千冬×場地姉 | ナノ

東京リベンジャーズ

所詮俺は年下扱い



本当にたまたまだった。


「あれ、千冬だ」


辺りはやっと暗くなった空、時間は21時を回っている。突然名前を呼ばれて、視線を向ければそこにいたのは名前さんだった。




「名前さんっ、ちっす…!」
「おつかれ、千冬〜。一人?」
「はいっ」



一気に緊張が走る体。今の俺って、どんなだったっけと自問自答を繰り返すが、今更遅いってこともわかってる。すっげえ適当なジャージにTシャツじゃん…。

対する名前さんは制服姿で夜でも暑い熱帯夜だというのに長い髪を下ろしていた。いつの日か、場地さん家で見た時と同じように制服姿でワイシャツに短めのスカート、前回と違う点を挙げるならリボンをつけていないということだった。首からチェーンが見えて、普段からつけてるのかな、って思った。



「千冬、帰りなら一緒に話しながら帰ろうよ」



暗い夜道、街灯に照らされた名前さんは場地さんといる時とは違う年上のお姉さんって感じの少し余裕を感じられる笑みを浮かべていて、逆に自分の余裕のなさが露骨になった気がする。



「圭介から聞いたんだけど、千冬って猫飼ってるんだっけ」
「うっす。ペケJって名前の猫飼ってます」
「写真ないの?」



名前さんは場地さんと俺の話を本当にしてるんだ、って思った。前に言われたけど、改めて言われると本当だったんだって思うし、例え飼い猫のペケJであっても、場地さん家で俺の話が出ているというのはちょっと気恥ずかしくなる。それを気づかれないように、見透かされないように、と思いながら「ありますよ」なんて平常心を保ちつつ、ポケットに入れていた携帯を取り出して画像フォルダを遡る。

歩きながら携帯をいじってるため、前方への意識は携帯見ている視野から見える程度。さっき携帯画面を見る前に見た景色ではしばらく真っ直ぐの道だから大丈夫だろう、と思いつつ。



「あ、千冬こっち」
「っあ、ざっす」



思ってた矢先、やらかしかけた。携帯をいじっていた俺の腕を軽く引っ張った名前さん。言われて顔を慌ててあげてみれば、電柱に後少しでぶつかりそうだったらしい。携帯いじってるのに夢中でぶつかるとかダサすぎるだろ…。




「千冬、あった?」
「あ、はい。コイツですよ」
「ん〜、あ、かわいいっ、!」



名前さんは多分気にしてないんだろうけど。だって今も俺の携帯に映るペケJを食い入るように見ているし。



「圭介は見たことあるんだよね」
「あ、そうっすね」
「いいな〜…、あたしも千冬の家行きたい」
「えっ」



かと思えば不意を突かれた。聞き間違えじゃなければ名前さんは今、俺の家に来たいと言ったはず。びっくりして横を向けば、名前さんは少しだけムッとした表情でやや上目遣い気味で俺を見ていた。まじかよ…。



「だって、千冬とあたしも同じ団地だから全然アリでしょ?」
「アリって、」



確かに同じ団地っすけど、名前さんは女だし場地さんの姉で、でも純粋にペケJに会いたいと言ってくれてるから、とグルグルと思考回路がフル回転。



「千冬はさ、なんで圭介の傍にいてくれるのかな」



即答もできず、思考回路を働かせても上手い言葉が出なかった俺への気遣いなのか、もう名前さんの中での気が逸れたのかもしれない。気づけば数歩先を歩いていて、俺の位置から名前さんの表情は見えない。けれどしっかりとこの耳には名前さんの声が入ってくる。



「圭介って留年してるし、喧嘩っ早くてバカでしょ」
「場地さんはカッケェっすよ。俺は場地さんのこと、憧れてるんで」



何処がって聞かれたら、強いところとか優しいところとか。俺が初めてついて行きたいと思えた人だ。確かに頭は良くねぇで留年もしてるけど、それがかっこよくない理由にはならない。場地さんは俺がかっこいいと思えるものを持っているから、ただそれだけ。




「そっか…」



って、こんな答えでよかったのかと思っていれば「ありがとう千冬」と言う言葉が届く。



「圭介が千冬のこと気に入ってる理由、わかったかも」



数歩先を進んでいた名前さんは、ふふっと嬉しそうにハニカミながら振り向いた。長い髪がふんわりと靡いて、街頭に照らされてキラキラと光る。



「千冬、ありがと」
「い、いや、俺は別にそんな…!」
「その低姿勢がまた良いね〜」



こういう時の名前さんは俺を年下扱いしてるなって感じる。ふんわりとした笑顔は何処へやら。いつものニッとした笑み。余裕の感じられる名前さんの言葉や仕草が面白くなくて、自分の余裕のなさを改めて実感させられるし、自分がより子供のように感じられて少しだけモヤっとした。





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