優しさを隠して


優しさのかけらを集めての続編になります。




蛍くんは優しい。
でもそれは、きっと私しか知らない。




来週からテストが始まるのもあり、今日は教室がやけに騒がしい。
運動部の朝練がないせいか生徒が多く、テスト対策でノートを写しあう姿がちらほらと目に入る。
私もいつものように蛍くんに宿題を教えて貰い、席に戻った。
それを見計らったように近くにいた友達が話しかけてきた。

「倖乃ちゃん、よく月島くんと話せるよね。」
「え?どうして?」
「だって月島くん、クールっていうかドライっていうか…冷たくない?
 なんかそういうとこ、ちょっと怖くて。」
「あー、私は蛍くんと幼馴染だから…怖いとかはないかなぁ。」
「倖乃ちゃんって意外とメンタル強いんだ?」
「そんなことはないと思うんだけど…そうなのかな?」

友達は月島くんをちらりと見ると、小さくつぶやいた。

「見てる分にはイケメンだし目の保養だけど…見てるだけで充分って感じ。」

”イケメン”と言われてビクっと反応してしまう。
やっぱり、そうだよね。
小さい時はお人形さんみたいだった蛍くんは、身長も高くなりどんどん男の子になっていく。
カッコよくなったなぁ。
そう思っているのが私だけじゃないことにショックを受けつつも、私はその言葉を聞こえなかったことにした。






テスト期間は朝練も部活もないけれど、蛍くんと一緒に過ごすことは殆どない。
たまに、本当にごく稀に家の近くで会ったりすることはあったけど。
それが私たちの距離感だと諦めていた。
嫌われたくない、もう拒絶されるのはこりごりだ。
テスト最終日、今回のテストでは会えなかったなと思いながら家をでると、蛍くんのお母さんと目が合った。
私はにこりと笑って挨拶をする。

「おはようございます。」
「倖乃ちゃん!おはよう。
 朝から悪いんだけど、ちょっと頼まれてもらえないかしら。」

そう言って差し出されたのは、お弁当箱だった。
テストが終わった後部活のミーティングがあるのに、蛍くんが忘れていったらしい。
私は快諾しそれを受け取った。
おばさんはしきりにお礼を言って私を見送ってくれる。
ごめんなさい、下心ですなんて言えなくて。
私は気まずさから足早に学校に向かった。






今日のテストは厳しい先生の教科がそろっているとあって、一段と教室が騒がしかった。
蛍くんを探して教室を見渡すと、どうやら来客中らしい。
オレンジの髪が目に入り、それが日向くんだと言うことはすぐにわかった。
日向くんがノートを握りしめて騒いでいる辺り、きっとテストの話をしているんだろう。
邪魔しても悪いし、お弁当はあとでいいか。
私は深く考えずに自分の机へ戻った。






全てのテストが終わり、帰り支度をしていると友達から話しかけられた。
物憂げな表情から、テストの話だと察する。

「今回のぜんっぜん解けなかったんだけどっ!倖乃ちゃんはどうだった?」
「私は…普通かなぁ。昨日復習したところがたまたま出てね。」
「えー!?倖乃ちゃんいつもそう言ってない?」
「そんなことないよ。ホント今日はたまたま。」

笑ってそう誤魔化してみたけれど、本当はきっと違う。
蛍くんが要点をしっかり押さえて教えてくれるから、私は彼に聞くたびに復習出来ているんだ。
そしてノートを開くたびに、蛍くんのことを思い出すから。
それが私の勉強法だなんて絶対に言えないけど。

「でもいつも、学年上位でしょ?
 頭の構造からして違うんだろうなぁ。」
「そんなことないって。普段何にも考えてないし…。」
「何も考えてない人は小テストで100点取れないんだよ…?」

がっくりと肩を落とした友達を慰めつつ、私は教室を見渡して慌てた。
蛍くんにお弁当をまだ渡せてないのに、彼は教室のどこにもいない。
山口くんも見当たらず、もうミーティングに行ってしまったんだろう。
私は友達と別れて、慌てて教室を出た。





