたんです。僕が……というより、降谷零が」
「……豆?」
「それで家に戻って仮眠をとって起きたら……」
「三人になっていました」

向かいの降谷さん、壁際の組織のお兄さんがそう続ける。だから冒頭で節分の説明をしたらしい。でも、なんで?
三人もそれは同じだったらしく、目が覚めてから「でも、なんで?」を二時間ほど議論したがどうにもならなかった。とはいえ仕事そのものに支障が出るわけではない。むしろ三人になったのだからそれぞれがその活動に専念できるというもの。ここで問題になることがいくつかある。私も関係してくることなので、仕事終わりの時間を見計らって呼び出した、ということだった。

「まず困るのは足ですね。車は一台しかありませんし、ポアロも本庁もここからは離れています」
「僕も組織の活動に徒歩や電車移動というのは、ちょっと……」
「三人乗り合いでいいんじゃないか?」

「あの車に男三人は辛いでしょう……あと、前から見た時にかなり怖いですよね。同じ顔の男が真顔で三人乗ってたら」
「それは……三つ子だということにすれば問題ないはずだ」
「本体のくせにわりと頭悪いんですね」

私を置いて同じ顔の男三人の議論が再び始まったので、ようやくコーヒーに口をつける。ひとくち啜ると、苦みを感じる香ばしい味わいのそれはちょうど飲みやすい温度になっていた。確かに車がないのはつらい。降谷さんなら公用車でもタクシーでも使えるとは思うけど、安室さんと組織のお兄さんはそうもいかないだろうし。

「もっと重大な問題があるじゃないですか……家どうするんです?」
「そうですね……ベッドはひとつしかないし、さすがにこの図体の男三人が一緒に住むのはきついものがあります」
「自分の顔を四六時中見るなんて、精神に異常をきたしそうだ……今もひょっとしたら俺は長い潜入捜査でおかしくなって公園のベンチで夢を見ているんじゃないかと、」
「しっかりしてください」

この家は狭くはないがあくまで一人暮らしとして十分な広さがあるといった程度だ。三人は無理だろう。それに降谷さんが言うように、同じ顔の人間と住んでいたら頭がおかしくなりそう。大変だな……とカップを持ちながら三人を観察していたら、悲愴感すら漂わせた彼らが一斉にこちらに顔を向けた。





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