第十三章
酒場『赤えび亭』にて
歩いて、歩いて、歩いて……夕暮れちかくになってついに彼ら三体は死者のように疲れ果てつつ、酒場『赤えび亭』につきました。
「止まれ、ここで少し」
ときつねが言いました。
「ひとくちぶんだけ食べて、数時間お休憩するのです。真夜中にふたたび出発すれば明日の夜明けには
酒場に入り、三頭はテーブルにつきました、が、食欲がわいてきたものは誰ひとりもいませんでした。
かわいそうなねこときたら、おなかがひどく不機嫌になっていると感じたため、ヒメジ魚のトマトソースがけを三十五匹と
きつねは以下の状態でなければ、よろこんで何かつまんだでしょうね、しかし彼女の主治医がとても規則正しく膨大な
みんなの中でいちばん食べなかったのはピノッキオでした。彼はクルミを
彼らの食事が終わると、きつねは酒場の主人に言いました。
「良い部屋を二つ用意しておくれ、ひとつはピノッキオ氏に、もうひとつは私と連れのために。出発前に仮眠いたしましょう。けれど覚えておいてくださいね、真夜中には私たちの旅をつづけるために叩き起こされる、っていうのをね」
「かしこまりました」と、酒場の主人が返事をし、『手のうちは完全に理解していますよ』とでも言いたげに、きつねとねこに視線をおくりました。
ピノッキオはベッドに入るとすぐに眠りに落ち、ぐっすり眠りながら夢が始まりました。夢の中で彼は野原の真ん中にいるようでした、この野原は実の
真夜中を告げにきたのは宿屋の主人でした。
「ぼくの仲間は準備できてるかな?」
と人形がたずねました。
「準備万端どころか!彼らは二時間も前に出発しましたよ」
「どして……そんな忙しいので?」
「どうしてなら、ねこさんの一番うえのご長男ちゃんが、足にヒエヒエのしもやけを負ってしまって、生命の危機に
「あの子たち、夕食代はらったかな?」
「どう思う?あの方々はとても礼儀正しく育ってきているから、われわれの殿方を
「罪深い〜!!その
ピノッキオはそう言うと頭をかきむしりました。それからこうたずねました。
「ぼくの素晴らしい仲間たちはどこで待ってくれていると言ったの?」
「奇蹟の野原で、明日の朝、夜明けとともに」
ピノッキオは自分のぶんと仲間のぶんの夕食代を金貨一枚で支払ってから、その場を立ち去りました。
でも酒場宿屋の外は真っ暗闇で、ここがそこなのかどうかも見えませんから、手さぐりでその場を立ち去ったと言っても良いでしょうね。近くの
「誰ぞそこにおる?」
すると声は周囲の
そうこうして歩いていくと、木の幹のところに小さな動物がいて、それはほのかに青白く淡い光で血の気なくくすみながら輝いて、まるで透明なコヤスガイの
「きみは誰?」とピノッキオがたずねます。
「私はべらべらコオロギの亡霊」
小さな動物は、ここではないあちらの世界から聞こえてくるような かすかな、かすかな声で、答えました。
「どうしろってんだ」
人形は言いました。
「きみにひとつ助言を与えたい。来た道をもどって、残っている四枚の金貨を持って、きみのかわいそうなお父さんのところへ向かうが良い、彼はもうきみに会うこともこれっぽちも見ることも出来ないと絶望して泣いているのだよ」
「明日にはぼくのお父さんは偉大な
「ぼうや、一夜で大金持ちになれるという約束をする
「でも、前に進みたいよお〜」
「もう時間も遅いのだから……!」
「前に進みたいよお〜」
「夜も更けてまいりました……」
「前に進みたいよお〜」
「道も悪いでしょうし……」
「前に進みたいよお〜」
「クソガキは自分の気まぐれで自分のやりたいことをやりがたり、それによって悔い改める生き物だということを覚えておくがいい」
「いつもの作り話やんけ。ほなの、コオロギ」
「おやすみ、ピノッキオ。天がきみを、
この最後の言葉を言い終わるやいなや、べらべらコオロギは、息を吹きかけられ消えてゆく ろうそくの灯りのように姿を消し、あたりの通りは前よりもずっと暗くなりました。
◆出典元
『ピノッキオの冒険』 AVVENTURE DI PINOCCHIO
作 カルロ・コッローディ Carlo Collodi
出版社 Felice Paggi Libraio-Editore 出版年 1883年