バレー部のミーティングって、どこでやってるんだろう。
部室?体育館?それとも空き教室?
武田先生も探してみたけれど見つからない。
うろうろと彷徨っていると、遠くにオレンジの頭を見つけた。
あれは、日向くんだ!
私は彼を追うように、体育館へ向かった。
扉の端からそっと覗いて見ると、バレーボールを手に楽しそうに笑う日向くんが見える。
今日ってミーティングだけじゃなかったのかな。
体育館を見渡しながらそんなことを考える。
自主練、ってやつだろうか。
それなら蛍くんはここに居ないかもしれない。
どうしようかなと思っていると、山口くんと目が合った。
あ、バレた。
慌てている私をよそに、山口くんが駆け寄ってきてくれた。
何だか少し申し訳ない気持ちになる。

「藤丘さん、どうしたの?」
「あ、忙しいのにごめんね。蛍くんいるかな?」
「ツッキー?ツッキーならさっきジュース買いに行って…あ。」

山口くんが言いかけて、口を噤む。
その視線は私の背後に向けられていて、振り向くと蛍くんが怖い顔をして立っていた。

「…何してるの。」
「あ、えっと…お弁当を届けに…。」

控えめに差し出したお弁当を見て、蛍くんは目を丸くした。
私が持っていると思わなかったんだろう。
手で口元を覆うと、私から視線を外した。

「…ありがと。」
「あ、ううん!渡すの遅くなってごめんね。みんなの邪魔もしちゃったし…」

ちらりと山口くんを見ると、ひらひらと手を振って体育館へ戻って行くところだった。
私も軽く手を振り、蛍くんに向き直る。

「ほんとごめんね。」
「別に。まだ練習始まってないし。」
「そっか、それなら良かった。」
「……あのさ。」
「うん?」
「テスト返却終わったら、話あるんだけど。」
「全部終わってから?」
「そう。」

思いがけない申し出に混乱する。
蛍くんから話を振ってくれることなんて滅多になくて、不安と期待に天秤が揺れる。
それでも断るなんて選択肢は持ち合わせていない。
少しでも一緒に過ごせるチャンスだもん。

「わかった。でも蛍くん部活だよね?」
「別に、学校じゃなくてもいいでしょ。」

”また連絡するから”そう零した蛍くんにお弁当を手渡すと、彼の手から何かが落ちた。
カチャン、と乾いた音がした足元を見れば、何かのケースのようだ。
屈もうとした彼を制止して、私の方が近いからとそれを手に取る。
思ったよりも軽いそれを手渡すと、蛍くんはケースを開けて中を確認した。

「ありがと。」
「ううん。中身大丈夫?」

蛍くんの手元を覗き込もうとした時、彼が中身を手に取る。
徐に眼鏡を外すと、久々に見た素顔に心がきゅっとなる。
白い肌に整った顔立ちが、日に当たってキラキラ光って見えた。
やっぱり、蛍くんかっこいいなぁ。
そんな時間はあっという間で、ケースに入っていた眼鏡が着けられた。
それはいつもと違う形をしていて、新鮮でつい声が漏れてしまった。

「それかっこいいねぇ。」

慌てて口を塞いでみたが、もう遅い。
蛍くんの耳には届いてしまったのだろう、少し頬を染めた彼が嫌そうに私を見ている。

「…そういうことよく平気で言えるよね。」
「いや、これは違くてっ…。」

漏れてしまった非は認めるが、常日頃から思っていることなので否定しようもない。
違わないからこそ、言い訳なんて出てくるはずもなく、狼狽える私に彼はため息をついた。

「それじゃ、僕部活だから。
 倖乃も早く帰ったら?」

いつもの言葉に、少し胸が痛む。
嫌われちゃったかな…怒らせたかな…。
不安で顔を上げることが出来ない。
彼の目を見るのが今は少し怖い。

「うん、じゃぁ…また明日ね。」

蛍くんの返事を待たず、私は玄関に向かった。
どうか蛍くんが、今日のことを気にしていませんように。
明日も今までと同じような日が過ごせますように。






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