千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

助けても縮まらない距離



「おねーさん、俺チョコパフェ」
「おねーさん、俺ハンバーグ」
「オレはァ、」


俺の目の前にはマイキーくんとドラケンくん、そして俺の横には場地さんが座るテーブル席。3人はそれぞれメニューを見ながら自分たちの食べたいものをオーダーする。俺は通路側に座っているため、3人のオーダーを耳にしながら、どうしようかと自問自答を繰り返す。



「千冬、オマエはどうすんだぁ?」
「あ、えっと、じゃあ俺もハンバーグで」


場地さんに声をかけられて、俺は何も決めていなかったことに気づき、開いていたメニューのページで目についたものをそのまま頼んだ。だから、これが食べたいわけではないけれど、まあ良いか。



「はい、かしこまりました。…マイキー、他のお客さんに迷惑かけないでね」
「えーなんで俺だけ?」



オーダーを受けた店員さん、である名前さんはオーダーを受けるための機械をパタンと閉じて、お決まりのセリフを言った後、斜め前に座ってるマイキーくんに向かって営業スマイルを浮かべながら告げる。マイキーくんはダルそうに抗議すれば、名前さんは考える素振りを少しだけして次はマイキーくんの向かいに座る場地さんを指差した。



「んーじゃあ、圭介も」
「ふざけんなよ、姉貴」
「だってドラケンと千冬は絡まれなきゃ静かでしょ」
「ハハッ、確かにな」



俺は場地さんに誘われてここにいる。マイキーくんが腹減ったと言ったのがきっかけでご飯に行くという話になり、場地さんが誘われてそばにいた俺にも声が掛かりここに来た。本当に誘われたから来ただけだけど、今この瞬間は来て良かったと思うしかない。



「千冬、マイキーと圭介がうるさかったら呼んでね」
「あ、はい」
「なんつったよ、姉貴」



名前さんはメニューを回収しながら、最後の一冊、俺の手元にあったメニューを受け取りながら、含み笑いを浮かべつつ小声で耳打ちされる。その言葉は場地さんには聞こえてなかったみたいで、テーブルに肘をつきながら場地さんが聞いてくるけど、名前さんは軽く小さく手を振ってはぐらかして行ってしまった。



「名前さん、ここのファミレスでバイトしてたんすね」


知らなかった、というのも当たり前だ。

俺はまだ名前さんを全然知らない。




「あぁ。今日シフト入ってたのはたまたまだけどなぁ」



場地さんは俺のさりげない呟きだったのに、興味がなさそうにしながらも返してくれる。ドラケンくんとマイキーくんは二人で何か別の話題で盛り上がっていた。その声をBGMにしながらさりげなく店内に視線を送るとまた別のテーブルでお客からのオーダーを受ける名前さん。貼り付けたような笑顔での対応、これもまた俺の知らない名前さんだった。









頼んでいた料理も届いて食事はあっという間に終わっていた。ただ、ダラダラとするこの時間もあと少しで多分お開きになるだろう。そう思っていれば、ふと店内が少しだけざわめいていることに気づく。

ざわめく店内に視線を移せば、名前さんが他のテーブルのお客さんと何やら不穏そうな空気を醸し出す。



「オネーサン、今日のシフト何時まで?」
「どこ高?高校生っしょ」
「あはは…」


名前さんは引き攣りながらも笑顔を浮かべて、テーブルの客の対応をしていた。テーブルには高校生か大学生ぐらいの男たちがいて、ゲラゲラと品のない笑みを浮かべて名前さんのことを足止めしている。大方、テーブルの食器を片付けるよう頼んで呼び出しでもしたのだろう。



「オネーサン、どっかで見たことあんだよね」
「ここで働いてるからですかね」
「いーや、ここじゃなくって地下の箱とか」
「オネーサン、他にも何かやってるっしょ」



男のうちの一人が名前さんの腕を掴む。



「ちょっと、嫌がってるけど」
「あ?」
「…ちふ」
「別に関係ねェだろ〜?俺らオネーサンと話してんの」


気付いたら、名前さんのところに足が動いていた。見下ろすように男たちに眼を飛ばせば案の定男たちも噛み付くような態度を示す。


「はっ、店員さん捕まえて関係ねぇ話してっし。完全に仕事の邪魔してんだろ。おかげで俺らのテーブルで呼んでたのになかなか来てくれねぇんだけど。」



あ、言っておくけどちゃんと追加オーダー頼みたいんで、と名前さんに向かって声をかけておく。大丈夫だよ、という意味も込めて。
それが癪に触ったのか、邪魔が入ったことへのイライラか、とうとう座って見下ろされていたはずの男が名前さんの腕を離して俺の胸ぐらを掴み立ち上がる。



「中坊が偉っそうによぉ…」
「売られたケンカなら俺らも買うぜ」
「ドラケンくん…」



このままここで喧嘩勃発させたりでもしたら、店にも名前さんにも迷惑がかかるけど知ったこっちゃない。売られた喧嘩は買うまでだ、そう思っていたけどいつの間にか俺の後ろにやってきたドラケンくん。男たちはドラケンくんのタッパと雰囲気に蹴落とされて舌打ちをして乱暴に掴んでいた手を離して店を出て行った。



「ドラケンさっすが〜!」
「名前、お前めちゃくちゃ目がマジだったぞ」
「えーそんなことないよ」
「本心は?」
「うっざい」


名前さんは俺たちと一緒にこっちのテーブルまでやってきて、多分消化しきれてない感情を吐露しながら空いた食器を片付け出す。ドラケンくんは名前さんのこいうところを知っていたようだ。呆れたように本音を尋ねると、名前さんはムスッとした表情で小さく呟く。この目は場地さんと同じ眼だ…。



「全くもう、圭介もマイキーもなんで来てくれないの」
「いやいや、俺ら座席奥だし、ケンチンとか行けば充分じゃん」
「姉貴に手ェ出すとか物好きだよなぁ」
「圭介、なんだって?」



マイキーくんはケラケラと笑い、場地さんなんて憐れむような表情でいたために、次は場地さん相手に名前さんがキレそうだった。



「名前、まあ無事で良かったじゃん」
「ほんとだよ…、千冬ありがとね」
「名前さんが無事で良かったっす」



名前さんはさっきまでの表情はなかったかのようにニッコリと笑って奥へ戻ってしまった。名前さんが無事で良かったし、名前さんの力になれて良かった。




けど、名前さんはこうやってバイトをしてるのに俺はできなくて、ただ客として眺めてることしかできない歯痒さを感じさせられた。


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