第十七章
ピノッキオは砂糖は食うが薬を飲みたがらんので、墓掘り男たちがやって来て彼を持って行くと即座に服薬した。で、嘘を言った罰で鼻が成長する
ようやく三人の医者が部屋から出て行ったので、妖精さまはピノッキオのそばに行き、
「お飲みなさい、そうすれば
ピノッキオはコップを見てほんの少し口を歪めてから、ぐずり声と共にたずねました。
「それ甘い?苦い?」
「苦いわよ、でも良くなるから」
「苦いんなら、いらない」
「私の言うことをお聞き、飲みなさい」
「苦いのは、ぼく好きじゃない」
「お飲みなさい、ひとくち飲んだらお口直しに
「
「ほらここに」妖精さまがそう言って、黄金色の
「まず
「約束する?」
「
妖精さまはひとかけらをピノッキオにあげますと、刹那、
「砂糖もまた薬であったら
「今は約束を守るとき。この水のしずくをひとくち飲み、健康を取り戻しなさい」
ピノッキオはいやいやながら手にコップを持ち、鼻の先を中へ打ち込んでから、口を近づけ、それから鼻の先をさらに押し込み、終わりにこう言いました。
「ずいぶん苦いぞ!ずいぶん苦い!ぼくが飲めるわけがない」
「味わってもいないのに、どうしてそう言えましょうか?」
「
なので、妖精さまは良い母としての忍耐を総動員させ、
「このままでは飲めませぬ!」
「なぜ?」
「なぜかというと、足下のまくらがちょっと邪魔で」
妖精さまは まくらをどかしました。
「ア、無駄でした!やはりこのままでは飲めるわけがない……」
「他の何が邪魔なの?」
「あそこの、半開きの部屋のドアがうっとうしい」
妖精さまは部屋のドアを閉めに行きました。
「やれやれ」とピノッキオは叫び、突発的に
「このお水ちゃんは苦い、飲みたくない……イヤ、イヤ、イヤッ……!!」
「私のぼうや、後悔するでしょう……」
「ぼくにとってはどうでもいいこと……」
「あなたの症状は重いのよ……」
「ぼくにとってはどうでもいいこと……」
「発熱というのは、数時間後にあなたを別の世界へ連れて行くの……」
「ぼくにとってはどうでもいいこと……」
「死が恐くないのね?」
「
そのとき、部屋のドアが開け広げられ、それから中へ
「ぼくに何をしたいの?!」ピノッキオは起き上がりながら全力
「お迎えにあがりました」
少し大きいウサギが言いました。
「ぼくを連れて行くの……?でもぼく、まだ再死していないよ!」
「まだですが。どうせあなたはもって数分の命、薬を飲むのを拒みましたからな、それはあなたの発熱を治したでしょうに」
「おお、ぼくの妖精さま、おお、ぼくの妖精さま」
さあ人形は悲鳴をあげ、わめき立て始めました。
「コップをぼくに……ください……神のご慈悲を……とっとと済ませましょう……なぜなら死にたくない……死にたくない……ので……」
それからコップを両手ですべて包んで持つと、彼はひと呼吸を捧げました。
「忍耐かぁ〜〜!!」とウサギたちが言いました。
「こたびの我らはタダで
それから新品の小さい
それは数分ほどかかり、ピノッキオはベッドから飛び降りて、美しく
それから妖精さまは、
「さあ私の薬で、あなたは本当に善くなったでしょう?」
「善くなったことしかない!この世に帰れたよ……!」
「どうしてあんなに飲ませてくれって頼み込んできたのかしら」
「ぼくら子供はみんなそうするよ!ぼくらは邪悪や災難よりも薬のほうが、こわいの!」
「なんたる恥!!良い薬を適切なときに飲めば重い病気から、さらには死からさえも救うことが出来ると子供らは知るべきです……」
「おー! けど今度はあまりお祈りしないで済むようにするよ!あの
「では今度はここに来て、どうしてあなたが暗殺者の手中に
「まず
「じゃあ今は四枚の金貨はどこにあるのかしら?」
と妖精さまが聞きました。
「なくした!」
とピノッキオは答えましたが、嘘なのだ、だって本当はポケットにしまってあるんですから。
嘘をついたが早いか、彼の鼻は長くなり、すぐに指より長く成長しました。
「どこでなくしたの?」
「近くの森でなくした」
この二つめの嘘は彼の鼻を成長させ続けることになりました。
「もし、この近くの森で なくしたのだったら」
妖精さまが言います。
「私たちが探したらば見つかるでしょうね、だってこの近くの森でなくしたものは、いつも必ず全て再び見つかるんですわ」
「アッアッ!よく思い出しました」もつれ混乱しだした人形が答えました。
「四枚の金貨はあなたたちの薬を飲んだときに飲み込んじゃった」
この三つめの嘘は、彼の鼻をとくべつ異常に長く伸ばすことになりましたから、哀れなピノッキオはもうどこを向くことも出来なくなりました。
もしこちらに向けたならば、鼻がベッドか窓ガラスを叩いただろうし、もしむこうを向いたならば、部屋の入り口近くの壁を叩いただろうし、もう少しだけ頭を上げたならば、妖精さまの目に鼻を打ち込む危険があったでしょう。
妖精さまは人形を見て笑いました。
「どして笑う?」人形がたずねました、
「あなたが嘘を言ったから笑うのよ」
「どうして嘘だと知ってる?」
「嘘はね、私のぼうや、私はすぐに見分けられるの、なぜならあなたたちは二種類に分けられるからね、嘘によって足が短くなるタイプのものと、嘘によって鼻が長くなるタイプのもの……あなたは明らかに鼻が長くなる方のそれね」
ピノッキオはこの恥をどこに隠せばいいか、ちっとも分かりませんでしたから、部屋からの脱出を試みるも失敗しました。
というのも、彼の鼻はたいそう成長し、もはやドアを通り抜けられないほどだったからね。
◆出典元
『ピノッキオの冒険』 AVVENTURE DI PINOCCHIO
作 カルロ・コッローディ Carlo Collodi
出版社 Felice Paggi Libraio-Editore 出版年 1883年